人生を揺るがす人事異動目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(27)(3/4 ページ)

» 2009年10月27日 12時00分 公開
[山中吉明(シスアド達人倶楽部),@IT]

縦割り組織に風穴が空いた日

 今日の打ち上げ会は、坂口が幹事役を買って出て企画したものだ。

 直接、システム開発に携わった情報システム部のメンバーはもちろん、上流工程での要件定義や土壇場の要件変更でさまざまな協力をお願いした配送センターや東京工場の主要なメンバーにも声を掛けていた。

 しかし、配送センターや東京工場は東京の郊外にあるため、宴会への参加はごく一部のメンバー、しかも大幅に遅刻しそうだとのパッとしない回答が坂口の下に寄せられていた。「ぜひとも現場の仲間たちと一緒に新システムのリリースを祝いたい」という坂口の思いは実現できないままに、宴会は終盤の時間帯に差し掛かっていた。

 そんな中、坂口には、もう1つ気になっていることがあった。

坂口 「今日は豊若さん、来ていないみたいだけど……」

松嶋 「そうなの、今日はいないのよ。豊若さん、もう俺がいなくても大丈夫だろって、先週から長期休暇に入っちゃったわ」

坂口 「そうなんですか……。どこかに旅行でも行かれたんですかね?」

松嶋 「どうやら、海外に行ってるみたいなのよ」

坂口 「そうですかぁ……。自分探しの旅、かな?」

松嶋 「そうね、豊若さんのことだから、きっと魅力的なところに行ってるんだと思うわ」

 豊若とは、リリース当日の夜、いつものバーで祝杯をあげた後、1週間会っていない。何度か携帯電話に連絡を入れてみたが、通じなかった。新システムの稼働を丸1日見届けて、自分がいなくても大丈夫だと判断したのだろうか、ある意味、豊若らしい行動かもしれない、と坂口は納得することにした。

 そのとき、宴会会場にどやどやと人が入ってきた。先頭にいるのは、配送センターの岸谷だった。岸谷が仲間を10人ほど引き連れて会場に現れたのだった。

坂口 「岸谷さん、来ていただけたんですね!」

岸谷 「おう! 遅くなってすまんな。お前から宴会の誘いを受けた後、伊東からも連絡をもらってな、あいつもなかなか気が利くようになったなぁ。うちのメンバーたちに電話をよこして、ぜひ来てくれって声を掛けてたぜ!」

坂口 「ありがとうございます! 伊東も岸谷さんに鍛えられて、だいぶ成長しましたよ」

岸谷 「しかし、盛大だな。こんなに大勢でシステム作ってるんだな。お前、これだけのメンバーをよく仕切ったな、さすがだ」

 岸谷はそういうと坂口の肩をバシッと叩いた。

 配送センターの陽気な仲間が加わり、会場も一層にぎやかになったところに、今度は角野工場長をはじめとした東京工場の面々が到着した。

角野 「坂口さん、遅くなって申し訳ない。天気予報、大いに使わせてもらってますよ! うちのメンバーも坂口さんや伊東さんに大変お世話になったから、ぜひお礼をいいたいと、今日はたくさんついてきてくれました。まだビールはありますかな?」

坂口 「もちろんです! 皆さんが作ってくれた新鮮なビール、まだまだたくさんありますよ!」

 こうして、打ち上げ会は坂口の念願通り、システムの供給者と利用者、総勢50名が一堂に会する大宴会となって、間もなくお開きの時間を迎えようとしていた。

伊東 「名間瀬さん、何だか今日は元気がないみたいですが、大丈夫ですか?」

名間瀬 「ああ、大丈夫だ。連日の緊張でちょっと疲れが出たみたいだ」

 そういうと、名間瀬はジョッキに残ったビールを一気に飲み干した。

名間瀬 「伊東! お前はいまの職場が、このIT企画推進室が好きか?」

伊東 「は、はい、大好きです! 大変な職場ですけど」

名間瀬 「そうだよなぁ、俺も好きなんだよ……」

 そういうと、名間瀬はそのまま突っ伏して寝息を立て始めてしまった。

伊東 「おっと、もう時間だ!」

 伊東は腕時計に目をやると、パチパチと手を叩きながら立ち上がった。

伊東 「皆さん、そろそろお開きの時間となりました。締めのごあいさつは、われらがIT企画推進室長、坂口さんです!」

 伊東が坂口を指名するや否や、会場から坂口コールが起こった。

「さかぐち! さかぐち! さかぐち!……」

 坂口は照れ笑いを浮かべながら、立ち上がった。

坂口 「今日は、こんなに多くの皆さんにお集まりいただいて、本当に嬉しく思います。今回のプロジェクトが無事にリリースできたのは、ここに集まっている皆さん、そしてサンドラフトの現場で頑張っている社員全員の協力があってこそだと思っています!」

 坂口が話し始めると、会場はシーンとなって皆が坂口に注目した。

坂口 「私が去年、サンドラフトの本社に来たとき、何となくみんながよそよそしかったというか、みんな自分の仕事で精いっぱいな雰囲気を感じました。良い意味でいうなら仕事熱心、誤解を恐れずにいうなら縦割りで横の連携があまりできていない印象を受けました。それで、お互いに協力するとか、そういうことをいい出しにくいムードがあったんです。しかし、今回のプロジェクトを進めていくうちに、そんな心配はどこかに消えてしまいました!」

 坂口は岸谷や角野らに視線を送りながら続けた。

坂口 「今日ここには、システムを作る情報システム部の人たちや営業のメンバーだけでなく、配送センターや工場の皆さんもたくさん集まっていただけました。今回の業務改革が情報システムという一部分だけでなく、業務プロセス全体に踏み込んで営業部門、製造部門、物流部門、そしてIT部門のみんなで作り上げたものだということを、今日私は強く確信することができました。皆さんの協力は本当にありがたかったです。そして、皆さんが素晴らしいアイデアを出してくれたおかげで、当初の計画から格段に良い仕組みが作れたと思います。心からお礼を申し上げます。本当にありがとうございました!」

 坂口は深々と頭を下げた。

「さかぐち! さかぐち! さかぐち!……」

 盛大な拍手と坂口コールが会場に鳴り響き、それはしばらくの間、鳴りやまなかった。

※登場人物一覧へ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ