目先の利益追求だけに陥ることなく、“永続的に収益を獲得できる仕組み”を構築したいいま、マーケティング施策のROI最大化に寄与するという概念、マーケティング・リソースマネジメント(MRM)が、日本国内でもにわかに注目を集めつつある。
「100年に1度」とも表現された経済環境の悪化を受けて、コスト高で効果がみえにくいマス広告を減らし、インターネットを中心とした効果の測定しやすいダイレクトマーケティングにシフトする企業が増えている。生活者の買い控えが続いている小売業では、リアル店舗での集客を狙い、「ポイントカードのポイント還元率アップ」など、値引き作戦を展開している例も多い。
しかし、こうした施策は、短期的な集客増・売上増しか見込めない。厳しい経済情勢がすぐには回復しないであろうことを考えれば、そうした施策を乱発するより、各種施策の成功率がおのずと高まるような顧客基盤を醸成するなど、「永続的に収益向上が見込める仕組み」を構築したいところだ。
そうした仕組みの1つとして、かつて「カスタマーエクイティ」というコンセプトが注目を集めた。これは顧客を「財務的資産」ととらえ、顧客が将来にわたってもたらすであろう総利益から販促費などのコストを差し引いた「顧客1人1人の生涯価値」を高める考え方だ。
具体的には、顧客との親密な関係構築を図り、顧客の心理における自社ブランドの優位=ブランドロイヤリティを築くことで、長期にわたる安定的な収益基盤となる顧客資産を作ろうという戦略だ。投資収益率(ROI)とカスタマーエクイティによる収益性のバランスを評価しながら、自社の市場の成長性を測る方法なども提唱された。
ただ、カスタマーエクイティも実践するとなるとなかなか難しい。例えば「顧客1人1人の生涯価値」を高めるためには、まず現時点の「生涯価値」を把握しなければならない。しかし、生涯価値を数値化することにこだわった結果、そこでつまずいてしまい、なかなか先に進めないといったケースも多い。
それなら、日常的かつ手軽に集められる販売実績データ、例えば顧客1人1人の「購買金額」「購買頻度」などを活用して、各種マーケティング施策の効果を分析し、次の販売活動に生かすことの方がより現実的であり、顧客の収益性分析も始めやすいのではないか??そんな考えを持つ企業も数多く現れた。
ただ、そうしたことを行うためには以下のような要件が求められる。
すなわち、データウェアハウスとBIをうまく使いこなすことがポイントとなるわけだ。しかし、右の表を見てほしい。
これは2007年12月?2008年1月にかけてアビームコンサルティングが実施した「ビジネス・インテリジェンス導入企業におけるBI活用実態の調査」だが、BIを使いこなせている企業は約半数にとどまっていることが分かった。
「多様な切り口によるデータ参照」「レポート作成作業の効率化」といった可視化には役立てられている企業が多い半面、「課題の早期把握による迅速な対応」「問題点の原因究明」といった分析用途で活用できている企業は約半数にとどまっている。事実、回答企業の多くは「用途が現状の可視化にとどまっており、KPIを軸とした(分析のための)マネジメントサイクルの確立が必要」と感じていることも分かった。
カスタマーエクイティは現実的にみて実践が難しく、データの分析・活用にも課題を抱えている。では、この厳しい時代、コストを抑えながらマーケティング施策の効果を最大化するためには、どうすればよいのだろうか?――その点で、いまにわかに注目を集めているのがマーケティング・リソースマネジメント(MRM)という概念だ。
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