細分化された業務プロセスに対してKPIを設定するためには、測定対象(インプットとアウトプット)と測定基準(品質向上、費用低減、納期短縮)を明確に定める必要があります。新しい業務フローチャートで業務プロセスが可視化されていると、これらの作業が容易になります。
まず、測定対象の明確化について見てみましょう。これは、インプットとアウトプットを明確にし、測定範囲を決定することを意味します。業務フローチャートでアウトプットに該当するのは、作業で加工された媒体です。図1では、業務フローチャート上の3つのアウトプット例に丸印を付けて表示しています。
このように、アウトプットとは、(作業で加工された)媒体のある状態を指します。これに対し、インプットも実は前の作業のアウトプットに当たるので、やはり(作業で加工された)媒体のある状態と定義することができます。対象となるインプットとアウトプットを明確化することで、業務プロセスのスタートとエンド、つまり測定範囲が明確になります。
次に、測定基準の明確化についてです。
納期短縮(=速度)であれば、測定範囲(スタートからエンド)内の全作業の担当者の所要時間とアウトプット数を計測することで、1アウトプット当たりの処理時間を算出することができます。これは、待ち時間を考慮しない場合の例になります。図1の(1)で定義されたアウトプットを速度で計測したものが、次の図2となります。
費用であれば、測定範囲内の全作業の担当者の所要時間とアウトプット数を計測し、時給単価を掛け合わせることで、1アウトプット当たりの労務コストを算出することができます。これは、費用を人件費に限定した場合の例になります。図1の(2)で定義されたアウトプットを費用で計測したものが、次の図3となります。
品質(=精度)であれば、測定範囲内において、インプットからアウトプットへの変換確率を計測することで、1アウトプット当たりの必要インプットを算出することができます。図1の(3)で定義されたアウトプットを精度で計測したものが、次の図4となります。
以上で見てきたように、業務フローチャートで業務プロセスが可視化されていれば、測定対象、測定基準ともに明確にすることができ、いずれのKPIも容易に指標化することが可能となるのです。
ここまで、見る技術と計る技術について、それぞれ解説してきましたが、ここで見ると計るの関係を整理してみましょう。
現状把握において、業務の可視化(見る)と定量化(計る)は、「見えるからこそ、適切に計ることができる」「計るからこそ、適切に見ることができる」という相互依存の関係にあります。
「見えるからこそ、適切に計ることができる」とは、前段で見てきたように、業務フローチャートによって業務プロセスが可視化されているからこそ、具体的なKPIを定義することができる、ということです。
一方、「計るからこそ、適切に見ることができる」とは、業務を大きく定義したKPIによって、問題の核となる部分を予測することができるからこそ、効率良くそのプロセスを見ることができる、ということを意味します。
では、この2つの関係を、業務改善プロセスのステップごとに整理していきましょう。
前回の「業務改善は業務の可視化から始めよう」では、業務改善プロセスを、大きく問題発見、問題分析、解決策立案、実行、評価という5つのステップに分けました。なお、業務改善プロセスの詳細については、次回で説明する予定です。
この前半の問題発見、問題分析、解決策立案、すなわち業務改善のネタを見つけ、業務改善の糸口をつかみ、業務改善の打つ手を考える段階において見ると計るの関係を見ると、問題発見では計ることが重要になるケースが多く、問題分析では見ると計るの重要性が同程度となるケースが多くなります。また、解決策立案では見ることが重要になるケースが多くなります(図5)。
具体的に例を挙げてみましょう。
問題発見では、業務を大きくとらえたKPIを見ながら「納期が徐々に伸びているが、何かおかしいのではないか?」と業務改善のネタを見つけます。
問題分析では業務フローチャートを見て、「取扱商品が増加してきていることが問題なのだろうか? もしそうであれば、単品注文の場合は納期の遅れが少ないのだろうか?」という仮説を立て、細分化したKPIで検証してみることで、業務改善の糸口をつかみます。
解決策立案では、業務フローチャート上の該当する業務プロセスを見て、「複数商品の場合の倉庫におけるピックアップ手順を変えることで納期短縮ができるのではないか?」と業務改善の打つ手を考え出します。このように、業務改善プロセスが進むにつれて、「計る」⇒「計る+見る」⇒「見る」というように、見ると計るの比重がシフトしていきます。
ここまで、見る技術・計る技術について理解し、さらに業務改善プロセスにおけるその役割(比重)を理解してきました。次に、見る技術と計る技術をどのように活用すれば、業務改善の着眼点(業務改善のネタを見つける、業務改善の糸口をつかむ、業務改善の打つ手を考え出す)にたどり着くことができるのか、考えていきましょう。まずは、計る技術(KPI)からです。
KPIによって「計る」場合には、KPIの類似・差異、変化・傾向、異常・集中、重要度に注目します。計測したKPIを表やグラフにし、これらを眺めることで、問題を発見し、また、その解決の糸口を見つけることができます。
類似・差異の視点とは、他支店の同部署の数字を比較したりすることなどを通して、類似や差異に注目することです。
変化・傾向の視点とは、時系列で同じデータを比べることなどを通して、その変化や傾向に注目することです。
異常・集中の視点とは、取得したデータの標準偏差を算出することなどを通して、分散、つまりバラツキに注目することです。
重要度の視点とは、棒グラフや円グラフで、割合を見たりすることなどを通して、影響度に注目することです。
次に、見る場合の着眼点です。業務フローチャートを見る場合には、業務プロセス上に品質向上(クオリティ・アップ)、原価低減(コストダウン)、納期短縮(スピードアップ)の阻害要因はないか、また改善の実現可能性はないか、に注目します。
新しい業務フローチャートでは、作業の構成要素と流れがマトリクス方式で整理されていますので、作業の流れ(作業フロー)、担当者の流れ(担当者フロー)、情報の流れ(情報フロー)、を分析的に見ることが容易となり、着眼点が分かりやすくなります。
作業フローについては、作業の構造に注目します。例えば、作業の条件分岐が多い場合には、業務の標準化が進んでおらず、不必要な作業が発生している可能性があります。
担当者フローについては、担当者間の作業の行き来の頻度や担当者数に注目します。例えば、作業が複数の担当者間を行ったり来たりしている場合には、「いった、いわない」の伝達ミスや、「伝言ゲーム」のようなコミュニケーションの無駄が発生している可能性があります。
情報フローについては、媒体の種類や類似性、媒体の数、媒体に対する特定の作用の有無やその頻度などに注目します。例えば、作用に確認・照合が多い場合には、自動化されていない転記作業が多く無駄が発生している可能性があると同時に、転記間違いを誘発する可能性も含んでいます。
このように、見る際、計る際の着眼点をパターン化することで、業務改善にはあまり縁のなかった現場担当者も、効率的に問題発見、問題分析、解決策立案を進めることができます。
今回は、KPIを使った計る技術について解説するとともに、業務フローチャートとKPIを活用して、業務改善のための着眼点を見つけ出す方法を紹介しました。
次回は、いよいよ問題発見からいかに業務改善を実現していくかという「業務改善プロセス」と、現場主導の業務改善を推進していく場合に重要なポイントとなる「動機付け」について解説し、本連載の最終回とします。
松浦 剛志(まつうら たけし)
株式会社プロセス・ラボ 代表取締役
京都大学経済学部卒。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)審査部にて企業再建を担当。その後、グロービス(ビジネス教育、ベンチャー・キャピタル、人材事業)にてグループ全体の管理業務、アントレピア(ベンチャー・キャピタル)にて投資先子会社の業務プロセス設計・モニタリング業務に従事する。
2002年、人事、会計、総務を中心とする管理業務のコンサルティングとアウトソースを提供する会社、ウィルミッツを創業。2006年、業務プロセス・コンサルティング機能をウィルミッツから分社化し、プロセス・ラボを創業。プロセス・ラボでは、業務現場・コンサルティング・アウトソースのそれぞれの経験を通して培った、業務プロセスを理解・改善する実践的な手法を開発し、研修・コンサルティングを提供している。
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