プライベートクラウド構築は、ここから始まるクラウド時代のIT資産管理(3)(2/2 ページ)

» 2009年09月10日 12時00分 公開
[武内 烈(株式会社コア),@IT]
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構成管理で実施すべき点とは?

 サービスの構成管理は、ユーザーが利用するサービスとは何かという視点に立って考えてみる必要がある。

 例えば、営業職であるユーザーにとって自分の仕事を遂行するうえで利用しているPCは、PC本体を含めてすべてITサービスと考えられる。しかし、サービスを提供するITサイドからすると、ユーザーに提供されているITサービスは複数のサービスから構成されるものだ。細かくは構成アイテムがあり、その上位にはサブシステム/システムがあり、あるいはアプリケーションという単位やそれらが集まって作られるビジネスプロセスなどもある。

ALT 図4 ITサービスをユーザー視点で考えてみることも必要だ(コア提供の図を基に編集部が作成)

 こうしたユーザー視点のサービスをSLAに基づいて管理するには、前述のようにサービスを構成するサービス資産、そして構成アイテムのリレーションが把握・管理されていなければならない。加えて、何らかの理由でサービスレベルが変更された場合、問題解決のために変更が行われた場合は、変更前と変更後の構成状態も記録・管理されるべきだ。

 たとえ、PCプラットフォームがBPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)によってアウトソーシングされていたとしても、基本的にはエンドユーザーから見たサービスは目の前のPCに始まり、PCに終わる。障害対応を考えれば、PC環境の問題とデータセンター側の問題の切り分けを迅速に行うために、PC環境の標準化と資産管理情報の一元化、インシデント管理や既知のエラーデータベースの一元化などが必要となろう。

ALT 図5 複雑化したITサービス環境では切り分けを迅速に行えるような手立てを用意しておくことが大切だ(コア提供の図を基に編集部が作成)

サービス資産・構成管理はどこから着手すべきか?

 変化対応力、全体最適によるコストの最適化を実現するために重要な変更管理は、影響分析やサービス構成のコスト管理などが不可欠なことからサービス資産・構成管理が成功の鍵を握るということは間違いない。

 さらにCMDBを通じて会計データと構成アイテムをひも付け、構成アイテムがサービスに関連付けされると、サービスのコストがより明確に説明できるようになる。ユーザーがシステムの「所有」ではなく、サービスの「利用」に対価を支払う、というモデルのクラウドでは、ビジネス優先度に応じてコストが異なる構成アイテムを選択肢として提示することは、ビジネスサービスとしては不可欠な要素だ。

 それを実現するためにはロードマップをしっかりと持ち、CMS(構成管理システム)を段階的に構築していくことが必要となろう。

ALT 図6 構成管理システムの例(出典:ITIL書籍『Service Transition』 TSO刊)(クリック >> 図版拡大)

段階的CMS構築

1. 基礎データとなる資産管理

構成アイテムの粒度と管理対象の範囲を決定し、CMDBとの連携を念頭にデータベース化する

2. 属性情報の管理

構成アイテムに付属する属性情報の管理。例:保守契約、SLA、マニュアル、移動情報など

3. 構成アイテムのリレーション管理

アプリケーションの依存関係やOSとひも付けられるCPUコアの管理。仮想サーバとひも付けられるルータ、Webサーバ、ストレージなどのリレーションを可視化する

4. 構成管理

構成状態のスナップショット、インシデント、会計データ(構成アイテムの簿価)などの管理、変更管理データベースへの情報提供や変更実施時(リリース管理との連携)の情報の反映など


 資産管理を行ううえで最初の段階では、仮想化サーバの構成管理をマイルストーンとすることが考えられる。いままでの業務システムは安定稼働を理由に、物理サーバ上に1つのOSを載せ、そこに1つのアプリケーションを稼働するという環境だったが、仮想環境では1OS/1アプリケーションというセットは仮想サーバ上に構築されているので、その構成は必要に応じて変更可能となる。

ALT 図7 仮想環境におけるサービス資産・構成管理(コア提供の図を基に編集部が作成)

 仮想サーバ上で動かすソフトウェアも購入方法・契約によっては、変化する環境によっていつの間にかライセンス違反をしているといった、コンプライアンス問題が出てくる可能性がある。従って、ソフトウェア資産管理(SAM)は、従来のようにPC環境のアプリケーションライセンスだけではなく、仮想サーバ上のソフトウェア(OSやミドルウェア、アプリケーション)についても対象とすることが求められよう。


 大規模化・複雑化・高度化し、ますます細分化していくITサービスの運用環境と運用体制を、企業戦略に整合したIT戦略の中で設計・構築し、変化対応力を向上させながら全体最適を実現し、同時にコスト最適化を図ることは容易ではない。内部統制やコンプライアンスに配慮しながら、最重要課題である「企業競争力」の向上という差別化をプライベートクラウドを通じて実現するうえでの問題は多々ある。

 その一方でいま、IT業界は仮想化やクラウドに対して、莫大(ばくだい)な力を注いでいる。技術面だけではなく、マネジメントやアドミニストレーションについても知恵やノウハウが高度化してくるのは間違いない。“変化対応力のあるIT”というゴールを明確に戦略とポリシーを持てば、それを支援してくれるパートナーは確実に存在する。厳しく険しい道のりも、目的地がはっきりし、優れた道先案内人がいれば乗り越えられるのでないだろうか。(了)

著者紹介

▼著者名 武内 烈

株式会社コア プロダクトソリューションカンパニー

ネットワークソリューション事業部 マーケティング ディレクター

アーティソフトジャパン株式会社、日本ヒューレット パッカード株式会社 ソフトウェア事業部を経て現職。


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