欧米では急速に普及しているにもかかわらず、国内ではあまり注目されてないバックアップ製品分野の1つに仮想テープライブラリがある。これは本当に、注目に値しないものなのだろうか。
内部統制環境の整備やコンプライアンス対応、事業継続性の確保、環境保護などの観点から、データ保護の対象とすべきデータの多様化や大容量化、保管期間の長期化が求められる一方で、ストレージシステムの利用効率向上やコスト削減効果も同時に求められており、データ保護の重要性と要件の厳しさは増加するばかりである。
こうしたなか、これまでのテープストレージ主体のバックアップ・リカバリ方法とは異なるソリューションが、ここ数年の間に各ベンダから提供され始めており、とりわけディスクベースのバックアップ・リカバリソリューションの採用が進んでいる。
IDC Japanの市場調査資料、「IDC #J7400307, Volume: 1, Tab: Markets Japan Storage Systems」によると、2006 年の国内テープストレージ(テープドライブとテープオートメーションの合計)の売り上げは、前年比4.8%減の552 億7200 万円。テープドライブは6 年連続、テープオートメーションは5 年連続のマイナス成長となり、2006 年〜2011 年の国内テープドライブのCAGR (年平均成長率)は売り上げでマイナス3.6%、出荷台数でマイナス5.4%と予測されている。
これは、前述のようなデータ保護に要求されるサービスレベルやデータの多様化・大容量化という背景から、ユーザー企業においてこれまでのバックアップシステムを見直す時期がきており、バックアップ・リカバリの主役を担ってきたテープストレージは、徐々にその役割を、Disk to Disk(ディスク・ツー・ディスク:以下D2D)を中心とした他のバックアップソリューションに譲りつつあるためと考えられる。
D2Dバックアップソリューションは、これまでのようにデータをテープに保管するのではなく、信頼性が高く高速アクセスが可能なディスクストレージにバックアップするというものである。これにより、従来のテープライブラリを利用したバックアップ・リカバリと比較して、バックアッププロセス中のメカニカルトラブルやメディア不良などによってバックアップが完了できないリスクを排除するとともに、テープメディアの保管コストなどの削減効果も期待できる。
また、D2Dという構成を利用する点から、その一形式として考えることもできるContinuous Data Protection(継続的データ保護:以下CDP)というデータ保護ソリューションも取り上げられることが多くなった。しかしいわゆるD2Dバックアップが目的とするところのデータ保護とCDPのそれとはまったく異なるため、両者は従来のバックアップという目標を達成するための異なる選択肢という位置付けではなく、大きな意味でのデータ保護環境を実現するための相互補完的なデータ保護ソリューションという位置付けが正しい。
従来のバックアップ(テープであれD2Dであれ)は、ある一定の間隔を置いてデータのバックアップを取得し、本番環境のデータに問題があった場合のリカバリの元データとする目的と、中・長期的なデータの保管という2つの大きな目的を持っている。
一方、CDPは本稼働データに問題があった場合、即座に復旧させることを目的としたもので、その仕組み上、従来のバックアップ・リカバリソリューションと比較して、あらゆる時点のデータをリカバリすることができ、Recovery Point Objective(目標復旧時点:以下RPO) を限りなくゼロに近づけることができる。また、Recovery Time Objective(目標復旧時間)も他のデータ保護技術より大幅に短縮できる。
CDPでは、ある時点のデータのフルコピーを用意した後、コピー元のデータが変更されるたびにすべてトラッキングして、変更履歴を秒単位で記録していくことになる。それゆえに前述のような利点はあるが、常にデータの変更履歴をジャーナルとして保持しておくということは、CDP用に大容量のストレージを用意する必要があり、しかもその容量は当該データの保管期限が来るまで増え続けることになる。従って、数週間前の状態に戻すといった、RPOが長期間にわたる作業には不向きであり、まして情報開示の必要に迫られ1年前のデータをリストアするといった目的に使用するのは非現実的といわざるを得ない。
このように、データ保護を実現するアプローチは1つではないが、今後のデータ保護における課題を解決する新たな選択肢として、もっと注目されてよいバックアップソリューションが、仮想テープライブラリ(Virtual Tape Library: 以下VTL)によるバックアップシステム環境の再構築である。
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