業務改革とシステム革新は“両輪”で進めろ! ──システム開発編進化するCIO像(6)(2/2 ページ)

» 2009年01月20日 12時00分 公開
[碓井誠(フューチャーアーキテクト),@IT]
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ユーザー企業と開発パートナーが一体となって計画を実行する

 それでは、セブン-イレブンではシステム開発手法の流れをどのように組み立ててきたのかを説明しよう。図1はシステム開発手法の要約版である。最上部に緑色で示した横軸が、フェイズI「システム化計画」からフェイズV「リリース・検証」までの開発全体の流れを示している。前回説明したシステム化計画はIの部分である。

システム開発手法の全体像 図1 システム開発手法の流れ。ユーザー企業側とシステム開発事業者、すなわち開発パートナーが一体となってプロジェクトを推進する。ただし、この流れを徹底するためには、業務改革会議などの全社的な仕組みや、技術活用基準、品質基準など、システム開発に関する基本部分を整備しておく必要がある(クリックで拡大)

 一般のシステム開発手法との大きな違いは、縦軸にみられるユーザー企業側とシステム開発事業者、すなわち開発パートナーとの連動である。ユーザー企業側と開発パートナー側は中央下部の赤い太線をまたいで、各フェイズの検討と進ちょく、意思決定を、同期を取って推進してゆく。

 稟議または役員会での決裁は、フェイズに応じて少なくとも4回は必要である。役員会や全社の部長以上が参加する業務改革会議での議論、検討、承認を必要とするテーマは、おおむね店舗システムや情報分析・共有システム、発注・物流システム、会計システムなど、サブシステムレベルの再構築についてである。しかし、ATM事業やeコマース事業などの新規事業は、その秘匿性もあり、トップ直属で、プロジェクト内でクローズドに検討するケースが多く、オープンなオーソライズが難しい場合もある。

 関連部門の人材にはプロジェクトメンバーとして参画してもらったり、大型プロジェクト推進の際には、現場部門より情報システム部門に適材を異動してもらって体制を組むとともに、主要部門とは週1回の定例検討会を設定してきた。

 図1を見ると「標準的な流れ」と感じられると思うが、これらを徹底するためには、業務改革会議など全社の仕組みに加え、技術活用基準や品質基準、マネジメント手法や会議体の運営など、ほかの多くの要素も併せて整備することが重要である。

 それでも、プロジェクトの推進を各層の同期を取って進めることは非常に難しい。情報システム部門がその推進役として、提案型のリーダーシップを取れるかどうかは、その能力と課題の難易度とのバランスが取れているかをよく評価して決定する必要がある。これは、企業におけるIT部門の位置付けやその能力、体制によるところが大きい。また、バランスの取れた推進体制を考えるとき、現場部門や企画部門との連携に加え、外部のITコンサルティングや開発パートナーの戦略的活用を含めて検討することも有益である。

 ちなみにセブン-イレブンでは、情報システム部門と強力な外部パートナーとの連携でシステム革新を推進してきたが、この基本には“あるべき論”の徹底した議論と、仮説-検証型のビジネススタイル、さらには、トップのダイレクトコミュニケーションと一元的な情報共有のために重要な、“週次サイクルでの全社的な人間系の仕組みと会議体”が存在している。

 しかし、そうした社内環境や方法論の確立・運用、優秀な開発パートナーの協力があっても、eコマースやネット事業の立ち上げは非常に難航し、大きな成果を生むことができなかった。これらの事業は、現在では重要な柱に位置付けられるようになったが、スタートした2000年の時点では、店舗や営業部門の理解や支持を得るには至らなかった。プロジェクトの秘匿性もあり、全社的な協力体制を十分に醸成できなかった点の反省も残る。

 当時、顧客との密接なチャネル形成につながる、いまでいう“Web 2.0”や“Web 3.0”のような広がりは見通すことはできなかったが、戦略的に道を拓く際には、トップ直属で、全社コンセンサスに優先してプロジェクトを進めるケースもある。そして、IT活用の可能性を語れるのは情報システム部門だけであり、CIOはその責任を考えたとき、リスクに立ち向かう勇気と、「高所細心にして大道を行く」技術武装と手法武装を常日ごろから怠らぬよう、自己研鑽(さん)を図り前へ進むべきである。

業務とITに詳しく、パートナーとの連携力の高い人材が競争力に

 それでは最後に、プロジェクト推進体制の1つのモデルを紹介しよう。図2は2002年、セブン-イレブンが中国に出店した際のシステム開発体制図である。この例を示したのは、業務系とシステム系のメンバーが当初より深く連携してプロジェクトを推進した事例であるとともに、プロジェクトのサイズが中規模レベルで全体を俯瞰(ふかん)しやすいためである。

セブン-イレブン中国出店の際のプロジェクト体制 図2 セブン-イレブン中国出店の際のプロジェクト体制。それぞれの枠中に、行う業務とメンバーの陣容が記してある。セブン-イレブン(図中では「7-11」と表記)の情報システム部門が、業務部門である中国セブン-イレブンやセブン-イレブン本社の商品部・物流部、さらに開発パートナーの協力も得て、一体となってプロジェクトを推進した(クリックで拡大)

 プロジェクトチームは、3つのサブチームから編成した。1つはA「会社立ち上げ支援/業務組み立て」チームである。ここでも業務部門である中国セブン-イレブンのメンバーや、セブン-イレブン商品部・物流部との連携を密にし、併せて開発パートナーの現地メンバーの協力も得て一体でプロジェクトを推進した。

碓井誠氏

 2つ目はB「システム仕様検討、システム概要設計」チームである。ここでも中国での新業態としてのコンビニエンス事業のシステムデザインを、チームメンバーが一体となって進めた。

 3つ目のC「プログラム開発/テスト/展開」チームも、開発パートナーによるプログラム開発を受けて、テストと展開を一体となって進めている。

 プロジェクト進展のフェイズに従い、各部門のメンバーがチームA→B→Cへとシフトしながら推進していく方法が、セブン-イレブンのプロジェクト推進の特徴である。この考えは現職のフューチャーアーキテクトと同様であり、システム開発手法も、よりスリムでクイックな対応が行えるものへとブラッシュアップを図っている。

 従って、ビジネス、業務をよく理解し、システムとITの活用力を持ち、パートナーとの連携力にも優れた人材の育成・強化が重要であり、こうした体制によるシステム開発手法の実行により、セブン-イレブンは競争力の向上を図ってきたともいえる。

著者紹介

碓井 誠(うすい まこと)

1978年セブン-イレブン・ジャパン入社。業務プロセスの組立てと一体となったシステム構築に携わり、SCM、DCMの全体領域の一体改革を推進した。同時に、米セブン-イレブンの再建やATM事業、eコマース事業などを手掛けた経験も持つ。2000年、常務取締役システム本部長に就任。その後、2004年にフューチャーシステムコンサルティング(現フューチャーアーキテクト)取締役副社長に就任し、現在に至る。実務家として、幅広い業界にソリューションを提案し、その推進を支援しているほか、産官学が連携した、サービス産業における生産性向上の活動にも参画。さらに各種CIO団体での活動支援、社会保険庁の改革委員会など、IT活用による業務革新とCIOの在り方をメインテーマに、多方面で活動を行っている。


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