23時の情報システム部にはまだ大勢のメンバーが残っていた。煌々(こうこう)としたフロアで黙々とPCに向かって作業するメンバーたちの間には一種異様な熱気が漂っていた。
翌週に控えた進ちょく会議のため、システムテストの状況を確認すべく、坂口は八島とコンタクトを取ろうとしていた。
しかしテストに奔走する八島となかなか調整がつかず、やっとつかまえたのがこの時間というわけだ。
聞くところによれば八島たちはほぼ連日徹夜をしているらしい。
坂口 「お疲れのところすみません。システムテストの状況を確認させてください」
八島 「お、坂口っちゃん、お疲れ〜。なんか何回も連絡くれたんだってぇ? ごめんねぇ〜、なんせこんな状況なもんでさぁ〜」
坂口 「いえ、それより皆さん徹夜続きって聞いてます。体調は大丈夫ですか?」
八島 「あーはっはっは! そんなことはどうでもいいの〜。状況ね、いいよ。じゃ、ちょっとコーヒーでも飲まない?」
八島は坂口をフロアの一角にある休憩スペースに誘った。コーヒーの香りが漂う。
八島の説明によると、すべてのテストは終了したものの予想外のバグが多く、このままではスケジュールに影響が出てしまうため、総動員で改修に当たっているそうだ。
八島 「システム屋ってさ、バグとか障害で結構燃えたりするんだよな。で、変な連帯感生まれんの」
坂口 「燃える?」
八島 「そっか、坂口ちゃんは営業出身だもんな……。でもたまにいない? トラブルのときにやたらと張り切るやつとかさ。それと一緒だよ。でもそういう時って終わった後の達成感がたまんないんだよねー」
コーヒーを一口飲み、八島は入社間もないころのことだけどと、ある開発プロジェクトの話を始めた。
八島 「必死でバグつぶして、終わった! と思ったらもう夜中の2時とかで……。でもタクシー代もったいなくてそのままオフィスで適当に始発待ちますっていったらさ。当時の先輩が『おまえ、そんな悲しいこと言うなよ』って近所の夜中までやってる和風居酒屋へ、飯に連れて行ってくれてさ。あんときのアサリのみそ汁、うまかったなぁ……」
坂口 「いい先輩だったんですね」
八島は続けた。
八島 「まぁシステム屋に限らずさ、仕事って逆境にこそ燃えるってこともあるんだよ。すんなりいくとおもしろくないじゃん。今回も実は結構キツいんだよねー。でもさ、僕のプライドにかけて、良いもん作るから。坂口っちゃん、まぁ期待しててよ!」
坂口はふとサンドラフトサポート時代に携わったプロジェクトを思い出した。トラブルは多々あったが、確かに充実していたあのころ。
じゃ、おれも戻るわ、と八島はいい、オフィスに戻っていった。今日も徹夜覚悟らしい。
坂口 「(おれはあのころから、何か変わってるかな……)」
八島の背中を見ながら坂口はいまの自分を思い返してた。
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