いま注目を集めるマーケティング・リソースマネジメント(MRM)MRM入門〜販促効果を最大化する方法〜(1)(2/2 ページ)

» 2009年12月08日 12時00分 公開
[加治達也,アビーム コンサルティング]
前のページへ 1|2       

マーケティング施策のPDCAサイクルを確立する

 MRMとは、“マーケティング・リソースマネジメント”という名のとおり、顧客獲得/顧客維持にかかわる各種マーケティング施策(マス広告、チラシ、ダイレクトメール、キャンペーンWebサイト、メールマガジンなど)の効果を見定め、それに基づいて予実管理を行い、リソースを適正配分してROI最大化を狙うという手法だ。

 具体的には、顧客1人1人の「購買金額」「購買頻度」「ブランドに対するロイヤリティの深度(顧客ステータス)」「キャンペーンに対する問い合せ/資料請求の有無」「購入までのリードタイム」など、各種マーケティング施策に対する顧客の反応を測るためのKPIを設定しておき、施策実施後に実績値と目標値の比較を行う。さらに、そうしたデータをさまざまな切り口で分析することで、成功/失敗パターンの傾向を見極める。

 これにより、目標達成率が低く、無駄なコストを生み出しているだけのマーケティング施策を減らし、より効果の高い施策を実施することで売り上げ向上を狙うというものだ。

 ポイントは2つある。1つは、効果的な「施策」を発見するだけではなく、施策の骨組みとなっている“効果的なアプローチのパターン”まで分析・把握すること。具体的には、過去の実績値から、効果的だった施策における「ターゲット層」「メディア」「クリエイティブ」「タイミング」などの“パターン”を導き出し、その“手堅いアプローチ”を次のアクションプランにも採用する。そのうえで再び効果を測り、中でも優れた実績を残した“手堅いアプローチ”を次の施策にも採用する。すなわち、PDCAサイクルを運用し、継続的に施策に磨きをかけていく。

 前のページで述べた、BIやDWHを使った方法と一見似ているが、MRMと大きく異なるのは、まさしくこの点だ。前者は「効果の分析」「優れた施策の抽出」など“結果”にフォーカスして「効果的だったものを次も使おう」というものだが、MRMはなぜその施策が効果を発揮したのか、施策の「内容と効果の因果関係」を明確化するとともに、PDCAサイクルを運用して、より戦略的に継続的改善を狙う。

 MRMのもう1つのポイントは、、確実にMRMを実践するために、PDCAサイクルを回すためのKPIと業務プロセスを定義し、その中にITシステムの機能を明確に位置付けること。企業がBIを使いこなせない主原因は、前のページで紹介した調査で多くの企業が回答したように、“KPIを軸としたマネジメントサイクル”、すなわちツールを活用するための指標や業務プロセスが確立されていないことにある。MRMという手法は、こうした課題解決のガイドとなる意味でも大きく期待できるわけだ。

マーケティングROI最大化に向けて、いまこそが取り組むチャンス

 MRMの効果は大きく、海外ではその成功事例が数多く報告されている。例えば、グローバル展開する大型ホテルチェーン、スターウッドホテル&リゾートでは、リゾート地などの物件の所有権を一定期間提供する「バケーション・オーナーシップ」という商品を展開している。

 同社では、この商品の販売を促進するためにさまざまなアプローチを行ってきたが、年々増加、多様化する顧客ニーズの管理・分析が難しくなりつつあったことから、顧客データを横串しで分析するための基盤としてDWHを構築した。

 そのうえで、MRM専用のパッケージシステム()を使って、過去の各種キャンペーンの実績を分析し、「どのターゲットに、どんなキャンペーンを、どのタイミングで実施するのが最も効果的か」を予測したり、各ターゲットに合わせた効果的なキャンペーンの作成、実行、分析というプロセスを確実に管理できる環境を整備した。


注: 国内での認知度は低いが、MRMの実践を支援するパッケージ製品も存在する。事例のスターウッドホテル&リゾートの場合も、米国のパッケージベンダ、Unica社の製品群「Enterprise Marketing Management suite」を使用している。キャンペーンの企画・実行・効果測定などの機能を持つ「Unica Campaign」、顧客セグメントの分析、最適なクロスセルのタイミング分析、予測モデルの作成機能を提供する「Unica Predictive Insight」などで構成しているという。


 このように、マーケティング施策の効果分析と継続的改善のためのPDCAサイクルを確立し、その運用を効率化した結果、取り組みを実施した6カ月後には各キャンペーンの全レスポンスレートが平均15%、予約率が24%向上したという。


 むろん、MRMは一朝一夕に実践できるものではない。しかし、先の見えない状況の中、目先の利益を追い求めて短期的な施策を繰り返すだけでは企業は疲弊してしまう。いまこそ中長期的な視点に切り替え、より効率的なアプローチを確立すべきではないだろうか。それに日本国内では、この概念がまだ浸透していない。先駆けて着手することで、マーケティングROI最大化に向けて優位性を築けることは間違いない。

 次回から、MRM実践のポイントとなる「マーケティング活動を実施するうえでの課題の明確化」「マーケティング活動の成果を測るためのKPIの設定と、改善に向けた業務プロセスの確立」、そして「MRMの実践に最適なITソリューションの導入」、それぞれについて詳しく解説する。ぜひ実践を検討してはいかがだろう。

筆者プロフィール

加治 達也(かじ たつや)

アビーム コンサルティング株式会社

プロセス&テクノロジー事業部 CRMセクター マネージャー顧客分析、ブランディング、マーケティング、セールス、カスタマーサービス、ナレッジマネジメントなどのCRM領域を中心に、戦略策定、BPR、システム開発などのコンサルティングを担当している。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ