仮想テープライブラリは忘れられた選択肢?これなら分かるストレージのキーワード(3)(3/3 ページ)

» 2008年01月21日 12時00分 公開
[阿部 恵史、瀧川 大爾(日本ネットワーク・アプライアンス株式会社),@IT]
前のページへ 1|2|3       

VTLの最大の利点とは

 VTLの最大の利点は、すでに導入されているバックアップソフトウェアやその運用プロセスを変更することなく、高速で信頼性の高いD2Dバックアップシステム環境を構築できる点にある。また、既存のテープストレージをオフサイトストレージとして利用し、VTLをバックアップアプリケーションとテープライブラリの中間に挿入することで、従来のテープライブラリを補完した高速なバックアップと障害や災害への対策が可能なDisk to Disk to Tape(D2D2T)の統合バックアップ環境の構築も可能になる。

ALT 図2 VTLをテープライブラリと共存させる導入構成例

1. バックアップの規定時間内での確実な取得

多くのユーザーではバックアップ取得のための時間は限られており、取得対象データの多様化・大容量化に伴い、規定時間内のバックアップ取得が深刻な問題となってきている。しかし、一般にテープライブラリはテープドライブの故障だけでなく、テープメディア自体の不良などによりバックアップ中に障害が発生しがちだ。こうした場合、取得対象データによってはその時点での再取得実行が時間的な制約から不可能となることが考えられる。

しかし、VTLの場合はRAIDシステムにデータをバックアップするため、ディスク単体に障害が発生しても、システムとしての稼働が担保されている。加えて、バックアップアプリケーションが認識しているテープライブラリ、テープドライブ、テープを装填するためのロボットなどは、すべて仮想的なものであるため、メカニカルトラブルと物理テープの不良によるバックアッププロセスの中断というリスクを一切排除することが可能となる。つまり、運用管理者にとって、当該時点で取得しなければならないデータのバックアップが保障されることになる。

2. テープストレージ統合による運用コストの削減

VTLをテープライブラリと完全に置き換えるかどうかにかかわらず、VTLを導入することで管理対象となるテープライブラリやメディアの本数を削減することが可能となる。例えば、10年保管の対象となるようなメディアは別として、日次・週次・月次といった比較的短期・中期のサイクルで使用するメディアなどはすべてVTLに集約することが可能となる。また、複数のテープライブラリシステムやテープドライブを使用しているケースでも、諸条件を考慮した上で1台のVTLに集約・統合することが可能となる。

ネットアップの「NearStore VTL1400」という最上位機種の場合、最大で512の仮想テープライブラリ、3000台の仮想テープドライブ、2万本のテープカートリッジをVTL上に定義することができる。つまり、これまで物理的に複数台使用していたテープライブラリを1台のVTLに集約しながらも、サーバOSやバックアップアプリケーションからは、なんら変更がない状態に見せることができるため、テープストレージ統合による運用コストの削減と管理のしやすさを実現し、既存の管理環境や運用プロセスに影響を与えずに済むのである。

3. バックアップ・リカバリ時間の短縮

VTLは、バックアップアプリケーションにとってはテープに対してデータを書き込み/読み出ししているように見えるが、実際には複数のディスクで構成されたRAIDボリュームに書き込み/読み出しを行っている。従って、RAIDボリューム構成しているディスク数分だけI/O負荷が分散されパフォーマンスが向上する。ネットアップのNearStore VTLなどの場合、エミュレートするテープドライブが備えているデータ圧縮機能をハードウェアで備えているため、さらにスループットの向上が期待できる。

 しかし、こうした利点がある一方で、実際にVTLを導入することによるシステム導入・運用コストの増大という懸念も考えられる。確かに、既存のテープライブラリをすべて置き換えることなくVTLを導入した場合、その導入コストや保管対象データの増加に伴う機器増設コスト、導入に伴うファシリティ関連コスト(電気、空調、設置場所)、運用関連コスト(保守費用、IT管理者の教育コストなど)は純増となる。また、コスト以外の懸念として、テープストレージ統合により、バックアップストリームの集中によるパフォーマンスダウンなども考えられるだろう。

 確かに、状況によってはこうしたコスト増によりすぐには導入効果が表れない場合も考えられるが、適切な導入計画を検討した上で採用した場合、新規導入コストと運用コストを相殺できるだけのテープストレージ統合によるコスト削減が期待できる場合が多い。さらに、保管対象データの増加に対しても、データの重複排除機能を実装することで対応することができる。日次で差分バックアップを取得する場合、例えばファイルレベルで差分のあったものを取得したとしても、各日次バックアップの当該ファイルの中には、変更があったデータブロック以外は同一データであることが考えられる。こうした同一の重複データをデータブロックレベルで検出し、同一内容のデータブロックの重複を排除することで、ディスク利用率を向上させディスク増設の必要性を極小化することができる。つまり、コスト増がほとんどない上でテープバックアップによるリスクを排除し、高速・高信頼性のバックアップ・リカバリシステム環境を実現することができるのである。

 また、テープストレージ統合によるパフォーマンス低下についても、それを解消するための機能実装がVTLに施されている場合がある。例えばNearStore VTL1400の場合、最大で32ポートのファイバチャネルを同時に利用可能であり、また、バックアップ実行時にVTL上の特定のボリュームに負荷がかかるのを避けるため、大量のデータストリームの複数チャネルからの同時アクセスが発生したときには、自動的に負荷分散を行い、その状況下において最大限のパフォーマンスを確保できるような機能を備えている。

VTLの導入検討に当たって

 VTLによるバックアップシステムの効果の最大化には、前提条件が存在する。もちろん、その条件はユーザーごとに異なるため、どのユーザーにも必ず当てはまるというものではないが、欧米市場で拡大している利用方法から推察すると、以下のような条件を備えていれば効果が得やすいのではと考えられる。

  • 大規模バックアップ環境(大量のバックアップ対象データが存在)
  • 既存テープライブラリとの併用(既存資産の活用)
  • 短期・中期のバックアップ・リカバリの対象となるデータはVTLに集約
  • 複数のバックアップストリームの同時実行が必要

 企業の経営活動を支える情報を格納するストレージの信頼性を高めるデータ保護への取り組みは不可欠である。データ保護への要求要件が多様かつ複雑になり、より厳しい要求レベルとなっていくなかで、既存資産であるテープバックアップシステム環境と運用プロセスに大きな変更を加えることなく、D2Dバックアップ・リカバリの利点を享受できるVTLデータ保護ソリューションの導入を、ぜひ検討してみていただきたい。

著者紹介

▼著者名 阿部 恵史(あべ よしふみ)

日本ネットワーク・アプライアンス株式会社 マーケティング部 部長。

製造系企業の情報システム販社、外資系ITベンダーなどを経て2007年8月より現職。その間、企業の基幹系システムの設計・開発・導入、インターネットTV開発、UNIX系ハイエンドサーバ、クラスタシステムの導入コンサルティングなどを経験し、2002年よりマーケティング職に転身。現在もデータセンターインフラの仮想化・自動化およびグリッドソリューションを担当。

▼瀧川 大爾(たきがわ たいじ)

日本ネットワーク・アプライアンス株式会社 マーケティング部 プロダクトマーケティング担当マネージャ。

外資系製品開発メーカーにて主にI/O、RAID、ストレージ・サブシステム 関係のハードウェア製品マーケティング担当業務に従事。2005年に日本ネットワーク・アプライアンスに入社後、セキュリティアプライアンスおよびストレージハードウェア全般についしてプロダクトマーケティングを担当 。


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ