営業や経理職への“無条件の信頼”が危ないビジネスに差がつく防犯技術(3)(2/2 ページ)

» 2007年11月21日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]
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社員に対するよりも甘い委託先への管理

 “過剰な信用・信頼が危険である”という意味では、社員以上に業務委託先の方が問題だ。

 委託先管理は日本版SOX法でも重視されているように、委託範囲や度合いが不明確なままになっていないかが懸念される。強固な情報セキュリティ対策を自慢する企業に限って、サーバやネットワークの管理といった重要業務を委託先に任せっぱなしにしている。

 社員に対しては厳しいルール順守を強制し、教育や監査も実施しているのに、同じ社屋で仕事をしている委託先に対しては、監督責任すらはっきりしないことが少なくないなのだ。「家政婦は見た」という人気テレビドラマがあるが、実社会においても委託業者や派遣社員、パート、アルバイトに対して簡単に機密情報を触らせたり、社内事情をぺらぺらしゃべってしまう場面はさほど珍しくないように思う。

委託先の仕事も顧客から見れば委託元と同じもの

 委託した仕事だからといって、委託先に責任を問えば済む話ではない。顧客企業から見れば委託先に出された仕事でも、その企業に責任があることに変わりはない。

 むしろ、受注した仕事を無責任に外注していたともなれば、その責任は重い。自社の中で社員に対して行う監督ですら大変なのに、外部の会社で不祥事が起こらないように監督するというのは簡単な話ではない。責任は重くかつ監督することが難しいのが業務委託なのだ。

 製造業でもソフトウェア開発でも外注先への委託は、子会社、孫受け会社、ひ孫受け会社……へと、どんどん連鎖していく。最終的な下請先が、町工場やSOHOのような零細企業であることも珍しいことではない。外注連鎖の中でしっかりと監督責任も連鎖させることができる委託先を選定することが、何より大事なことである。

不正の放置もまた不正そのものだ

 忙しさを言い訳にして監督責任を投げ出していないだろうか。

 取締役には、従業員が危険な取引を行わないように注意する義務がある。また、ほかの取締役が「適法かつ適切に任務を遂行しているか」についての忠実(監視)義務もある。「従業員やほかの取締役が勝手にやったこと」では済まされないのだ。

 これらの義務を怠ると、その結果、会社に与えた損害を賠償しなければならなくなる。特に、会社法上で要求されているコンプライアンス(法令順守)への責任は重く、会社法だけでなく民法や刑法といった一般法令はもちろんのこと、個人情報保護法や製造物責任法、食品衛生法など、事業に関連する法令をすべて順守し、従業員すべてに徹底させなければならないのだ。

コンプライアンス徹底のための仕組み作りも経営者責任

 会社法では、取締役に対して善管注意義務と忠実義務だけでなく、不祥事を起こさないようにするための内部統制システムの構築も義務付け(後述の制限あり)ている。

 取締役が善管注意義務や忠実義務を果たそうとしても、企業規模が大きくなればなるほど、常時、目を光らせているわけにはいかなくなる。善管注意義務と忠実義務を有効に果たそうとすれば、どうしても内部統制システムを構築することが避けられなくなってくるのである。

大企業でなければ内部統制システム構築義務はないのか

 会社(資本金が5億円以上または、負債の合計が200億円以上の会社)や委員会設置会社では、内部統制システムの構築に関する決定が義務付けられている。

 しかし、先に述べたように、実際には取締役が1人1人の従業員の活動を監督するというのが現実的に困難であることを考えれば、従業員が数名程度の企業規模でない限り、ほとんどの企業において、内部統制システムの構築が不可欠になるだろう。

 取締役が、従業員やほかの取締役の行動をいちいち見ていられないのであれば、内部統制システムの構築そのものが、取締役の善管注意義務、忠実義務に当たるのである。

次回予告

 今回は不正の防止、コンプライアンスの徹底のためには、取締役の善管注意義務と忠実義務に対する認識が不可欠であり、そして、その実施においては内部統制システムの構築が避けられないことについて述べた。

 次回は、内部統制システムの構築に向けて、何をしなければならないのか、何をしてはいけないのかということについて探ってみることにする。

 内部統制システムの構築の目的は決して、3点セット(業務フロー、業務記述書、RCM)を作成することでもなければ、規定類の整備でもない。それは単なる道具であり作業にすぎない。不正確な意味合いで議論されることの多いリスクアプローチについて、防犯の技術の観点から説明させていただく。

筆者プロフィール

杉浦 司(すぎうら つかさ)

杉浦システムコンサルティング,Inc 代表取締役

京都生まれ。

  • 立命館大学経済学部・法学部卒業
  • 関西学院大学大学院商学研究科修了

京都府警で情報システム開発、ハイテク犯罪捜査支援などに従事。退職後、大和総研を経て独立。ファーストリテイリング、ソフトバンクなど、システム、マーケティングコンサルティング実績多数。


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