クラウド時代、業務調査は“使い分け”が命クラウド時代の業務分析バイブル(2)(2/2 ページ)

» 2011年02月24日 12時00分 公開
[西村泰洋,富士通]
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調査手法にはそれぞれ向き不向きがある

 さて、以上で3つの調査手法の概要は理解できたと思います。では次に、最も重要な現場調査から、もう少し詳しく見ていきましょう。先にポイントを述べておくと、各手法とも太字で示した「どんなシーンに向いているか」の記述に注目して読んでみてください。システム開発に先んじて、あるいは並行して業務調査・分析をスピーディかつ効率的に進めていくためにはは、あらゆるシーンに最適な手法をスムーズに適用できるか否かに懸かっているからです。では「現場調査」から順に解説していきます。

現場調査

 まず「現場調査」ですが、実は現場調査は主に3つの調査から構成されています。

1.調査者調査

 これは、調査者が「調査対象者」に張り付いて、「どの業務に、どれだけの時間を費やしているか」「どれほどの実績を挙げているか」を調査するものです。例えば、自動車や精密機器の工場などで、ストップウォッチを使って、一定時間にどれほどの業務を処理できるのか、計測するのが代表的な例です。

 この手法の特徴は、自分の後ろに調査者がいて、業務記録を取っているシーンを想像してみれば分かると思いますが、調査される側にとってはあまり良い気分ではないことはさておき、調査する側にとっても、多くの対象者を計測することは時間的、労力的に難しいものがあるということです。しかし、その分緻密なデータを取得することができます。よって、この手法は“小規模な調査で、なおかつ、極めて細かいレベルのデータが必要な場合”によく利用されています。

2.調査票調査

 調査票を配って回答してもらうこの調査は「工場のスタッフ全員」を対象とするなど、大規模な調査に適している手法です。また“全体”を見ることから、異なった業務間の関係性を調べることにも適しています

 例えば、業務プロセスに沿って、各プロセスの担当チーム別に調査票を作成することで、「その業務担当者は、どの業務に、どれだけ時間を使っているか」「その実績値はどれくらいか」といったデータを、業務プロセス別に記録できます。時間や実績値の測り方としては、「業務の開始時間〜終了時間」で記録する方法や、一定時間内で測る方法などがあります。

3.IT活用調査

 業務担当者が利用するパソコンに専用ソフトをインストールして、「ある業務を行うのに、どのソフトウェアに、どれだけの時間を使ったか」を測定する調査です。特に、パソコンに向かっている時間が長いホワイトカラーの業務部門の調査に極めて有効な手法です。IT活用調査としては、この他にもRFIDなどを活用して「ある作業を行った回数」を記録したり、人の動線や移動距離などを測定するケースもあります。

 なお、この調査では正確なデータ取得が可能というメリットがある反面、「取得したデータをどう生かすか」を決めておかないと、データ取得を機械に任せておけるだけに、“単に膨大なデータを取得しただけ”になることもあるので注意が必要です。

インタビュー

 インタビュー調査は、調査者が あらかじめ設定した質問項目を基に、対面で調査対象者に話を聞いて、その回答を得ながら進めていく手法です。調査対象者を1名とすることもあれば、一度に複数名を相手に行うこともあります。前述の「調査者調査」のように、主に小規模な調査において、精密な詳細データを取る場合に有効な手法です。

アンケート

 こちらは、紙やWebを使って、あらかじめ用意した質問項目に答えてもらう方法です。 インタビューのような対面ではない分、対象人数が多い場合に適しています。 また、ある程度まとまった規模の人数を一度に調査できるので、定性情報だけではなく、定量データを取ることで、統計的な分析を行うこともできます。いずれにせよ、質問項目によって獲得できるデータの密度、精度が左右されるので、事前の入念な設計が必要です。

資料調査

 言うまでもなく、過去の実績をまとめたものが「実績値」、将来的にあるべき実績値をまとめたものが「計画値」ですが、これらを基に、毎月の生産実績、出荷実績、売上実績などから、「対象業務の件数」や、それに伴う「収益の推移」などを見たり、将来的な展望を測ったりする調査です。

 この資料調査では、「標準」と呼べるデータが得られるよう、対象業務の繁閑を見極めて調査を行うタイミングを測る必要があります。例えば、あるシステム開発プロジェクトが2010年12月から2012年3月の1年4カ月のプロジェクトだとして、最初の要件定義フェーズのときに業務調査を行おうとすると、2010年12月〜2011年1、2月に業務調査を進めることになります。

ALT 図2 いくら要件定義フェイズと平行して行う必要があるといっても、調査では「標準データ」を得られなければ、あらゆる検討事項の判断材料とはならない

 しかし、自社にとって1、2月が繁忙期だったとすると、そのタイミングで調査を行っても、特殊なデータしか得られない、ということになってしまいます。「最大値を測る」という目的があるなら話は別ですが、あくまで自社業務の標準的なデータが得られなければ、それは何かを検討するための根拠にはなり得ないのです。

 こうした場合、調査時期を計画し直すことになるのですが、調査分析の“プロフェショナル”としては、資料から適切な実施時期を判断できければなりません。

 以上の全手法の特徴を簡単にまとめると、以下のようになります。

ALT 図3 各手法は「過去」「現在」「未来」のうちどれを把握できるのか、どんなシーンに適しているのかといった“向き不向き”を判断し、状況に応じて使い分けることが、スピーディかつ効率的な業務調査・分析のコツ(クリックで拡大

 なお、前述のように、以上の全ての調査は、業務プロセスを理解していることが大前提となります。そもそもそれを把握していなければ、現場調査の進め方や、インタビュー・アンケートの質問項目の作成もできません。業務プロセスの理解は、調査以前に、何よりも先に済ませておくべき作業なのです。


 さて、いかがだったでしょうか。今回は 調査手法のアウトラインとポイントを紹介しましたが、こうして説明すると、一見「当たり前」のように思える中にも、各手法に特徴があることが理解できたのではないでしょうか。実際に調査を行う際には、こうした特徴を基に、どれほど上手に調査対象に適用していくかが調査の成否を分けることになります。

 次回は、簡単なケーススタディも踏まえて、これらの調査手法をどのように駆使していくのかを見て行きたいと思います。

筆者プロフィール

西村 泰洋(にしむら やすひろ)

富士通株式会社 フィールド・イノベーション本部 第二FI統括部 フィールド・イノベータ ディレクタ。物流システムコンサルタント、新ビジネス企画、マーケティングを経て2004年度よりRFIDビジネスに従事。RFIDシステム導入のコンサルティングサービスを立ち上げ、数々のプロジェクトを担当する。@IT RFID+ICフォーラムでの「RFIDシステムプログラミングバイブル」「RFIDプロフェッショナル養成バイブル」、@IT情報マネジメント「エクスプレス開発バイブル」などを連載。著書に『RFID+ICタグシステム導入構築標準講座』(翔泳社/2006年11月発売)などがある。



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