気安くバグって言うな! 妥協とプライドのはざまで目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(16)(2/4 ページ)

» 2008年03月04日 12時00分 公開
[三木裕美子(シスアド達人倶楽部),@IT]

現業もやりながら進めないといけない難しさ

 システムテストが進む一方で、坂口には気掛かりなことがあった。もはやすっかり配送センターに溶け込んだ伊東から、現場サイドでの準備状況が思わしくないという話を耳にしていたのだ。

 今回の新システムでは大幅な業務プロセスの見直しを伴わないとはいえ、新システムに対応した業務への準備やシステム切り替え時の対応など、現場での準備も必要である。伊東に任せているとはいえ、やはりまだまだ不安は大きい。

坂口 「(ちょっと様子を聞いておこう)」

 受話器を取ると岸谷の内線番号をプッシュした。

坂口 「岸谷さん、坂口です」

岸谷 「よう、坂口。あの伊東ってやつ、みっちりしごいてやったからな」

坂口 「ハハハハハ……。本人も結構楽しんでいたみたいですよ」

岸谷 「そうか、じゃまだまだいけるってことだな。で、今日はなんだ? といってもおまえからの電話じゃプロジェクトの件だよな?」

 坂口は新システムのリリースに向けた、現場の準備状況が思わしくないことを懸念していることを伝えた。

岸谷 「うん。お前の心配は当たっているだろうな……。でもうちよりは、製造部の方が大変だぞ」

坂口 「藤木さんのところですか?」

岸谷 「あぁ。なんせ最初にリリースする生産管理システムは製造部がキーだからな。あそこは実質的に、藤木が1人でドライブを利かせているようなもんだし」

 確かに今回、先行リリースする部分は藤木の部署がキーになる。伊東を配送センターにつけることで多少の安心をしていたのは、藤木に対する坂口の信頼であった。人当たりがよく、常に冷静な判断をしてくれる藤木さんなら大丈夫だ。そんな思い込みが坂口の中にあったのも事実だ。

坂口 「ありがとうございます。ちょっと製造部の状況を確認してみます」

岸谷 「あぁ。よろしくな」

 電話を終え、続けて坂口は藤木に電話をかけた。

坂口 「IT企画推進室の坂口です。いま、ちょっとお時間よろしいですか? そちらにお伺いしたいのですが」

藤木 「あぁ。いいよ」

 いつもと変わらぬさわやかな声での応対に、「あぁ問題はないんじゃないか?」と思いつつも坂口は製造部に向かった。

坂口 「すみません、急に。岸谷さんから製造部の様子を見にいってやれ、といわれたものですから」

藤木 「ハハハ……。岸谷さんらしいね。うん、実はなかなか大変だよ」

 坂口が岸谷から製造部の状況が心配であることを聞き、様子を確認しに来たと伝えると、藤木の顔は曇った。藤木いわく、製造部のメンバーは配送センター同様、システムに造詣の深いものが少なく、従来のやり方を重視する風土があり、なかなか協力を得られていない様子だ。

藤木 「それに、みんないまの仕事を抱えているしね……。部内での検討も、結局は僕が全部やることになって、たまっていて。まぁ、それも僕の役割といえば役割なのかもしれないけど」

 藤木のデスクにはプロジェクト関連以外の大量の資料が山積みになっていた。

 現場には現場の作業がある。現業を持ちながら、新しい企画へ割く時間を持つことはなかなか難しい。かつて営業の現場にいた坂口にも、その状況は十分に理解できた。しかし、いまはプロジェクトを進めるしかない。ただ新たな人員の投入は見込めるはずもない。坂口の脳はフル回転した。

 ふと、豊若の存在が心をよぎった。

坂口 「状況は分かりました。人員の増強で解決できないのは承知の上ですが、うちの伊東をサポートに行かせます。あと、今回のプロジェクトには外部のコンサルタントに協力を要請しているんです。現場のサポートについて、相談をしてみます」

藤木 「ありがとう。僕の力が足りなくて申し訳ない。でも、現場は目の前のことで精いっぱいなんだ。これも分かってほしい」

 現場を巻き込めていない。坂口にとってはそれがショックであった。今回も豊若に頼らざるを得ないのか。複雑な思いで携帯を取り出すと、豊若の電話番号を呼び出した。

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