IT部門が頼りなくなった原因はなんだ?システム部門Q&A(37)(2/3 ページ)

» 2007年01月11日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]

ユーザーも環境変化に対応できていない

 自信がないのはIT部門だけでなく、ユーザーも同じような状態であり、IT部門に代わってリーダーシップを取る部門が存在しないのです。

ユーザーすら、自分たちのニーズが分からなくなっている

 IT部門やベンダは、「ユーザーがいつになってもニーズを決められない」「人によって意見が違う」「後になってから新しい要求や要求変更が出てくる」といってユーザーを非難しますが、実はユーザーである業務部門でさえも自分たちのニーズが分からないのです。

 オンライン受注や自社カードの発行、Web販売などで成果を上げる手段や、その成果について明確に示すこと、それを実現する過程でどのような問題が発生するかを事前に示すことは、ユーザーにもできないのです。

○思っていることを表現できないユーザーたち

 IT部門はコミュニケーションが下手だといわれますが、それはユーザーも同じです。自分の思っていることを人に説明するのは難しいし、しかも、IT化のように体系的・論理的に表現するのはもっと難しいことです。

 しかも従来ならば、IT部門が業務を理解していたので、ユーザーの説明が不十分でもよかったし、IT部門は自分の知らないことやユーザーの特殊なニーズだけを聞き出して、既存の体系に組み込めばよかったのです。ところが、現在ではIT部門が理解している業務の部分が少ないのですから、説明も困難だし、適切な質問もできないのです。

○ITシステムへ何を要求すればよいのかが分からない

 流通システムを例にしましょう。昔ならば、何を、いつ、どこからどこへ、どれだけ、どのような手段で運んだかの実績を把握できれば十分でした。それならば、要求すべきことも明確ですし、理解も簡単です。

 ところが現在では、流通コストの低減が目的になります。解決すべき課題は明白なのですが、そのために、どのような情報システムがあればよいのかが分からないのです。それで「例えば、取引ごとに運賃を含めた粗利益を知りたい」や「例えば、自社配送と客先配送の差異を出したい」といった例示的な要求になります。

 課題の解決方法は多様であり不明確なのですから、人により例示が違うのは当然です。これらの例示を集めても、真のニーズは分かりませんし、中には矛盾もあるでしょう。

○そもそも、将来のことは誰にも分からない

 経営環境は激変しているのに、情報システムの寿命は5〜10年程度を期待しています。たとえ現在のニーズが明確になったとしても、システムが稼働した後の時点では、現在とまったく異なることがニーズとして出現するのは、むしろ当然でしょう。「現在のニーズに忠実なシステムほど、将来の新ニーズへの対応が困難になる」というパラドックスが生じることすらあります。

ユーザーにIT関連知識が必要になった

 単なるIT化ではなく、業務革新プロジェクトの主要な要素としてのIT化が多くなりました。このようなプロジェクトでは、情報システムを開発すること以外の非IT活動が、情報システム開発やプロジェクト成功に大きな影響を与えます。そして、ユーザーにもプロジェクトマネジメントや情報システム開発の手順などの知識が求められます。

 ところがユーザーは、このようなことの重要性に気付いていないし、教育訓練も受けていません。これが「後になってから新しい要求や要求変更が出てくる」原因になるのです。

○非IT活動が重要になった

 自社カードシステムを例にします。目的は顧客の囲い込みと顧客情報を活用したマーケティング戦略の改革です。

 社内外にカード発行を宣言したのですが、ニーズが固まりません。そこで、見切り発車で開発に着手しました。ところがカード加入者が少なく、カード特典が必要だということで、多くのオプションが追加されました。また、カード取扱店の加入が進まないので、その対策として、システムから多様な情報提供をすることにしました。

 このような経緯で、システム仕様は計画時とは大きく変わっています。従って、IT部門は実施時期の延期を提案したのですが、社外に発表した内容を変更できないと却下されました。そのしわ寄せがテスト段階の手抜きとなり、当然のように実施直後にトラブルが続出しました。しかも、カード加入者獲得の段階において、顧客情報の記入が加入をためらわせる理由になるとの指摘により、記入部分を大幅にカットしたので、マーケティングに有用な顧客情報活用は放棄しました……。

 このように、非IT活動がIT化に大きな影響を与えること、プロジェクトの成否を左右することが分かります。

○ユーザーにプロジェクトマネジメントの知識がない

 IT化がそれだけで存在するのではなく、IT化は業務改革プロジェクトの大きな要素の1つにすぎません。ですから、全体のプロジェクトを適切にマネジメントしないと、プロジェクトは成功しません。

 ところが、建設部門や製造部門以外では、プロジェクトマネジメントの概念すら知られていないし、その知識スキルを持った人はまれです。そのような状況では、非IT活動が行き当たりばったりの行動になるので、前述のカードシステムのような結果になるのです。

○ユーザーに情報システム開発の知識がない

 ユーザーの要求が多様化してくると、開発する情報システムの規模が大きくなりますが、それに要する開発工数は指数的に増大します。このことをユーザーが知らないと、過大な要求になりがちです。また、どのような機能を加えると情報システムの開発工数に大きな影響を与えるのかについて、ユーザーが理解していることが必要になります。

 情報システム開発では、後工程になってから前工程に手戻りすると、多大な費用や工数が掛かります。ユーザーもそれは漠然と理解しているのですが、その影響が非常に大きいことは知りません。ましてや、手戻りを繰り返すうちに、情報システムが複雑になり、保守改訂がやりにくくなることまでは、当然理解していないのです。

 さらに困ったことに、ユーザーはプロジェクトマネジメントや情報システム開発の知識が重要なことに気付いていないのです。自信をなくしたとはいえ、企業の中ではIT部門がこの点の必要性を最も感じていますし、相対的にはスキルも高い状況です。それなので、何となくIT部門が責任を負わされることになるのです。

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