すべてを任せてもらえる「専門家」になろうエクスプレス開発バイブル(3)(3/3 ページ)

» 2009年03月05日 12時00分 公開
[西村泰洋(富士通),@IT]
前のページへ 1|2|3       

開発の「進め方」でも、専門家としての質が問われる

 さて、ここまではSEのスキルの中でも、特に「目につきやすい」ものについて解説してきました。しかしもう1つ、見落としてはならないスキルがあります。それは“プロ”ならではのシステム開発の進め方──「見えないスキル」といっても良いでしょう。

 この「進め方」とは、例えば「ウォーターフォール」のようなさまざまな開発モデルの全体像と、それぞれのモデルの各工程における細かい進め方のことです。特に筆者が重視しているのは後者です。

 先日、筆者はITコンサルタントとして、流通業界の顧客企業が導入 を計画している、新しいSCMシステムの要件定義の定例ミーティングに参加しました。 筆者の役割は、新業務において無線システムを活用する際に、各現場の業務環境と実際の運用を想定したうえで、「無線システムが有用なものとなるかどうか」についてコメントするというものでした。

 その顧客企業は工場も保有しているので、打ち合わせの場には、製造部門、物流部門、営業部門の関係者も含めて、経営幹部から現場の管理者まで、合わせて十数名が参加しました。 担当のSEは第2回で解説した業務イメージ図をもとに新しい業務について説明しましたが、これは参加者全員でイメージを共有できる点で、あらためて良い方法であると感じました。

 ただ、このSEは、その場で「概要レベルの新業務を確定し、承認を得たい」と考えていました。しかし、業務や立場が異なる顧客が十数名いる場で、すぐに新業務の確定ができるわけがありません。当然何も決めることができずに、次回に持ち越しとなってしまいました。

 やはり「専門家」であれば、その「進め方」においても専門性や経験・ノウハウを示す必要があります。要件定義、概要設計、詳細設計というシステム開発の大枠の進め方とスケジュールを提示するだけではなく、個々の工程内における細かな進め方においても“専門性”や“経験”を発揮する必要があるのです。

 今回のケースでいえば、「多数の顧客が一堂に介する場で、いきなり案を紹介し、討議、決定する」ことには無理があります。従って、1つの模範解答例を示すと、「まず現場管理者など、現場に詳しいスタッフとあらかじめ打ち合わせをして、実施可能な新業務案を共同で作成したうえで、その案を全体ミーティングで紹介し、討議する」といったプロセスが必要です。これはシステム開発の経験というよりも、一般的なビジネス経験からいえることです。

ALT 図3 顧客企業に対してアイデアを提案するだけではなく、立場の異なる複数の関係者に提案をスムーズに理解、納得してもらうための段取りも重要だ。そんな“配慮”がエクスプレス開発のスピードを支えている

 さらにいえば、現場管理者との打ち合わせを、最初の段階でスケジュールに織り込んでおくべきです。例えば、スケジュール表に「全体定例ミーティング」という項目があり、毎週金曜日に予定しているとしたら、それより前の火曜日、遅くとも水曜日辺りに、「現場管理者とのWG(ワーキング・グループ)」という項目を新設し、明示しておくのです。

 このように、必要な打ち合わせ項目とスケジュールを「最初に」明示しておくことで、「システム開発のさまざまな経験から、あらゆる状況における、効率的な進め方が分かっている」ということ を証明できますし、印象付けることもできます。さらに、こうして「専門家」として認知されることで、前述のように、全体のマネジメントやスケジュール管理が容易になるのです。

 システム開発に取り組む以上は、最初から「専門家」として認知されるような会話や振る舞いを心がけましょう。

「専門家」になる秘けつ

 さて、今回はエクスプレス開発を実現するための土台作りとして、SEという職種の「専門性」を高めることについて解説してきました。ただ、「SE」というよりは、「ビジネスマン」としてのスキルが求められる点も多いことに気付かれたのではないでしょうか。顧客の信頼を獲得するためには、SEとしての知識・スキルを身に付けることは不可欠ですが、それを安心感につなげられる、細やかな配慮、機転も大切ということでしょう。

 しかし、専門家になるためには、このほかにも1つの“コツ”があります。それは対象とする業務やシステムを絞るということです。

 あまりに手を広げ過ぎると深く学ぶことは困難ですし、実際、広範囲な分野で「専門家」といわれている人はごく少数です。まずは自分に合う業務やシステムにおいて、知見を深めるのが良いと思います。もちろん、比較的数多く経験している分野も候補とするべきでしょう。

 ただ、このように申し上げても、自分が専門家になれるのか自信が持てない、どの分野なら専門にできそうか見い出すことができない、という方もいらっしゃるかもしれません。そんな人たちに向けて、筆者からさらなるアドバイスを。

  • 「専門家」としての自負が強すぎてはいけない
  • 「専門家」かどうかはあくまで顧客が決めること
  • 従って、専門とすべき分野を自分で決めるよりも、自分に対する他人の評価を信頼した方がよい

 「専門家」になるには、以上3つがポイントとなります。これを具体的な形に置き換えると、例えば「顧客からの質問に対して、良い回答ができている分野を候補とする」といったことです。

 筆者もRFIDシステムのソリューションなどでは「専門家」と見なされることもありますが、そのようになれたのは、顧客の思いを重視したことが大きいと考えています。筆者の場合、これまで対話をしてきた多くの顧客から、「この現場でICタグが読み取れないのはどうして?」といった質問をされてきました。そしてあるとき、顧客の求めている回答は、「どうして通信できないのか」ではなく、むしろ「どうしたら通信できるようになるのか」、その対策や具体例なのだと理解しました。「専門家」への歩みは、そのときから始まったと思うのです。

 普段何気なく討議をしている事項についても、顧客はあなたを「専門家」とみているかもしれません。いずれにしても、普段から「専門家」として認知されるよう、日々精進しましょう。

筆者プロフィール

西村 泰洋(にしむら やすひろ)

富士通株式会社 マーケティング本部フィールド・イノベーションプロジェクト員。物流システムコンサルタント、新ビジネス企画、マーケティングを経て2004年度よりRFIDビジネスに従事。RFIDシステム導入のコンサルティングサービスを立ち上げ、数々のプロジェクトを担当する。@IT RFID+ICフォーラムでの「RFIDシステムプログラミングバイブル」「RFIDプロフェッショナル養成バイブル」などを連載。著書に『RFID+ICタグシステム導入構築標準講座』(翔泳社/2006年11月)などがある。



前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ