「サイロ化したシステム群を統合しよう」という掛け声はよく聞かれるが、実際にそれを推進しようとするとさまざまな問題に直面する。システム統合プロジェクトに求められる情報システム部門の役割やスキルから考えてみよう。
出社初日、若手ITエンジニアの豆成くん(仮名)は衝撃を受けていた。
彼は、終わることのないプログラム開発作業に明け暮れていたシステム開発子会社を辞め、新天地を求めて中堅メーカーのマメックス工業(仮名)の情報システム部門に転職したのだった。晴れて念願がかない、ユーザー企業へと転じた彼が見たものは、古いシステムをルーチンワークで黙々とメンテナンスし続けている運用担当者たちの姿だった。
(どうしてこんなバラバラで古いシステムをいまでも……。いっそのこと、丸ごと作り替えた方が早いんじゃないだろうか?)
膨大なシステムを目前にそう自問自答する豆成くんの肩を、先輩格の蔵田さんがたたいた。
「これがわが社の姿だ。全部作り直した方がいい??なんて考えているのかもしれないが、いまさら不可能なんだよ。このシステム全体がうちの会社を動かしているんだ……。よく覚えておいた方がいいな」
理想的な企業(があるとすればですが)を除き、ある程度の規模を持つ現実の企業内を見ると、情報システムと呼ばれる存在がそこかしこに点在しているものである。大型のサーバマシンが正規のデータセンターや専用ルームに鎮座している、分かりやすい場合もあれば、営業オフィスの脇にちょこんと忘れ去られたように置かれたマシンが、ほこりまみれになりながら黙々と動き続けている場合もあるだろう。
それだけではない。ひょっとしたら従業員のローカルPCの間をコピーされながら使い回されているExcelのファイルが企業の命運を握る中核システムかもしれないのだ。大げさな言い方と思われるかもしれないが、そのような企業も決して少なくない。よく見られる例としては、月報集計のためのExcelシートがコピーされながら(しかもこの責任者の前任者による、15年ほど前のお手製書式)使い続けられており、顧客の一覧はやはりその昔誰かに作ってもらったAccessの簡易データベースシステムで??といったものがある。威勢よく「システム構築」という場合のシステムとは似ても似つかないが、これらも間違いなく「情報システム」だ。
冒頭で豆成くんが見た姿は、こうしたシステムが社内に何十も数え切れないほど散在している姿である。誰が何を使っているのか、あるいは使われていないのかすら分からないありさまだ。これを客観的に見れば、企業としてITシステムの統制が取れていないということになる。このような状態を黙認し、実際に誰も管理しておらず、あるいは管理する意思もない??最近流行の言葉でいえば「ITガバナンス」が脆弱(ぜいじゃく)、という状態である。
入社早々厄介事に巻き込まれそうな雰囲気を感じた豆成くん。そこに追い打ちをかけるように上司から面倒な指令が下った。
「とにかくシステムに強い連中がいないことがうちの課題だったが、開発経験のある君が入ったからもう大丈夫だ。長年の懸案だったシステム連携の陣頭指揮を執ってもらおう。経営側からせかされている。緊急だ」
「え!? システム連携って、これを全部つなぐんですか? 作り直しじゃなくて?」
「作り直す? そんな金どこにあるんだ。数年前に着手したことはあるが、もうあんなプロジェクトはまっぴらごめんだ。それはそうと、とにかくいまは社内に重複した機能とかデータが多くてな。システムが完全に運用管理できてない現状も含めて一挙解決してくれ。金額は安く。とにかく安く。よろしくな」
「……、はい……」
入社早々で右も左も分からず、立場も弱い豆成くんは、仕方なく仕事を押し付けられる羽目になってしまった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.