業務プロセスを見直せば、残業時間はもっと減らせるプロが教える業務改善のツボ(4)(2/2 ページ)

» 2011年02月10日 12時00分 公開
[松浦剛志,プロセス・ラボ]
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業務プロセスの流れ、ステップを細かく観察してみよう

 ではA、Bそれぞれの解決策をどのように実現すれば良いのか、その考え方を順に解説して行きましょう。

A-1:やらなくても良い仕事を探してその仕事の時間をゼロにする

 われわれは仕事を通じてアウトプットを作り出します。このアウトプットは次の仕事の担当者か、顧客へと運ばれます。例えば、「検印を施した申込書類」が上司へ回覧されて行く、「入力した受注明細」が倉庫の出庫伝票に回されて行く、「ピカピカの完成品」が顧客へと届けられて行く、といった具合です。

 問題は、このようなアウトプット(申込書類/受注明細/完成品)が、「手渡された先で、どのように利用されているのかを意外に知らない」ということです。昔からそのアウトプットを作っているから作り続けている、というように、良くも悪くもルーチン化してしまっているために、自分の担当範囲のことしか知らず、全体の流れを把握していないケースが多いのです。

 そこで、このアウトプットをたどって行き、後工程の担当者や顧客に「そのアウトプットが本当に必要か」「どれほどの価値があるのか」を確認することで、“やらなくても良い仕事”を探すわけです。

 例えば、「ピカピカの完成品」が顧客へと届けられて行く過程をたどってみると、顧客の便宜を図って、いろいろとイレギュラーな対応をしているプロセスが存在していたとしましょう。が、しかし、それが必要だったのは5年前の話で、いまとなっては顧客はその作業を「価値ある便宜」とは考えていないかもしれません。あるいは、ひょっとすると、その顧客については「いま、お得意さまとして特別に便宜を図る必要」自体がなくなっているかもしれません。

A-2:やるべき仕事をもっと効率的に、短時間で行う

 やるべき仕事をもっと効率的に、短時間で行うためには、

  1. 個々人がスキルを上げる
  2. 仕事のプロセスを変える

 以上を実践する必要があります。このうち、スキルアップについては、人事部主導のものも、個々人が自己啓発として個人的に取り組むものもあるでしょう。

 一方、時間短縮に資するプロセスの変更には、以下のものがあります。

  1. その作業(確認や入力など)は不要ではないか?
  2. 同じ人が続けてやった方が早いのではないか?
  3. 「ある作業を行う上で、利用する対象物」を変えた方が早くできるのではないか?(紙からデータベースに変えるなど)

 つまり「作業自体の必要性」と、その「作業担当者の割り当て」「作業において利用するモノをもっと効率の良いものに変えること」の3点を再考するのです。

B-1:仕事をもっと単価の安い人に任せる

 仕事をもっと単価の安い人に任せるためには、仕事のプロセスをバラバラに分割して、観察し直す必要があります。専門性が高い仕事の中にも、「簡単で、もっと単価の安い人に任せられる仕事(プロセス)」が潜んでいるものです。

 例えば、部長が社長宛ての稟議書を作成する際に、何となくやっているホチキス止めにファイルの取り出し。

これらは、一連の流れに入ってしまっているため、部長が自分で一度にやった方が早いと判断しているのですが、仕事の流し方を再考すると、そうした認識が変わります。

 「仕事の流し方」とは、「1つ1つをこなしていく」のか「まとめてやる」かの差です。例えば、年賀状を書くときに1枚ずつ仕上げていくのか、まずは宛名を一気に書いて、次に絵を一度に書いて……というように進めるのかの差です。まとめてやると、簡単な作業のボリュームが増えるので、「他の人にアサインする仕事」として切り出しやすくなります。

B-2:割り増し時間が発生しないように繁閑差をなくす

 割り増し時間が発生しないように繁閑差をなくすためには、

  • 一人が複数の仕事をこなせるように“多能工”になる
  • 急がなくても良い仕事をためておく

ことをお勧めします。

 特に多能工を社内に作り上げることは、業務時間の平準化以外にも、いろいろとメリットがあります。一部の仕事だけではなく、多くの仕事が分かるとゼネラリスト的視点で“全体最適”を考えられるようになるからです。

 例えば、経理部の繁忙期に依頼していたパートのメンバーに、営業部のバックヤードの仕事なども習得してもらうことで“多能工チーム”に仕立て上げ、営業部のアシスタントの長期休暇を実現したり、突発的な受注増加時の支援を担当してもらったりします。これを通して、最終的には、“営業部のバックヤードから経理部までの一連のプロセス改善”に貢献してもらった例も実際にあります。

 いかがでしょうか? 以上の考え方を皆さんの会社に適用してみると、残業削減のいろいろなポイントが見えてくるのではないかと思います。

最後の問題は、創出した時間の有効活用

 さて、以上の観点から業務を見直し、首尾よく「従業員の労働単価を下げずに、労働時間削減ができた!」となったら、次は「浮いた時間をどうするか」という頭の痛い問題が待っています。「合法的な整理解雇とともに進めている労働時間の削減」なら問題は出ませんが、そういうケースばかりではありません。この最後の問題があるがために、残業削減に手を付けられない会社も実際にあるのです。

 理想は“高い単価に見合った仕事の機会”を作ることでしょうが、現在の時代背景を考えると、それもまたなかなか難しいものです。それでも、パナソニック電工の「シゴトダイエットプロジェクト」のように、浮いた時間の半分を自己啓発や家庭などのために、残り半分を新しい仕事に充てると決めて取り組み、成果を出している例もあります。

 また、インターネットの発展により、個人が自分の時間を使い、給与収入以外の事業収入を得られる機会も広がっています。これを受けて、昔から就業規定にある兼業禁止条項を緩和したり、あるいはこれを応用して、「新たに生み出された時間を、売り上げに変える工夫」を従業員に委ねるのも一つの方法かもしれません。

 最初から諦めずに、残業削減と何らかの付加価値の“一挙両得”を狙って、ぜひ効率化にチャレンジしてほしいと思います。

筆者プロフィール

松浦 剛志(まつうら たけし))

株式会社プロセス・ラボ 代表取締役

京都大学経済学部卒。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)審査部にて企業再建を担当。その後、グロービス(ビジネス教育、ベンチャー・キャピタル、人材事業)にてグループ全体の管理業務、アントレピア(ベンチャー・キャピタル)にて投資先子会社の業務プロセス設計・モニタリング業務に従事する。2002年、人事、会計、総務を中心とする管理業務のコンサルティングとアウトソースを提供する会社、ウィルミッツを創業。2006年、業務プロセス・コンサルティング機能をウィルミッツから分社化し、プロセス・ラボを創業。プロセス・ラボでは、業務現場・コンサルティング・アウトソースのそれぞれの経験を通して培った、業務プロセスを理解・改善する実践的な手法を開発し、研修・コンサルティングを提供している。


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