MSの協力も獲得、セブン-イレブンに学ぶ“共存共栄”の視点フューチャーアーキテクト 碓井誠氏が東京大学で講演

» 2009年11月25日 00時00分 公開
[内野宏信,@IT]

 東京大学が主催する教育研究プロジェクト「東京大学グローバルCOEプログラム」が11月24日に開催したセミナーで、フューチャーアーキテクト 取締役副社長の碓井誠氏が、サービスの生産性と付加価値の向上を狙う“サービス・イノベーション”の在り方について講演を行った。売り手社会から、生活者主導の買い手社会、そして多様な価値観が共生する“価値社会”に向けて社会が変容し続ける中で、「企業はサービスを自社の枠内だけで考えるのではなく、社会の変化に根ざした幅広い視点でサービスの在り方、それを支えるITシステムの在り方を考えるべき」と訴えた。

“顧客起点”と“共存共栄”がキーワード

 市場環境とそれに対する企業の在り方は常に変化し続けている。バブル崩壊以前の“売り手社会”、それ以降の“買い手社会”、そして多様な価値観が共存する“価値供創社会”に向けて社会全体が変容していく中で、企業と顧客との交流チャネルや業務プロセスも絶え間なく変化し続けてきた。

 これに伴い、サービスの在り方も常に問われ続けている。例え製造業のように「製品」が収益のキーファクターとなる業態であっても、自動車なら修理、保険、ファイナンスといったように、ハードウェアにはその何倍ものアフターサービス市場が付随している。碓井氏はそうした例を指摘し、「業種を問わず、すべての企業が、サービスの生産性と付加価値をどう向上させるか、その在り方を考えるべきではないか」と提案した

写真 フューチャーアーキテクト 取締役副社長の碓井誠氏

 その事例として、1993年のバブル崩壊以降も安定的に収益を上げ続けてきたセブン-イレブンの取り組みを紹介した。

 同社では、“売り手社会”から多様な価値観が共存する“価値供創社会”に向けて社会全体が変容していくことを見据え、「単なる小売業ではなく、買う人の変わりに望む商品をそろえる、存在しなければ開発する“購買代理業”として自社を位置付けるとともに、時間を問わずいつでも買える利便性を提供する」ことなどを経営理念として掲げた。

 これを基に「顧客の立場での品揃えの充実」「顧客起点の商品開発、サービス開発」、顧客が望む製品を望むときに無駄なく提供できる「サプライチェーン体制」を戦略として打ち立て、それを支える業務プロセス、ITシステムを設計したという。

 講演では、この取り組みを実行した際のあらゆるポイントが紹介されたが、ここでは中でも核といえる3つのポイントを紹介したい。1つはサプライチェーンの効率化や、取引先の管理・業務支援システム、フランチャイズ店舗の店舗情報システムの構築など、戦略の核をなす部分については、すべてセブン-イレブン本部側が体制を整え、パートナー企業や店舗を戦略実現に向けて強力にリードしたこと。2つ目は、パートナーや店舗との情報連携や業務支援を行うために、徹底したIT化を推し進める一方で、セブン-イレブンの業務があくまで“対人型のサービス”であることを重視したことだ。

 「顧客満足を生み出すのは顧客接点にいる従業員であり、サービスの質は従業員の満足度に依存するといわれている。従って、従業員を支援するITシステムの在り方も、効率だけではなく、ユーザー、すなわち“従業員の負荷を軽減すること”ことを念頭において開発した」という。

写真 商品のバーコードスキャン入力システムを使った検品システムの概念図。ユーザーの負荷低減と情報品質の向上を果たした

 例えば、商品のバーコードスキャン入力システムなどはその端的な例だという。従来は店舗スタッフが伝票を使って行っていた仕入れ検品や、売り上げ計上業務、在庫変更業務まで、誰でも容易かつ確実に行えるようにした。これによって店舗スタッフの負荷を下げるとともに、店舗から本部に吸い上げる情報の品質も向上させた。1店舗当たり年間110万円のコスト削減にも成功したという。

 「セブン-イレブンの場合は、本部とパートナー、店舗の役割を明確に切り分けた。そのうえでパートナーや店舗には日常業務や販売、顧客サービス向上に集中してもらうべく、本部はその環境整備を徹底的に支援した格好だ。その活動の根底に流れていたものは、顧客起点のサービスを実現にするに当たり、パートナー、店舗に対しても一方的に何かを押し付けるのではなく、“共存共栄”を図る考え方だ。これが安定した収益獲得を支えてきたといえる」(碓井氏)

 碓井氏はこのように述べ、“サービス”という概念について、「あくまで人的要素に根ざしたものであり、その受給者だけではなく、社内外のスタッフという提供者側にも深くかかわる点に本質がある」と解説した。 

自社で不可能なら、社外と連携して作る

 3つ目は、『買う人の変わりに望む商品をそろえる、なければ開発する“購買代理業”』という理念を支えている「チームマーチャンダイジング」という考え方だ。以前、同社では生めんタイプのカップラーメンを開発したが、その商品開発のほか、製造技術、在庫管理、品質管理、物流といった、製品を市場に安定的に流通させるために不可欠な体制を、社外パートナーと連携することで整備したという。結果、「248円」という同一ジャンル製品としては高めの価格設定だったにもかかわらず、1000万個を販売するヒット商品となった。

写真 顧客起点で商品とそれに付随するサービスを考え、自社だけで実現が難しい場合は、共存共栄を前提に、社外パートナーと連携する

 「共存共栄をキーワードに、適切な社外パートナーと連携する」ことの重要性について、「24時間ATM運営」の事例も紹介した。1990年代後半、“買い手社会”への変化によって、金融市場でもリテールビジネスの拡大が求められていた中で、セブンイレブンは1999年に主要都銀を巻き込み、銀行の不採算領域である行外ATMサービスの事業計画を提案した。

 これを支えたのが、1997年にスタートした「第5次店舗システム」におけるWindows OSを活用した オープン化の取り組みだ。同社は1995年、マイクロソフトの協力を仰ぎ、Windoows OSの最適化・機能強化とミドルウェア開発への協力、そのためのソースコード開示と、ソリューションパートナーであるNECによるOS改造などの許諾を得た。そしてこれを基に、NECや野村総合研究所の協力を得て、店舗システムの365日24時間運用自動化と信頼性の向上を図った。こうした第5次店舗システムのシステムモジュールやノウハウを持っていたことが、世界初となったWindows OSによるATMの実現につながったという。

 碓井氏は、「サービスの生産性、付加価値向上を考えるうえでは、社会全体のトレンドを見据え、あくまで顧客起点で考えることが大切。その実践についても自社内だけで考えを完結させず、必要な要素が社内に“なければ作る”という考え方を持ち、“共存共栄”を前提に、パートナーと連携する視野の広さが大切だ。サービスを支えるITシステムについても、人が行うべきこと、システムで処理すべきことをまず切り分け、ユーザーの負荷を下げることを前提に開発に望むべきだ」と最後にあらためて解説。

 「“サービス”という概念を幅広くとらえ、社会の変化に基づいて、顧客、パートナー、従業員、それぞれに対する付加価値、満足を包括的に追求して共存共栄を図る」考え方が、おのずとビジネスチャンス獲得、収益向上につながっていくことを強く示唆した。

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