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» 2007年08月02日 12時00分 公開

顧客のたらい回しをなくすために顧客指向開発のすすめ(5)(1/2 ページ)

サービスとは、「ティッシュ」や「携帯電話のストラップ」などを配ることではない。いかに要望を満たすか、いかに利便性を提供するか、どのようにコンサルティングニーズを満たすかといったカスタマー・エクスペリエンスの観点を考えるべきものである。

[營田(つくた)茂生,日立ソフトウェアエンジニアリング]

売れ行きを左右するもの

 現代は製品・サービスがなかなか売れない時代である。同じ分野にさまざまな企業が参入し、多くの製品・サービスが投入されていて、市場の競合は厳しい。

 製品の機能差、価格差、デザインの違いなどがあまりないのに、売れ行きに大きく差が付く場合がある。同様に、同じようなサービス内容であるにもかかわらず、他事業者と比べて売り上げに大きく差が付く場合もある。

 これは開発者側・提供者側の大きなよりどころである、「製品が良ければ必ず売れる」という考え方が誤りであるという証拠である。ここから分かることは、「よく売れるかどうかは、製品・サービス内容の表面的なスペックの優劣ではない」ということになる。

 では、売れ行きを左右する要因はどこにあるのか?

 その1つ目は、顧客がグッド・カスタマー・エクスペリエンス(良好な商品/サービスの経験)を得たのか、バッド・カスタマー・エクスペリエンス(不満の残る商品/サービスの経験)を得てしまったのかの違いである。

 2つ目は、立地条件などの比較優位によるものである。例えば、どんなに安くておいしいイタリア料理店であっても、ジェノバにあるのでは常用するわけにはいかない。近場のお店の中で選択することになる。

 今回は、グッド・カスタマー・エクスペリエンスを生むチャネル間連携を中心に述べていく。これを読んでいる読者の皆さんが、自らが「お客さん」としての立場であるとき、「どのように商品やサービスを提供されたいのか」を思い描きながら読んでいただければ理解しやすいように進めていきたい。

チャネル・インテグレートの実現

 あなたは、たらい回しにされた経験はお持ちではないだろうか? また、そのたらい回しされている間に、それぞれ相手のいうことが違っていて、何が正解なのか分からないという状態に置かれたことはないだろうか? さらに、そのたらい回しされている間に、相手の都合に合わせさせられている自分に気付くことはないだろうか? 同じことを何度も説明させられた経験はないだろうか?

 実はこのような扱いをすることが、顧客を効率よく失うための最も効果的なやり方である。

 上のような扱いをする企業にとっても、それぞれの応対者は規定どおりの対応をしているだけかもしれない。特定の対応者固有の問題ではないとすると、何が課題なのだろうか?

 多くの企業では、複数の顧客接点(チャネル)を持っているにもかかわらず、統合管理(チャネル・インテグレート)が考慮されていない。営業店は昔ながらの組織として管理されている半面、コールセンタ、Web、メール等のチャネルは別の組織体として考えられており、統一した行動を取ることが難しい。

 チャネル・インテグレートを実現するためには、どのチャネルからも同一のメッセージが発信されるように設計されていなければならない。そのためには、図1に示すメッセージの制御、マルチ・チャネル・デリバリについて設計し、企業組織・教育およびITで実装されている必要がある。

ALT 図1 チャネル・インテグレートを実現させるために……

 チャネル間の情報連携については、連載第3回「ナレッジマネジメントのIT化と家族経営の八百屋」と、連載第4回「“経営者の視点”で考えるアーキテクチャ」で述べた。チャネル間の情報連携を除いたチャネル・インテグレートの実現について、次項以降に示す。

顧客の特性

 投下できるリソース(ヒト・モノ・カネ)には上限がある。その制約の中で、より優れたカスタマー・エクスペリエンスを生み出す仕掛けについて考えてみたい。

 世の中に存在するさまざまな「セルフサービス」が1つのヒントである。ファスト・フード、ガソリンスタンドやネット・ショッピング・サイトなど、商品とサービスがセットで提供される場所では、1つの選択として「セルフ」が存在する。ファスト・フードであれば、商品を受け取った後自分で席を探し、食事が終わった後は自分で片付けまでを行う。ガソリンスタンドであれば、自分で給油・自分で精算という部分が「セルフ」である。セルフサービスではない店では、それぞれが有償・無償は別としてサービスとして提供されている。

 ここに顧客の選択が隠されている。

 セルフサービスの店を選ぶ場合、価格だけが選択理由ではない。短時間が選択理由だったり、逆に長時間滞在しやすいことが選択理由だったり、自分の好みを反映しやすいことが選択理由だったりする。しかも、同じ人間が毎回同じ選択をするわけではない。同じ人間であってもそのときの気分や、状況に応じて「セルフ」を選択することもあれば、「非セルフ=提供者側のサービス」を選択することもある。

 顧客がさまざまな選択を行うことを考えるうえで分かりやすく整理したい。ここで、考えやすくするため、顧客特性の変数を下記の表に示す。

変数 特徴 解決手段の代表例
来店時間 ・顧客がサービスを欲する時間は一律ではない
・企業にとって都合のよい時間帯とは限らない
・顧客ニーズは顧客自身も予想できないこともある
・予約制
・待ち行列理論
要望 ・サービスメニューにないものが要望されうる ・標準メニューのみの対応
・特別対応
顧客の能力 ・顧客の知識、スキル、身体能力、手持ち資源などの違い ・スタッフが肩代わりする
顧客の労力 ・顧客がサービス・プロセスに一役買う場合、どの程度の労力を割くかは人それぞれである ・アメとムチ(顧客自身に処理してもらう)
個人的な嗜好 ・フレンドリーさを好む顧客もいれば、フレンドリーさをなれなれしいと感じる顧客もいる ・顧客の期待を分析し、それに応じられるスタッフを配置する

 の5種類の変数は、サービス・プロセスの順に表れることが多く、1つずつ処理可能である。顧客は来店し、注文し、自分の能力(習熟度)と労力を用いて何らかの役割を果たし、最後にその過程をカスタマー・エクスペリエンスとして主観的に評価する。どの段階においても変数は少なければ少ないほど、サービスの質と効率の両立が容易となる。

 サービスを提供する過程でオペレーションに問題が発生する場合の多くは、顧客特性の変数によるものである。ここでカスタマー・エクスペリエンスを重視する企業はその変数を受け入れることが多い。一方、低コストを重視する企業は変数を受け入れないことが多い。

 従来の考え方では、変数を受け入れない「限定戦略(皆さま同じです戦略)」および変数を許容する「許容戦略(お客さまには特別に対応します戦略)」のいずれかである。これは、言い換えると、コストか質かということに帰結する。

 しかし、単純なコストか質かという二元論ではなく、顧客のカスタマー・エクスペリエンスを損なわずに変数を限定したり、オペレーションを混乱させずに一定量の変数を許容したりするという方法もある。

ALT 図2 コストか質かという二元論ではなく……

 「質を維持した限定戦略」では、顧客の個人的な嗜好(しこう)という変数に対応する。そのためには、同じ嗜好の顧客に絞ればよい。ターゲットを絞ることは難しいが、顧客に妥協や譲歩を求める必要がないという利点がある。

 「低コストの許容戦略」では、来店時間と要望という変数に対応する。顧客の能力や顧客の労力という変数も許容されることから、カスタマー・エクスペリエンスも人それぞれとなる。

 製品に対するカスタマー・エクスペリエンスと、チャネルにおけるカスタマー・エクスペリエンスの大きな違いは、顧客がオペレーションの中で一定の役割を果たす点である。顧客によって生じる変数をうまく処理することによって、カスタマー・エクスペリエンスも向上する。これには顧客行動のメカニズム(何を選択するのか、どのように行動するのか)を見抜き、ビジネスモデルに反映していく必要がある。

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