仮想化のメリットを引き出す5つの条件仮想化時代のビジネスインフラ(8)(3/3 ページ)

» 2010年03月18日 12時00分 公開
[大木 稔 ,イージェネラ]
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経営トップの理解と、情報システム部門の主体性が不可欠

経営トップがITの必要性を理解している

 社会一般には「ITはビジネスに欠かせないもの」という認識が定着していながら、経営トップには「膨大なコストが掛かるお荷物的な存在」として扱われているケースは少なくありません。しかし仮想化技術に限らず、ITの導入には経営トップのコミットメントが不可欠です。

 実際、その十分な理解を得られないまま、本来必要な機能よりも「1円でも安く済ます」ことにばかり注目していると、あとから追加開発が必要になってかえってコスト高になったり、業務に支障が出たりする可能性が高くなります。ITを使うと業務上どのようなメリットが見込めるのか、IT活用の重要性を情報システム部門が経営トップに説明し、きちんと理解してもらう機会を作ることが大切です。特に仮想化技術の本格導入は全社的な取り組みとなるだけに、そうした姿勢がなおさら不可欠だといえます。

 また、経営トップも情報システム部門からの提案にきちんと耳を貸すべきです。ITシステムに何か問題が起こるたびに「お荷物扱い」され、常に「コストが掛かり過ぎる」といわれている中で、情報システム部門がことなかれ主義に陥るのも、考えてみれば無理はありません。経営トップが常に「改善・改革」の環境を現場に与えることが、ITを有効活用する1番のポイントなのかもしれません。

 某大手証券会社のCIOは、経営トップに対して3年間での業務改革実現をコミットし、経営者からプロジェクト実行の承認と、そのために必要な権限を獲得しました。そのうえで、インフラ全体を仮想化し、各プロジェクトごとにシステムを構築する体制から、全社のITインフラを専門チームが一元管理して全社で共有するスタイルへの変革を図ることに成功しました。

 当初、仮想化技術を使うことについて、社内の各部門からかなり抵抗されたそうです。そこで、まずは万一障害が起こっても被害が少ない社内システムから仮想環境に移行して、稼働実績を作りながら徐々に顧客向けの商用システムへと仮想環境を展開していきました。その後、システム構築期間の短さや、システムの故障率の少なさ、年間40%のITコスト削減などが注目されるようになり、着実に社内の理解を得ながら移行を進めることができたそうです。

 こうした全社横断的な取り組みができたのも、経営トップの理解があったからこそです。また、何らかの新しい取り組みを行う際には初期投資が必要になりますが、そうした面も含めて経営トップが支援したこともポイントになりました。その意味で、仮想化技術の本格導入は、経営トップとCIO、情報システム部門の強い信頼関係が成功の鍵であるといっても決して過言ではありません。

ベンダ任せにしない

 新しい技術やITシステムを導入する際、複数のベンダに提案依頼を出し、各提案書を机上で吟味して結論を出すのが一般的だと思います。しかし、ある大手製造業では、仮想化技術を導入する際、机上における検討の後、自社システムの1部を仮想環境に移行し、実際に使用しながら半年以上かけてそのメリットを検証したそうです。

 その結果、仮想サーバのプロビジョニング作業の短さを実感できたり、仮想環境におけるシステムの挙動を把握できたりと、机上だけでは知り得なかった事象を確認でき、この体験がビジネスニーズに最適な形で成功裏に仮想化技術を導入するポイントとなったそうです。

 机上での検討に比べてコストも時間も掛かりますが、自社のビジネスに最適な形で導入できたのですから、長い目でみれば安いものです。また、検証作業に伴い自社システムの現状をすべて掌握したことで、ITシステムの機能向上に向けた将来的なロードマップをスムーズに策定でき、今後新しい技術が登場しても、必要なものを即座に取り込める体制を築けたということです。

 そんな事例がある一方で、某大手通信事業者の役員の方からは「仕様書も書けないIT部門で困っている」という話を聞いたことがあります。完全にベンダ任せになっており、何かやろうとしても、どのシステムにどんな影響があるのか、機能追加にどれほどの期間が必要なのか、まったく分からない状態になっていたそうです。某大手流通企業の方は、情報システム部の部長に異動になった直後、システムの現状について、部下に聞いても、実運用を担う情報システム子会社に聞いても正確に把握しておらず、結局ベンダに膨大なコンサルティング料を払って調査してもらったそうです。こんな状態では、仮想化技術をどう活用するかという議論などとうてい不可能です。しかし、これを笑えない会社は意外に少なくないのではないでしょうか。

 ITシステムを最も効果的・効率的に使用できるのは、あくまでもビジネスを深く理解しているユーザー企業自身です。ビジネスの現状と目標を把握し、「その達成のために、どんな業務が必要か」「どの業務を、どう効率化すべきか」「そのためには、どんな機能が必要で、どの機能が不要なのか」「どう運用できれば効率的なのか」といったことを判断できるのは、自社の業務を知り尽くしているユーザー企業だけなのです。 ベンダは技術的な側面から、計画の実現を支援するに過ぎません。

 ITの活用は、エンドユーザーが考えるべきことと、ベンダができることを明確に切り分けたうえで、主体的に考えることが大切です。特に仮想化技術は「いまあるリソースを、より効果的・効率的に使うための技術」ですから、ITシステムを含めた自社の業務環境に対する深い知識と、その効率化に向けた主体性がなおさら強く求められるのです。


 着実に浸透しつつあるとはいえ、現時点ではコスト削減を仮想化技術導入の主目的としているケースがほとんどだと思います。しかし、仮想化技術の真のメリットは、柔軟性が高いITインフラを構築することで、ビジネスの状況に応じて、必要なITインフラ、ITシステムを即座に、無駄なく用意できることにあります。収益を挙げるための“武器”になるのです。

 仮想化技術は今後もどんどん進化していきます。いまこそ「ユーザの自立」に向けて本腰を入れて取り組んでください。そして仮想化技術をはじめ、さまざまな“武器”を使いこなせるようになることを目指してください。私は皆さんが1日も早く自立されることを願ってやみません。

著者紹介

▼著者名 大木 稔(おおき みのる)

イージェネラ 代表取締役社長。日本ディジタルイクイップメント(現 日本ヒューレット・パッカード)でNTTをはじめとする通信業向けの大規模システム販売に従事した後、オクテルコミュニケーションズ、テレメディアネットワークスインターナショナルジャパンで代表取締役を歴任。その後、日本NCRで事業部長、日本BEAシステムズで営業本部長を務めた後、2006年1月から現職に着任した。現在は「インフラレベルでの仮想化技術が、企業にどのような価値を生み出すか」という観点から、仮想化技術の普及・啓蒙に当たっている。


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