インドオフショアでは意思伝達のリスク管理が必要インドオフショアの裏話(3)(2/3 ページ)

» 2009年05月20日 12時00分 公開
[向井永浩,ソフトブリッジソリューションズジャパン]

意思伝達に対するリスク管理方法

 では、実際にどのようなリスク管理をすればよいのでしょうか?

1.インドオフショア側−日本側の意思伝達経路を単一経路にする

 インドオフショア側と日本側の意思伝達経路は、単一経路に絞ることが重要です。

 なぜなら、この意思経路を複雑にすると、情報の欠落や誤解が発生するリスクが高まるからです。また、「どのような体制を組むのかを事前に協議して決定すること」も重要な要素となります。

 基本的に、「日本側にブリッジSEを配置し、単一意思伝達経路にする場合」か、「インド側にブリッジSEを配置し、単一意思伝達経路にする場合」のどちらかが一般的な体制となります。

ALT 図1.日本側にブリッジSEを配置し、単一意思伝達経路にする場合
ALT 図2.インドにブリッジSEを配置し、単一意思伝達経路にする場合

 意思伝達経路を単一経路に限定すれば、日本側からするといつも同じ担当者(ブリッジSE)に意思伝達することになります。

 従って、基本的にインドオフショア側の上層部と日本側がコミュニケーションを取ることがない状態です。しかし、私はインドオフショア側のできるだけ地位の高い責任者と日本の責任者同士が、意思伝達経路や体制、納期、品質目標などについて、事前に協議しておくことを強くお勧めします。

 なぜなら、事前に協議しておけば、有事の際にインドオフショア側の上層部に働きかけることができるからです。インドの国柄や宗教上の関係で「権力の力」が非常に有効なため、上層部からの働きかけは非常に有効です。オフショアベンダは、商談を兼ねて現地視察会などを企画しているので、そのような機会に参加し、現地でオフショア側の主要な上層部と顔を合わせておくのも有効でしょう。

 つまり、基本的に意思伝達は単一経路とするべきですが、有事の際に上層部に働きかける特別経路を事前に作っておくべきしょう。

2.意思伝達で使用する言語を明確にする

 また、インド側と日本側とで、意思疎通の際に使用する言語を明確にしておくことが重要です。

 やはり、日本側は日本語でコミュニケーションしたい気持ちがあります。しかし、それでは翻訳やインド人の日本語能力などを考えると、情報の欠落/誤解が発生する可能性があるのです。インド側の英語力の高さを考慮すると、可能な限り英語にするべきしょう。

 一方、日本人は英語が不得意とされていますが、英語の読み書きについては比較的得意です。設計書などの技術文章などを除いた、比較的簡単な文章は英語を用いて徐々に英語に慣れていき、範囲を広げていくことも重要です。

 以下に例を示します。図1では日本側にブリッジSEを配置した場合を想定し、それぞれの局面でどの言語を使用するかを示した図となります。

 管理資料やメールは、日本側で作成したものもインド側が作成したものも、すべて英語とします。設計書は技術文章であるため、日本の技術者は日本語で作成し、インド側で翻訳する体制にしています。

 音声会議においては、ブリッジSEが日本語と英語の違いを吸収して意思伝達する形態にしています。日本の技術者が英語の読み書きに慣れてきたら、技術文章の翻訳後は英語版と日本語版を二重管理することなく、英語版のみを参照するものよいでしょう。

図2:インドオフショア側と日本側と使用する言語例
インド
日本
技術者
翻訳者
ブリッジSE
技術者
音声会議 日印の双方が発言
技術資料 日本側が作成
インド側が作成
管理資料 日本側が作成
インド側が作成
メール 日本側が作成
インド側が作成
英語
日本語

3.対面の意思伝達も考慮する

 日本−インドオフショア間の意思伝達は、テレビ会議/音声会議が主となりますが、当然、対面による意思伝達も考慮しなければなりません。

 対面による意思伝達は、インドオフショア拠点から主要要員を日本に呼び寄せた場合と、日本からインドオフショア拠点に出向いた場合の2つのケースが想定されます。「オフショア開発なので、わざわざ出張したら交通費などがかかって意味がない」と思われる方も多いと思います。しかし、対面による意思伝達は非常に効率がよく、情報欠落や誤解といったリスクを減らすことができます。

ALT インドのガソリンスタンド。バイクばかりがひしめきあっている

 「日本で設計した上位工程からインドオフショア拠点での下流工程へ引継ぐ時期」などでは、多くの情報を意思伝達する必要があります。特にスクラッチからのプロジェクトで、主作業が日本側からインドオフショア拠点に移る際などは、対面での意思伝達をする必要も考慮に入れます。次回バージョンの更新時などからは、テレビ会議などで実施するようにするものよいでしょう。

リスク管理のポイントをまとめると

 インドオフショア開発においては、国内開発と比較して意思伝達におけるリスクが多く存在し、リスク管理が重要となります。

 従って、日本とインドオフショア側の意思伝達通路は単一経路とするべきです。しかし、有事に備えてインドオフショア側の上位層に働きかける経路も作っておくべきです。

 また、意思伝達で使用する言語を明確にすることが重要です。インドオフショア側の英語力の高さ、日本語力を考慮すると、可能な限り英語とすべできです。日本側も英語に徐徐に慣れていく必要もあるでしょう。

 主作業が日本側からオフショア拠点に移る際は、多くの意思伝達が発生します。従って、対面での意思伝達が非常に効果的になります。

参考文献
『オフショア開発に失敗する方法 中国オフショアのリスク管理』 幸地司著/ソフト・リサーチ・センター/2008年2月

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