いま、ERPを買うべき理由ERPリノベーションのススメ(7)(3/3 ページ)

» 2009年06月18日 12時00分 公開
[鍋野 敬一郎,@IT]
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ERPの導入・再構築で、あらゆるコスト削減策が見えてくる

 ひところに比べれば、ERPはだいぶ身近な存在になってきました。とはいえ、それはあくまで比較の問題で、多くの企業にとって、ERPは「まだまだ高価で、難易度の高い仕組み」といえます。企業経営を支える基盤アプリケーションとして、ERPが有効なことにもはや疑いの余地はありませんが、投資対効果の点で導入・再構築をためらってしまうのです。

 すでに導入しているユーザー企業の関心事も、ソフトウェア保守料と運用コストの削減にあります。特にソフトウェア保守料はIT予算全体に占める割合が大きく、少しでも削減したいところなのですが、ベンダとの契約に縛られているため、自主的には削減できません。むしろ、増えることはあっても、減る可能性はほとんどないといっていいでしょう。


 しかも、一度契約したライセンスは返却できません。イニシャルコストが大きいため、見積もり段階では保守料はあまり目立たないのですが、固定費として次第に目に付く存在になってきます。さらに、保守期限切れによるバージョンアップは、費用に見合うだけの効果を明確に把握することが難しいものです。従って、機能拡張などバージョンアップの付加価値を明示するなど、何らかのプラスアルファを提示しないと、社内予算を確保することも難しくなっているようです。

 そこで最近、ユーザー企業の間で増えつつあるのが、ERPパッケージやサーバ、OSなどを新しい製品に入れ替えてしまう“ERP乗り換えプロジェクト”、すなわちERPのスクラップ・アンド・ビルドです。G社の場合、業務を取り巻く諸条件から、最終的には本社のERPについてはバージョンアップという選択肢を取りましたが、基本的には同じ考え方です。

 その点、昨今の経済情勢から、多くのERPベンダはライセンス価格の値引きをはじめ、あらゆる優遇措置を進んで提案してくれるようになっています。つまり、いまならできるだけ低コストでERPを導入・再構築するための、あらゆる選択肢を考えたり、提案してもらえるようになっているのです。特にこれまで投資対効果の面で再構築をためらっていたような企業にとって、これを利用しない手はありません。再構築を積極的に検討してみると、既存システムの保守を前提にしていたときには考えられなかった、コスト削減のあらゆる可能性が見えてくるはずです。

 例えば、SAP ERP の場合、マルチプラットフォームに対応しているため、サーバをはじめとするシステム構成を選択することができます。これにより、従来はUNIXサーバとオラクルのDBMSで稼動させていたシステムを、Windows ServerとSQL Serverを使ったプラットフォームにマイグレーションすることで、サーバ費用や保守料を3割以上削減できたケースもあります。

 G社の事例のように、ERPの乗り換えに乗じて、これまでERPを適用していなかった業務もカバーして既存システムを減らし、運用業務を効率化するパターンもあります。もちろん、現行システムにアドオン開発をする方法もありますが、事例のように新しいERPパッケージを導入した方が安く構築できるケースは多々あります。

 確かに、ERPは「まだまだ高い」製品です。しかし、購入する側にとって有利な条件が揃っているいまなら、以上のように、新しいERPを軸としたコスト削減のあらゆる選択肢を現実的なレベルで検討できるのです。まさしくいまがERPの“買いどき”です。導入・再構築は十分に一考する価値があると思います。

ERPパッケージ選定のポイント

 では最後に、この“買いどき”を生かすために、ERPパッケージ選定のポイントも簡単に紹介しておきましょう。いうまでもありませんが、自社がERPを導入・再構築する目的と、そのために必要な要件を明確化しておくのは大前提です。これが定まらなければ正しい選択などできません。

 まず財務会計機能については、機能要件が法規要件に沿っているはずですから、その製品が自社の業種に対応しているなら、どれを選んでもまず問題はありません。購買管理についても同様です。

 一方、販売管理や生産管理は、同じ業種でも企業によって独自の業務プロセスがあるため、製品選びには吟味が必要です。選定基準は、第一にコスト、第二に目安となる導入期間です。特に導入期間が短いということは、自社独自のプロセスを適用する際、そのERP標準機能の業務プロセスとの適用性が高い、余計な開発作業が少なくて済む、といったことが期待できます。その分、コストも抑えられるはずです。

 その点、機能要件を軸に選定すると、すべての要件を実現しようとするばかりに製品選択の幅が狭くなってしまいます。また、その中から強引に選ぼうとすれば、余計な開発作業がかさんで導入コストが膨らみ、開発期間も長い、ということにもなりがちです。ERPの導入・再構築に当たっては、自社は「何を実現したいのか」を明確にし、目的に応じて機能要件に優先順位を付ける“割り切り”も大切です。


 また、乗り換えをスムーズに進めるポイントは、ユーザーインターフェースや操作性を既存システムと変えないことです。これにより、エンドユーザーの業務負荷を減らすことができます。その点で、ERPの機能とフロントシステムを切り離してシステムを構築できるSOAアプローチは有効です。ERPとほかのシステムをEAIESBなどの連携ツールで結び、構築期間・費用を抑える方法もあります。諸費用を抑えながら大きな投資対効果を狙う方法は、さまざま考えられるのです。


 さて、いかがだったでしょうか。「まだまだ高い」ERPも、買うタイミングと導入・再構築の工夫次第で、決して「高い買い物」ではなくなります。あとは経営層、管理層の皆さんの考え方1つです。“目先のコスト削減”からいったん目を離して、中長期的な視点でIT投資を再検討することで、ぜひ、この千載一遇のチャンスをものにしてください。

筆者プロフィール

鍋野 敬一郎(なべの けいいちろう)

1989年に同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業後、米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。1998年にERPベンダ最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて担当マネージャーとしてmySAP All-in-Oneソリューション(ERP導入テンプレート)を立ち上げた。2003年にSAPジャパンを退社し、現在はコンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事する。またERPやBPM、CPMなどのマーケティングやセミナー活動を行い、最近ではテクノブレーン株式会社が主催するキャリアラボラトリーでIT関連のセミナー講師も務める。


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