すべてを任せてもらえる「専門家」になろうエクスプレス開発バイブル(3)(2/3 ページ)

» 2009年03月05日 12時00分 公開
[西村泰洋(富士通),@IT]

「業務」の知識は万全ですか?

 第2に顧客が気にするのは業務知識です。この「業務知識」とは、「システム化する対象業務に関する知識」です。これには大きく分けて3つのポイントがあります。

業務の基礎知識・専門用語は、要件定義の必須条件

 例えば「商品在庫が多い」「在庫数が合わない」といった課題が日常化している流通業の顧客が、業務の見直しや改善を進めながら、新しい物流システムを開発していく、というケースを考えてみましょう。

 流通業では、メーカーから自社の物流センター(倉庫)に商品が入ることを「入荷」あるいは「入庫」と呼び、注文に従って物流センターから商品が出ることを「出荷」「出庫」と呼びます。あらゆる注文に対応した結果、残った在庫を「残高」 などと呼ぶこともあります。

 また、商品が動く当日の朝、または前日の業務終了時に残っている在庫を「前残」(前日残高)と呼び、それに入庫・出庫のプラス・マイナスがあって、その日の業務終了時の残高を「当残」(当日残高)と呼んでいます。式で表すと 「前日残高 + 入庫 − 出庫 = 当日残高」といった形です。取り扱う商品についても、販売可能な商品を「良品」、販売不可能な商品を「不良品」と呼び、いつも決まった場所で商品を保管することを「ロケーション管理」などと呼びます。

  これらはあくまで一例として出しましたが、ご存じだったでしょうか? こうした専門用語には、世間一般ではあまり使われていない言葉や、言葉としてはよく耳にするものでも一般的な意味合いとは異なるなど、さまざまなものが存在します。説明を聞けばすぐ分かるものばかりですが、問題なのは、知らなければ相手の話を正しく理解できない、あるいは、すれ違う可能性があることです。従って、このような専門用語に対する最低限の理解は、要件定義の必須条件となります。もちろん顧客独自の用語もありますので、そのような場合は質問して意味を確認します。

顧客企業の既存システムに関する知識

 顧客企業がすでに対象業務をシステム化しており、システムを拡張または更新するケースの場合、その企業の現在、過去のシステムの内容を理解しておく必要があります。逆に、これが理解できているようなら、最低限の業務知識もすでに得ていることになります。

 特に既存の顧客企業に対しては、このことは極めて重要なポイントとなります。顧客企業はこれまでの付き合いによって、「システムのことはすべて分かってもらえている」という前提の下に話を進めます。従って、これを理解していないと信用を失うことになりますし、あとで信頼を取り戻すのは非常に難しいので注意が必要です。自分が新たに既存案件に入る場合には、必ずその顧客のシステム概要を理解してから打ち合わせに臨むことをお薦めします。

業界動向に関する知識

 顧客企業の業界慣習や、システム化を検討している業務、また既存システムに関する知識を持っていれば、要件定義を進めていくうえで大きな問題はありません。しかしながら、専門家にも“一般的な専門家”と“際立った専門家”がいるように、「専門家」と認められた中でも、できるだけ高い評価を得ておきたいものです。そのためには、例えば以下のような項目を満たすことがポイントとなります。

  • 顧客企業における、ほかの業務も知っている
  • 顧客企業の業界における、「最先端のシステム」の概要を知っている
  • 同業他社のシステム化の状況を知っている
  • 業界全体における業務やシステムの変遷を知っている
  • ほかの業界の業務やシステムで、顧客企業の対象業務やシステムに応用できるものがあれば提案できる

 以上のように、業界、業務、システムの変化の流れをつかんで語れれば、「専門家」の中でもさらに差別化を図ることができます。

ALT 図2 このイメージ図のように、システム開発に関する知識・経験をベースに、システム化する業務の知識、顧客企業の導入しているシステムに関する知識、といった具合に、1つずつ専門的な知識を蓄積していくことが大切だ

 特に、業界動向に関する知見はすぐに身に付くものではないので、日々新聞などに目を通しながら覚えたり、特集を組んでいる雑誌や書籍を読んだり、セミナーに参加したり、ほかのSEから情報を入手するなど、日々の積み重ねが必要です。

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