野放しのExcelシートが、ERPを台無しにする中堅・中小企業のためのERP徹底活用術(8)(2/3 ページ)

» 2011年03月10日 12時00分 公開
[鍋野 敬一郎,@IT]

「どの組織の、誰が、どの業務を、どう行っているのか」を可視化

 さて、G社の情報システム部長は聞き慣れない「現状業務調査」について、何度か質問してその内容を確認したわけですが、以上のやり取りによって、皆さんも大方理解できたのではないでしょうか。

 ポイントは、「どうすればシステムを適切に導入できるか」ではなく、「現状の業務がどのように遂行されているのか」を調査し、「どの組織の、誰が、どの業務を、どのように行っているのか」を、広く浅く確認していくことにあります。いわば業務の棚卸しを行い、各担当者へのインタビューを通じて、業務プロセスや各種作業内容を見える化することが目的なのです。

 特に、業務プロセスの中に埋まっている“担当者独自の知識・ノウハウが込められたExcelシート”は、そのExcelシートを作った本人にしかロジックや仕組みが分からないため、業務状況変化に応じて適切に作り直すことができません。よって、前回でも述べたように、ともすれば業務を阻害する“地雷”となってしまいます。

 そこで「現状業務調査」によって、システム対象業務に関係する全業務プロセスをエンド・トゥ・エンドで棚卸しし、Excelシートに込められた知識・ノウハウも含めて、全てを見える化しようと決めたのです。

 G社の情報システム部長も、コンサルタントの説明にさらに理解を深めていきます。それでは引き続き、事例に戻りましょう。

事例:ブラックボックス化したExcelシートを見える化する「現状業務調査」 〜後編〜

 そこまで説明すると、N社のコンサルタントは一息置いてから結論を出すように言った。

 「われわれN社のコンサルタントは、顧客企業の業種・業態ごとに、対応する製品知識や業務知識を習得しています。これによって、“業務の視点”から、現状の一連の業務プロセスと、業務ノウハウの所在を洗い出すことができます。すなわち、現状業務調査によって作成するドキュメントとは、“業務全体を正確に俯瞰できる内容になる”のです」

 この説明を受けて、情報システム部長は自らの理解を確認するように聞いた。

 「それはつまり、各部門のガイドマップのようなイメージですよね。弊社では事業部門ごとに取り扱う製品グループが大きく異なっているため、事業部門をまたがる配置転換が少ないのですが、そのためか、一つの同じ会社内でありながら、部門によって用語やルールが全く違っており、議論がかみ合わないことがよくあるのです。よって、これまでもシステム導入を目的にシステム要件定義書などの文書類を作成してきましたが、業務内容とシステム要件にズレや違和感を覚えることがよくありました。しかし、現状業務調査で作成されるドキュメントをベースに要件定義書を見直せば、各部門における業務担当者の意図や、求められている機能を、正確かつ具体的に理解できるということですね?」

 大きくうなずくコンサルタントの笑顔を見て、情報システム部長は「やっと納得がいった」と、現状業務調査に対する期待が大きく膨らんだのだった。


 こうしてG社では、生産管理業務にかかわる主要な3つの事業部門を対象に、現状業務調査を実施した。ここで作成されたドキュメントは、ヒアリングを行った現場担当者にもフィードバックされ、これまでOJTで行ってきたマンツーマンでの業務引き継ぎや業務研修を、より効率的・効果的なものに改善できた点でも好評を得た。

 一方、経営層は、現状業務調査によって業務上の課題を明確に認識することとなった。具体的には、「G社の競争力や優位性が、実は一部の熟練者のノウハウに頼ったものであり、属人化したノウハウを早急に標準化して継承する必要がある」と分かったのである。

 こうした調査結果を受けて、G社ではERP導入に当たり、現在の業務プロセスを見直すとともに、属人化していたExcelシートの適切な管理に乗り出した。具体的には、多くのExcelシートの機能/データを、基幹システムで一元的に管理するためのルールを策定した上で、極力その機能をERPに取り込み、ERP稼働のタイミングで、それらの機能を全社に展開したのである。

 また、情報システム部門では、現状業務調査のドキュメントを手元に置いておき、必要に応じてひも解くようにした。これにより、各事業部門の業務担当者を相手に、これまで切り込めなかった業務要件について、深く議論することが可能になったのであった。


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