自分の「心のポジション」はいつもどこにあるのだろう? 人の言葉や物事の受け止め方を振り返ってみると、自分自身の“人生に対する基本スタンス”と、物事に対する“あるべき向き合い方”が見えてくる。
本連載では、第1回〜第3回で「“ユビキタスストレス”時代」「心の栄養ストローク」「交流分析」について解説してきました。これらを通じて、心の状態を知る「心の観察法」をご紹介してきたわけですが、中には本連載を読まれて心の状態に目を向け、「思い切って行動を変えてみた」という方もいらっしゃるのではないでしょうか(いらっしゃいますように!)。
もちろん、変えた「つもり」では駄目ですよ。やる以上は、第三者が「○○さん、変わったな」と思うくらい派手にやってほしいものです。
さて、そこで今回の本題です。第三者から「自分を変えよう!」という働き掛けを受けたとき、皆さんはどのような感情を抱きますか?
たとえ同じ環境にあって、同じメッセージを受けたとしても、人によってとらえ方は異なりますよね?
もちろんこのことは、第3回で解説した「自我状態分析における5つの心のバランス」がどういう状態にあるかによっても変わってきますが、上記の1〜4はもっと“根本的な違い”が表れたものです。そして、その“違い”によって、すべての物事に対するとらえ方がまったく異なってくるのです。
この「とらえ方のスタンス」を4つのマトリクスで表したのが以下の図1です。縦軸に「自分自身に対する承認度」を、横軸に「相手や周りの環境に対する承認度」を取っています。私はこれを「心の中のOK牧場」と呼んでいます。
1番健全なポジションは「1――私もあなたもOK」というポジションです。働き掛けに対して、「君が言うならやってみよう。できるはず」と自分も相手も肯定しているポジションですね。自分自身を大切にし、相手のこと、周りのことも尊重しているため、建設的なコミュニケーションを取り、信頼関係を構築していくことができます。
ストローク(ストロークの詳細については第2回を参照)の受け取り方についても、上手に「プラスのストローク」を受け取ることができるポジションにあります。自分の心にプラスのストロークを取り入れるために、また、良好なコミュニケーションを図るためにも、「心のOK牧場」で示される心理的ポジションを「1――私もあなたもOK」に保つのはとても大切なことなのです。
ところが、物事がうまくいかなかったりすると、自分を責めてしまったり、周りが悪いと感じたりすることがありますよね? 本当に行き詰まってしまえば、「自分の力も足りないし、周りも分かってくれない。どうせ何をやったって無駄だ」という思考に陥ってしまうこともあります。実際にそんな経験のある方も少なくないのではないでしょうか?
こういうとき、心は自分、あるいは他人に対して「NOT OK」のポジションにあります。心が「NOT OK」のポジションにあると、自分や相手に対してふがいなさやいら立ちを感じたりします。そして、第三者からのどんな働き掛けに対しても、「マイナスのストローク」として受け止めてしまいがちな状態になります。
これを分類したのが、マトリックスにおける2〜4の象限です。例えば、仕事のミスを指摘されたとき、「2――私はOK、あなたは駄目」のポジションにある人は、「今回はたまたまなのに、うるさいなぁ……」と思ったり、何か意見を求められたとき、「どうせ参考になんかしないで、自分で決めちゃうくせに」などと思ったりします。
「3――私は駄目、あなたはOK」のポジションの人は、ミスを指摘されると「やっぱり私は駄目だなぁ……」と憂うつな気分になったり、何か意見を求められても、「私の意見なんかより、○○さんに聞いた方がいいですよ……」と、必要以上に自信なさげな言葉を発したりします。
「4――私も駄目、あなたも駄目」のポジションの人は、「私は駄目だな、どうせ周りも信用なんかしていない……どうでもいい」と不毛な感情を持つことになります。
普段の生活の中で、皆さんは1〜4のうち、どのポジションでいることが多いでしょうか?
ちょっとした職場でのやり取り、意見交換、トラブルの場面において、「どのポジションで反応」しやすいでしょうか? イライラしたとき、「どうにもならない」と行き詰まりを覚えたとき、あなたの心は、自分に対して、相手に対して「OK」のポジションにあるでしょうか? ぜひ落ち着いて、ご自分を振り返って確認してみてください。
さて、こうした「心のポジション」も「5つの心の自我状態」と同じく、幼少期に形作られるとされています。
具体的に説明すると、まず、赤ちゃんはまっさらな状態で生まれてきますよね。そしてお母さんに抱かれ、守られるわけですが、このように「望まれて生まれてきた」状態の中で形成されるのが「1――私もあなたもOK」のポジションです。
ところが、世の中には大人がいて、「世話をしてもらわなければ生きていけないこと」を知ります。この体験が「3――私は駄目、あなたはOK」のポジションの基礎となります。
そして、お父さんお母さんの言うことを聞き、世話をしてもらうわけですが、親も完ぺきではありません。自分の望んだようにしてもらえなかったり、自分は頑張っているのに「何度言ったら分かるの!」「ぐずぐずしない!」などと言われると、「お母さんは分かってくれない、自分はやってるのに」と、自分を守るために「2――私はOK、あなたは駄目」のポジションを取るようになります。
それでも、自分が理解されない、自分は駄目なんだという状況が続くと、「自分も駄目だし、どうせ周りも分かってくれない。世の中なんてろくなものじゃないし、どうせ何をやっても無駄なんだ。だったらどうでもいい……」という「4――私も駄目、あなたも駄目」のポジションを取るようになっていくのです。
以上のように、幼少期にどのような環境にあったかによって、人生に対する基本スタンスが形作られるわけですが、「どのスタンスを取りやすいか」という“傾向”は、大人になっても、自分自身や物事の受け止め方、物事への取り組み姿勢に影響を及ぼします。
例えば、心が健康(プラスのストロークに満ちている)な状態にあり、さらに、前回説明した「5つの自我状態」における「Adult」をきちんと働かせて、5つの心の状態をコントロールできていれば、心は「1―私もあなたもOK」という自他承認のポジションにあります。この状態なら、職場やそのほかの対人コミュニケーションにおいて、自分の意見を述べ、相手の意見も尊重しながら、建設的に問題解決に当たっていけます。
ところが、心の栄養が枯渇していたり(ストローク不足)、もしくは「Parent」「Adult」「Child」のバランスが上手に取れず、ストレスがたまってくると、心は「1――私もあなたもOK」の状態にとどまれなくなってきます。
そして、「2――私はOK、あなたは駄目」や「3――私は駄目、あなたはOK」のポジションに移ろっていきます。
友人との喧嘩など、最近あった嫌な出来事を思い出してみると良いですね。「あぁ、悪かったなぁ」と思いましたか? それとも「何なんだ、あいつは」と思いましたか?
前者なら、心は「3――私は駄目、あなたはOK」のポジションに、後者の場合は「2――私はOK、あなたは駄目」のポジションにあります。そのときどきの状況にもよりますが、自分や他人、物事の受け止め方に対する“基本的な傾向”は必ず存在するのです。
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