それから1週間後。
大塚チームの定例ミーティングの日のことだった。
大塚 「よし……、すべての作業は予定通り進んでいるということだな。オーケー。では、次の議題。もみじ山カントリークラブへのプレゼンについて報告しよう」
グランドブレーカーは、東京近郊では由緒正しいゴルフクラブとされている「もみじ山カントリークラブ」から相見積もりの打診を受けていた。
依頼内容はマーケティング活動と連携を持たせた顧客管理システムの構築である。
そのプレゼンテーションが、定例ミーティングの前日に行われていたのだった。
大塚 「みんなも知ってのとおり、昨日、サービスグループ統括責任である大川取締役と一緒に、もみじ山カントリークラブにプレゼンをしてきた。有力なコンペティターは、いつものごとくスマートコンサルティングだ。もみじ山の業務内容は、現在進行中の『プリンセス』の業務内容と基本的に同じだ。だから、そこで培ったノウハウを利用できるし、その分当社は優位に立てるはずだ。加えて、われわれには神崎が考案したソルティシュガーのノウハウもある。これはまだ完成をみていないが、プレゼンではその概要をほのめかすだけでも、かなりのインパクトがあるはずだ。とまぁ、こんな自信を持ってプレゼンに臨んだわけだ」
ここで、大塚は一息入れてコーヒーを飲んだ。メンバーも、ふむふむと納得しながら聞いていた。神崎などは、ソルティシュガーの功績をいってもらえたうれしさで、鼻をひくつかせながらコーヒーを飲んでいた。
大塚 「プレゼンは、スマートコンサルティングから先に始められた」
大塚がコーヒーカップを置いてまた話し始めた。神崎は、自分の功績がプレゼンテーションにどのような影響を与えたのだろうという期待感で鼻の穴を膨らませながら聞いていた。
大塚 「ところが、驚いたねぇ。スマートさんもソルティシュガーと同じアイデアを持っていたんだ。しかも、あちらさんはすでにそのアイデアを実現してしまっているらしく、『それを顧客システムのこの部分とこの部分にこのようにして当てはめて、このように稼働させると時間にして20%、コストにして5%の削減が可能』とまで、かなり具体的に示していたんだな、これが」
神崎 「ブフォッ! ゴフッ!」
神崎が、飲んでいたコーヒーをいきなり噴出した。周りの7人が驚いて後ずさった。
神崎の頭の中には、1週間前ギガバイトで視線が合った江川の顔がよみがえり、直感の稲妻が走った。
神崎 「(あいつだ、江川だ!! 江川の野郎がパクりやがったんだ!)」
大塚 「神崎、どうした?」
神崎 「え? あ、いえ、なんでもないっす……。すんません」
大塚 「大丈夫か、ほんとに……。おまえのワイシャツ、コーヒーだらけじゃん……。で、話を続けるが、面白いことに、スマートさんはそのアイデアに『DBマスター』という名前まで付けていた。クライアントもかなり興味を示していたようだな」
神崎 「◎лж☆ФΩΨ……」
神崎は、(江川の野郎がパクりやがった!)とつぶやいていたのだが、もはや言葉になっていなかった。
大塚 「?? 神崎、何言ってんだ?」
神崎 「◎лж☆ФΩΨ……」
大塚 「こりゃ、神崎! ……かぁ、んん、ざぁ、きぃ!」
神崎 「え? あ、いえ、なんでもないっす……。すんません」
大塚 「何をぶつぶつ言ってんだ? コーヒーの紙コップを握りつぶしたりして、なんか変だぞ、おまえ」
神崎 「い、い、いえ、ほんと、なんでもないっす……」
大塚 「い?や、変だ! おまえ、何か知ってるんだろ! それとも、何かヘマをやらかしたか! やい、白状しやがれ!」
神崎 「いや、ほんとに、何も知りません、何もやってません」
大塚 「……。悪いが、今日の定例ミーティングはこれで終わる。必要事項は後でメールで知らせるから。ということで、これで解散とするが、神崎! おまえはここに残れ」
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