さて、この定格電力というのはいったい何でしょうか? 一言でいってしまうと、「メーカーが定める当該機器の最高電力」ということができます。
つまり、各機器を使用する上で計算上必要とされる最大の必要電力ということになります。乱暴ないい方をすれば、そのような電力を使うことはほとんどありません。例えば、機器にオプションを最大限に積み込んで、メモリ満載、ハードディスクドライブ満載でフル回転、ファンもフル回転、通信も回線容量目いっぱい使っていて、さらに、CDドライブなどもガンガン回っていて…、という状況が同時に起きて初めてこの最大電力が発生するかしないかというレベルの値です。
では、実際に必要な電力をどのようにすれば計算できるのでしょうか?
実は、実際に運用上必要な値を計算で導き出すことはほぼ不可能です。ただし、一般的に機器類は、電源を投入した直後にファンを最大限に回してから安定動作に移ったり、ハードディスクの回転を上げるために電力を使ったりするため、通常時と比較して電源投入直後により多くの電力を利用します。この電源投入直後の電力のことを突入電力と呼ぶこともあります。一方、安定動作に移った機器は、一般的に非常に少ない電力で動作します。
必要電力に関する調査結果を掲載したあるホワイトペーパーには、安定動作時の機器の必要電力は、多くの場合、定格電力の30〜40%だったと書かれています。私の経験上もこれくらいの値になります。
問題は、突入電力をどれくらいの値で計算するかです。これは、機器によって相当異なります。いずれにせよ、この突入電力さえうまく回避できれば、安定電力でラック全体の電力を計算できるということになります。
そのためにはどうすればよいか? 答えは簡単です。
ラックに詰め込んでいる機器の電源を一斉に投入しないことです。1つずつ順番に時間をおいて電源を投入しさえすれば、突入電力はそれほど問題になりません。
ただし、これを実際に手動で行うことは非常に大変です。一般的に、電源が一斉に落ちた直後、つまり、停電やブレーカーによる電力断の後は、電力回復と同時に一斉に機器が立ち上がりますので、突入電力による電力のオーバーフローが発生します。しかし、このような状況で運用者がデータセンターで待機することはかなり難しいといえるでしょう。そこで、電力制御装置を用意しておくことでこれらの問題を回避します。
電力制御装置は、電源タップのような形状をしていますが、シリアルポートなどで個々の電源ポートにおける電源の入/切を制御できる装置ですが、電源回復直後には、数秒おきに順次機器の電源を投入する機能を持っているものがあります。これにより、自動的に突入電力を抑えることができます。特に、ラックの限界容量に近い電力を使用している読者には導入を勧めたい機器です。
さて、ここまでのおさらいとして、先ほどの機器A、B、Cで安定運用時の合計電力をもう1回計算してみましょう。条件は以下のとおり同じです。
入力電圧 | 定格電力 | 有効電力 | |
---|---|---|---|
機器A | 100V | 500W | 7.1A |
機器B | 100V | 10A | 10A |
機器C | 100V | 200VA | 2A |
安定動作時の必要電力は、概ね30〜40%ということだったので、ここでは、多めに40%で計算します。すると
機器A:7.1A ×0.4 = 2.84A
機器B:10A ×0.4 = 4A
機器C:2A ×0.4 = 0.8A
で、合計 7.64Aとなります。
ただし、これは計算上の必要電力です。データセンターに導入する機器の電力をあらかじめ計算するのには非常に役に立ちますが、導入後は、実際の電力を実際に測定することを忘れないでください。
電力の測定装置は、データセンターで貸してくれるところもありますし、今では、電源プラグに挿すだけで簡単に測定できる機器も販売されていますので、こうした機器を購入することもお勧めします。
さて、最後に冗長電源がある場合の電力の考え方です。
データセンターによっては、系の異なる2つの電源がラックに引き込まれている場合があると以前に説明しました。しかしこの場合、例えば1ラック当たりの電源容量を30Aとした場合、両方の系を合わせると60Aまで電源が使える、と考えるのは間違いです。
電源が足りなくなると使いたくなるのは、人間心理として非常によく分かります。しかし、このように2つの系で電源が供給されている場合は、どちらかが主電源で、もう1つはバックアップ電源です。
では、これはどのように使うのでしょうか?
まず、電源が1つしかない機器の場合は、すべて主電源系に接続します。少し大きめの機器になると、冗長電源も含めて電源が2つ付いている場合があります。この場合、片方を主電源系、もう片方をバックアップ電源系に接続します。
接続はこれで基本的に問題ありません。
ただし、総電力量の計算には注意してください。冗長電源が付いている機器の場合、主電源系からの電力とバックアップ電源系からの電力を平均化して使用していることがあります。すると、すべてが正常に稼働している状態では、主電源系から得ている電力は半分となります。つまり、その機器全体として必要な電力を主電源系から半分、バックアップ電源系から半分という具合に得ているのです。
このため、主電源とバックアップ電源の2つの系で電力を利用している場合のラックでの総電力は、主電源系とバックアップ電源系の両系統での利用電力の合計となります。
「まぁ、使えるんだから、かたいこといわずに…」と思う読者もいらっしゃるかもしれません。しかし、電力は熱問題と直結し、不用意な電力使用は思わぬ熱問題を引き起こします。
次回は、この熱に関する問題について取り上げます。
▼著者名 近藤 邦昭(こんどう くにあき)
1970年北海道生まれ。神奈川工科大学・情報工学科修了。1992年に某ソフトハウスに入社、主に通信系ソフトウエアの設計・開発に従事。
1995年ドリーム・トレイン・インターネットに入社し、バックボーンネットワークの設計を行う。
1997年株式会社インターネットイニシアティブに入社、BGP4の監視・運用ツールの作成、新規プロトコル開発を行う。
2002年インテック・ネットコアに入社。2006年独立、現在に至る。
日本ネットワーク・オペレーターズ・グループ(JANOG)の会長も務める 。
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