抜本的な効率化が環境を守る〜キリンビール〜各社に聞く「グリーンITにどう取り組むか」(1)(2/2 ページ)

» 2008年03月21日 12時00分 公開
[内野 宏信,@IT]
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ペーパーレス化で、CO2を年間約6.8トン削減2を年間約6.8トン削減

 その1つが2005年から取り組んでいる帳票類のペーパーレス化だ。同社の物流情報システムは大きく分けて需給統合、受注・出荷、請求の3つの機能から成り立っている。

 このうち、出荷や請求などの帳票データについては、取引先の業務慣習に配慮し、紙ベースでのやりとりを中心としていた。だが、その紙の量が「尋常ではなかった」(近藤氏)。

 「大手取引先の場合、帳票類を積み上げると50センチ以上の高さになることもあった。それを毎日のように送り届けるのだから、紙資源や配送にかかるコスト、環境負荷にかなりの無駄が生じていた。帳票を種別に仕分けしたり、先方がチェックする手間や労力もばかにならなかった」

 そこでパッケージソフトを導入して帳票類を電子化。高度なセキュリティ管理の下、Web上でデータ閲覧できる形とし、営業部門を通じて少しずつ取引先に協力を依頼した。その結果、大手取引先については、ほぼ完全にペーパーレス化を達成。年間でA4用紙約500万枚の紙資源削減に成功した。これによる年間のCO2排出削減量は約6.8トン(※)に上る。

 また2005年から2006年にかけては、メインフレームで稼動していた物流情報システムをオープン系に移行した。可能な限りコンバートツールを活用して、画面はJavaに、バッチ処理はオープンCOBOLに変換、メインフレーム固有技術に依存した部分のみ手組み開発することで、日々の業務に支障をきたすことなく、ITコスト削減、サービス品質向上を果たした。

 近藤氏は「これらは効率化という観点での取り組みだったため、CO2削減量は算定していない。だが、環境的に好ましいものであったことは間違いない。今後は効率と環境という観点を最初から併せ持つことで、より効果的な施策を発想しやすくなるはずだ」と話す。

※キリンビールとしては測定していないため、「可燃ごみによるCO2排出量」として編集部で計算。約20トン(A4用紙500万枚)×0.34(東京都の可燃ごみCO2排出係数)=6.8トン

正しい効率化なら、生産性と環境は両立できる

 事実、多くの企業にとっては効率化が第一義であり、環境負荷低減は二義的な傾向が強かった。しかし今後は、効率性・生産性と環境負荷低減をバランスよく意識することが求められる。企業にとって難しい課題だが、近藤氏は「効率と環境はそもそも矛盾するものではない。正しい効率化なら、自ずと両立できる」と解説する。

 例えば現在、SCM本部では時間帯による受注業務の偏りを課題視しているという。ビールという商品特性上、受注の季節変動には備えているが、「1日単位で見ても業務が集中する時間帯があるのは問題」という。

 注文データは、受注・出荷システムで受け付けた後、社内チェックのうえ、出荷場所である全国11工場にその日の発注分をまとめて送付する。その後、データに基づいて出荷準備がなされるため、受注業務の集中・滞りは、トラックへの積み込み、出発、着荷時間に影響を及ぼす。「さらなる品質向上を追求する以上、現場がカバーしてくれることだけに期待するわけにはかない」。

 これは受注の締め切り時間をずらせば済む、といった単純な話ではない。まず注文がいっときに集中しないよう、取引先との綿密な調整が求められる。データの扱いも課題だ。現在、商品コードや届け先コードなどは、サプライチェーン関係各社や業界内で統一されておらず、各社独自のものを使っている。これもプロセスの流れを阻害する一因となっているという。近藤氏はこれらを受けて、次のように力説する。

グリーンIT は、正しい改革を促してくれるもの

 「受注時間は調整すればいいし、コードの違いも変換すれば済む話ではある。しかしそれで済ませてしまっていいのだろうか? 例えば業界内、サプライチェーン内での共通言語が整備できたらどうだろう。コード変換という無駄なプロセスと、それに必要なシステムが1つ省ける。同時に社内外での連携が深まり、業務プロセスはいっそうスムーズになる。それによって継続的に業務を効率化できれば、おのずと環境への貢献度は向上する」

 コードを変換するシステムの省力化を考える以前に、変換というプロセスそのものを省こうという発想だ。もちろんシステム自体の省力化も重視しているが、近藤氏は「プロセス設計が合理的ならシステムを簡素化、省力化できる可能性も高まる」と述べる。仮想化をはじめ省力化のための技術も、より有効に生かすことができる。

 「グリーンITとは、ただいたずらに省力化を目指すものではない。いかにシステムを効率化に役立てるか、効率的に開発・運用できる業務設計を築くか、ということと理解している。それはおのずと抜本的な改革を考えることにつながる」

「グリーンITは抜本的改革を促すもの」と近藤氏。左はキリングループの環境マスコットキャラクター「エコジロー」

 同社の場合、実質的なシステム開発はグループ内のキリンビジネスシステムが、物流業務はキリン物流が担当している。実務の専門部隊を擁する格好だけに、2社の力を有効に生かすためにも、大本となる業務設計がいっそうの重要性を帯びているといえよう。

 近藤氏は、「改善とは一時的なものではなく、継続できてこそ意味があるもの。グリーンITという概念は、それを実現する1つの指針といえるのではないだろうか。システム開発やロジスティクスの専門組織を持つ強みを生かし、いっときで終わらない真の効率化を考えていきたい」と、環境保護に対する意欲をみせた。


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