いま、ERPを買うべき理由ERPリノベーションのススメ(7)(2/3 ページ)

» 2009年06月18日 12時00分 公開
[鍋野 敬一郎,@IT]

IT不況に乗じて、基幹システムを刷新

 以上のように、毎年着々とERP再構築の準備を進めてきたG社ですが、経営層と情報システム部門が「そろそろERP再構築に乗り出すべきタイミングだ」と考え始めたのは、2008年秋のことでした。

 世界的な景気悪化の影響を受けて、企業の投資が抑制されれば、「2009年早々にIT不況が来る可能性が高い」と判断したのです。さらに、「優秀なコンサルタントや技術者が現在のプロジェクトを終えれば、2009年の夏ごろには開発要員に余裕が出る。ということは、2009年秋からのプロジェクト開始をベースに話を進めれば、ベンダに対して優位に交渉を進められるはずだ」と予測しました。

 社長の決断は早く、2009年度予算計画承認と同時に、ベンダ選定開始のゴーサインが出されました。あらかじめ“準備”を整えていた情報システム部門はすぐに行動を開始します。では、事例の続きを紹介しましょう。

事例:G社のIT投資戦略「ERP購入は“逆張り”が有効」〜実施編〜

 社長のゴーサインを得た情報システム部門は、さっそくベンダの選定に入った。経営企画部とともに“準備”してきた企画書を提示し、各ベンダの具体的な提案を求めたのである。

 G社が準備したのは「本社におけるERP再構築プロジェクト」と、「グループ子会社向けの共有ERPシステム導入プロジェクト」という2本立てのプロジェクトである。その内容は以下のようなものであった。

■プロジェクト1──本社ERPの再構築

 このプロジェクトは、本社で稼働している現行ERPパッケージのリニューアルである。その方法として、バージョンアップだけではなく、機能面・コスト面でほかのERPパッケージに乗り換えるメリットがあれば、その可能性も探る、というものである。

 予算は、バージョンアップ費用と10年間の保守・運用コストの総額が目安。目的は、最新の技術、最高のノウハウを積極的に導入することで、大手企業と同等以上のIT活用を実現しながら、TCOは3割削減し、同業他社に対する優位性を獲得することである。具体的な実施方針は、以下の3つとした。

  • 仮想化技術を使ったサーバ統合や、インフラ全体の合理化、フロントシステムを利用したユーザーインターフェイスの改善などにより、ERPの安定性、操作性、運用性の向上と、運用コスト低減を狙う。
  • これまでERPを適用していなかった業務領域にも適用範囲を拡大することで全体のシステム数を絞り込み、基盤システムのスリム化を狙う。
  • 新技術を3つ以上導入、稼働システム数を半減、TCOの3割削減を数値目標とする。

■プロジェクト2──グループ子会社向けの共有ERPを導入

 各グループ子会社が共有するためのERPを用意することで、各社のシステムを、ERPベースの会計システムと人事システムに統合するプロジェクトである。各社独自のシステムが乱立している状況を改善することで、グループ全体のITコスト削減、サービスレベル向上と、情報共有を実現し、一体感の創出を狙う、というものだ。

 共有用ERPの導入に当たっては、親会社で培ったERP活用経験・ノウハウを最大限に活かし、導入費用の最少化、保守・運用コストの低減を狙う。併せて、ベンダとの契約交渉から運用管理まで、一括してコントロールする専門組織を本社に新設し、導入運用作業を確実、効率的に行うこととした。実施方針は、以下の4つである。

  • 親会社で培ったERP活用経験・ノウハウを反映した「グループ共有ERPシステム」の導入。
  • グループ子会社に対し、会計システムと人事システムに絞ってサービスを提供する、シェアードサービス型の情報システム組織を本社に新設する。
  • 新組織はすべてのグループ子会社とSLAを交わし、一般のベンダよりも、サービス品質で同等以上、運用コストでは半分以下を実現することを目指す。
  • 徹底したサービス品質管理、コスト削減を実施し、その情報をグループ内で開示することで、IT利用の意識向上を図る。

 以上の要件を基に発注先を絞り込んだG社は、さっそくプロジェクトを開始した。最終的に選んだ実施方針は次のようなものであった。

 まず、プロジェクト1「本社ERPの再構築」については、結局、現行のERPパッケージのバージョンアップで進めることとした。これは、現行のパッケージが実質的に製薬業界の業界標準となっており、再構築に掛かるコストは割高でも、継続利用するメリットが大きいと判断したためである。

 プロジェクト2「グループ子会社向けの共有ERPの導入」については、新規に国産ERPパッケージを採用することとした。その製品が機能要件を十分に満たしていたことと、本社のERPパッケージをベースに、グループ子会社向けの機能をアドオン開発するより、その製品を採用した方がトータルコストを抑えられる可能性が高いと判断したためである。また、汎用的な開発環境が利用できるため、技術者の確保が容易で開発生産性も高いこと、構造がシンプルで運用作業が簡単なため、専任のIT担当者を置く必要がない、といったことも導入要因となった。

 ただ、これにより、本社用のERPとグループ子会社共有用のERPでパッケージが異なることになる。そこで、システム構成と運用のシンプル化・コスト低減のために、両方とも本社サーバルームに設置したイージェネラの仮想化対応サーバ「BladeFrame EX」上に構築することとした。なお、ERPのフロントシステムは、本社用、グループ子会社用ともに、WebブラウザとMicrosoft Office Excelに統一。情報共有機能にはセールスフォース・ドットコムのSalesforce CRMを採用した。

 すなわち、新技術の導入、システムのスリム化、運用の簡略化、グループ全体の情報共有化という要件を実現できる環境を整えるのである。あらゆる選択肢を基に、こうした基幹システムの抜本的な改善を狙えるのも、IT不況時だからこそ実現できることであった。G社では、「このタイミングで攻めのIT投資を実施した意義は大きい。ライバル会社に対する優位性を必ず獲得できるはずだ」と自信をみせている。


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