電源条件からのデータセンター選び間違いだらけのデータセンター選択(5)(2/2 ページ)

» 2006年11月25日 12時00分 公開
[近藤 邦昭,まほろば工房]
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データセンターの電源設備を知る

 さて、話をデータセンターにおける電源に戻します。混乱を避けるため、電源といった場合にはAC100Vとして話を進めます。

 先ほどもお話ししたように、電源がなくてはネットワーク機器やサーバは動くことができません。ネットワークを正しく維持するためには、電源を適切に供給するということが、何をおいても大命題になります。そこで、データセンターが供給する電源設備の詳細と、その電源を正しく利用するためのポイントについて、今回と次回の2回に分けてお話しします。今回はまずデータセンターの電源設備についてお話しします。

データセンターの電源設備

 データセンターでは、電源を安定的に供給するためにさまざまな対策をして各ラックまで電源を届けています。

 データセンターの建物に電源が入り、各ラックに届くまでは、概ね図のような流れになっています。図では分かりやすくするために主要な機器のみを示していますが、実際はもう少し複雑になります。

 データセンターで供給される電源は、ほとんどの場合、地域電力会社から供給される商用電源を利用しています。日本の電源事情は非常に安定していますから、現在では停電や不安定な電源供給はほとんどありませんが、先日の東京の停電のように万が一ということもあります。

 そこで、いくつかのデータセンターでは、地域の電力会社1系統だけではなく、異なる電力会社から2つめの系統の電源を引き入れています。下の図ではこの様子を示しています。ただし、2つの電力会社から電源を引き入れるには、その地域で2つの電力会社が電源を供給しているかどうかや、建物自体に2つ以上の受電設備を設置できるかなどの大きなハードルがあります。無論、2つ以上の電力会社から受電していることが望ましいわけですが、さまざまな制約からできないことも多いため必須といえる条件ではありません。

ALT 図 データセンター内における電源環境

 電力会社から受電した電源は、いったん受電設備に通されます。一般の家庭では、電柱などから直接AC100Vが供給されているため、そのまま、各部屋のコンセントまで配線すればよいですが、ビルや電力を多用するようなところでは、数千ボルトの高圧電源を引き込んで高圧受電設備で受電し、変電設備で実際に利用するAC100Vまで電圧を落とします。

 変電設備でAC100Vまで落とされた電源は、次に無停電電源設備に通されます。無停電電源設備はいうまでもなく、機器に供給する電源を無停電で供給するための機器で、内部には、蓄電池があり、万が一商用電源が停止した場合でも、内蔵されている蓄電池から電源を一時的に供給できるようになっています。

 しかし、蓄電池が電源を供給できる時間は数分から数十分までしかありません。そこで、より長い間の停電に耐えられるように、多くの場合は予備発電設備を設けています。無停電電源設備では、商用電源が遮断されると、一時的に蓄電池から電源を供給し、その間に予備発電設備を始動させ、予備発電設備の準備が整い次第、電源を予備発電設備からの供給に切り替えます。そして、商用電源からの供給が再開すると、この逆の動作を行って、再び商用電源からの供給に切り替えているのです。

 こうすることによって、各ラックにはたとえ停電が起きても絶え間なく電源が供給できるようになっています。

 データセンターの電源管理の仕事はここまでではありません。もう1つ重要な仕事として、各ラックで電源が正しく使われているかの管理があります。

 各ラックには、通常15Aから30A程度の電力が供給できるように設計されています。配線もこの容量に合わせて設計されています。このため、各ラックで過剰な電流が使われていないか、データセンター全体で過剰な電流が使われていないかを適切に管理しておく必要があるわけです。このため、ラック別にブレーカーを設置してある場合もあります。

電源設備からデータセンターを選ぶ

 データセンターを電源設備の観点で選ぶには、これらの設備がきちんと設置されているかどうかという点と、それぞれの仕様がポイントになります。

 受電設備や変電設備がデータセンター全体の必要とする容量(電流量)を十分カバーしているかということは非常に重要なことですが、データセンターの設計においてここを無視していることは通常ありませんから、この要素はそれほど重要ではありません。

 気をつけるポイントは、万が一の場合の設備で、無停電電源設備と予備発電設備です。データセンターとしての設備が小規模の場合、予備発電設備を設置していないデータセンターが稀にあります。

 このような場合、停電の時に無停電電源設備の蓄電池がどれだけの時間持つかが重要な要素となります。たとえば5分程度だと、ほとんど何もできないままに電源が落ちてしまいますので、あまり役に立ちません。一方、15分や30分と長い場合には、商用電源が遮断されてから、サーバをシャットダウンさせるなどの作業を行えるため、その間に電源が復旧しなくても、機器は保全できます。

 予備発電設備がある場合は、その予備発電設備が何時間駆動できるかがポイントになります。予備発電設備は、ディーゼルエンジンやガスタービンで発電するため、それらを駆動する燃料の量によって駆動時間が異なります。予備電源設備がある場合には、この設備の発電時間は何時間か、また、発電時間が過ぎそうな場合には、追加で燃料の供給ができるような体制が整っているかという点を確認しておく必要があるでしょう。

 各ラックにおいては、正しく電源管理がされているかを確認する必要があります。たとえばブレーカーはラックごとに分かれていて、ほかのラックが電源を過剰に利用した場合でも自分に影響がないように設備が整えられているか。もし、そのような設備がない場合でも各顧客が機器を設置した場合には、逐一電流量を確認して、過剰な機器を設置させないようにマネジメントしているかなどの確認は必要です。

 ただし、予備電源の冗長化構成は、万が一の設備ということもあり、それ相当の費用がかかります。つまり、過剰な冗長設備の敷設の費用はそのままデータセンターの利用料に跳ね返ってきます。

 データセンターを利用する場合には、電源の冗長化構成とその仕様について確認する必要はありますが、設置する設備が要求する仕様とうまくバランスされているかどうかを確認するという程度に考えておくといいでしょう。

 次回は、このようにして各ラックに供給された電源をうまく利用するポイントについてお話しします。

著者紹介

▼著者名 近藤 邦昭(こんどう くにあき)

1970年北海道生まれ。神奈川工科大学・情報工学科修了。1992年に某ソフトハウスに入社、主に通信系ソフトウエアの設計・開発に従事。

1995年ドリーム・トレイン・インターネットに入社し、バックボーンネットワークの設計を行う。

1997年株式会社インターネットイニシアティブに入社、BGP4の監視・運用ツールの作成、新規プロトコル開発を行う。

2002年インテック・ネットコアに入社。2006年独立、現在に至る。

日本ネットワーク・オペレーターズ・グループ(JANOG)の会長も務める 。


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