納期・コストを削減する“開発案件3分割”の術エクスプレス開発バイブル(5)(3/3 ページ)

» 2009年08月17日 12時00分 公開
[西村泰洋(富士通),@IT]
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段階的な開発を実践するためのポイント

 以上のように、「3つのカテゴリに分けて優先順位を付ける」考え方を使えば、求められた納期に柔軟に対応できますし、ノウハウ的にも特に難しいものではありません。難しいのはその実践です。課題は2つあります。1つはカットオーバー当日に全機能がそろわないことに顧客企業が納得してくれるか否かです。これについては、あらかじめ顧客に理由を説明して“協力を求める”ことが大切です。

 例えば、納期「3カ月」というのは、顧客企業も厳しい要求であることをある程度承知していると思います。そこで、「3カ月でやりますが、この部分は協力をお願いします」と、最初の打ち合わせで伝えておくのです。

 こうすることで受け入れられる可能性は高まりますし、場合によっては、“同様の条件での開発経験があるからこその協力要請だろう”と、好意的に理解してもらえることもあるでしょう。顧客企業も業務上必要だからこそ「3カ月」と要求しているわけで、たいていの場合「それならビジネスとして用が足せる範囲で、まずはしのいでください」といった返事が返ってくるはずです。

 2つ目は、カテゴリ2の処理機能を要求仕様どおりに仕上げる、すなわち完成させるまでの間は「どのような運用でしのぐか」という問題です。その処理機能の利用者のPCスキルにも配慮した、具体的な手段を用意しておかなければなりません。

 これには、主に以下の3つの方法があります。

  1. 顧客企業のオペレータを教育し、処理の実行方法を覚えてもらう
  2. SEがオペレーションを支援する
  3. 簡易言語を活用する

 2と3は開発作業全体にかかわる話なので、採用しにくいかもしれません。特に2は開発拠点や開発体制、損益管理ともかかわるため、実行をためらうことでしょう。しかし、自社の利益や信頼性の向上、今後の会社同士の付き合いといったビジネス的な観点から、「どうしてもやりたい」あるいは「やらなければならない」といった場合は“腹をくくる”決断も必要です。

 とはいえ、2は「コストが絞られている中で、人材を割くなんて無理だ」と思い込みがちですが、“オペレータを支援する人材”とは、使い方を知っていて教えられるだけでいいのです。必ずしもSEである必要はないですし、社外のオペレータを短期間だけ手配する方法もあります。その処理機能を利用する時間が短く、開発サイトが顧客企業にあるなら、「SEがついでに支援」しても、さほど負担にはならないはずです。実は筆者も修行中の若手SEだったころ、これを経験したことがあります。

 要は、開発期間を見直した際のように、先入観に縛られず、“現実的な視点”で見直してみると、対策はさまざま考えられるということです。

開発の優先順位付けは、業務とシステムの在り方を見直すこと

 また、最初から「カテゴリ2」を想定しておくことは、短い納期を死守するための、いわば“安全策”としてですが、実はそれ以外にも、顧客企業とSEの双方にメリットがあります。

顧客企業にとっての効果

1.“暗黙の了解”だったプロセスが明確になる

「カットオーバー当初はメニュー画面を作らない」といったケースのように、1つの処理機能を段階的に作り込むためには、“処理遂行に不可欠な部分”と“後で作る部分”を切り分けなければなりません。そのためには、“暗黙の了解”だったプロセスも含めて、その処理に必要なプロセスすべてを言語化し、明確に把握する必要があります。これが業務プロセスを明確化する習慣を作る土台となるのです。

2.ビジネスへの意識が高まる

当面の運用方法を考える際、 その処理で扱うデータ量や、処理機能の運用状況を再確認することになります。これにより、顧客企業は、自社の業務状況や、実際にシステムを使う運用者に対する理解が深まります。

SEにとっての効果

1.処理機能そのものをシンプル化できる

段階的な開発を行うために、1つの処理の中でも“遂行に不可欠なプロセス”とそうでないものに分類しますが、これが無駄な作り込みを避けることにつながります。先の事例のように「コマンドプロンプトでも行える入力内容」ならメニュー画面も凝ったものにする必要はないと理解でき、処理機能をシンプル化できるといった具合です。

2.「あった方がベター」程度の処理は「なくても済む」に変わる

カテゴリ2の中でも、実運用の日程に基づいて開発の優先順位を付けていくと、顧客企業の業務に対する理解が深まり、「その処理が本当に必要かどうか」の判断基準が醸成されます。これにより「あった方がよい」程度の処理機能については、「なくてもよい」と判断できるようになり、作業工数の削減が図れるようになります。

 これらによって、よりシンプルなシステム構成となることで、おのずと開発作業を迅速化し、コストも削減することができるのです。


 さて、今回はエクスプレス開発の一手法として、“開発案件3分割 ”の手法を紹介しましたが、これはウォーターフォールなど一般的な開発手法でも十分に使えると思います。例えば「利用日が早い順に3つのカテゴリに整理し、開発の優先順位を付ける」といった具合です。

 また、顧客企業が求める要件のあらゆる無駄に気付いていながら、それを理解してもらうための術がなく、結局、納期をどうクリアするかだけに頭を悩ませてきた方も多いと思います。その点、“3分割の手法”で作った資料は、「不要なもの」に気付いてもらうための素材としても役立つことでしょう。ぜひ皆さんも実践してみてください。

筆者プロフィール

西村 泰洋(にしむら やすひろ)

富士通株式会社 マーケティング本部フィールド・イノベーションプロジェクト員。物流システムコンサルタント、新ビジネス企画、マーケティングを経て2004年度よりRFIDビジネスに従事。RFIDシステム導入のコンサルティングサービスを立ち上げ、数々のプロジェクトを担当する。@IT RFID+ICフォーラムでの「RFIDシステムプログラミングバイブル」「RFIDプロフェッショナル養成バイブル」などを連載。著書に『RFID+ICタグシステム導入構築標準講座』(翔泳社/2006年11月)などがある。



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