野放しのExcelシートが、ERPを台無しにする中堅・中小企業のためのERP徹底活用術(8)(3/3 ページ)

» 2011年03月10日 12時00分 公開
[鍋野 敬一郎,@IT]
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各種データの処理・管理ルール策定がERP導入の大前提

 業務遂行にITが不可欠なものとなっている現在、経営戦略や事業戦略を遂行する上で、情報システム部門の役割が一層重要になっていることは言うまでもありません。しかしながら、多くの企業において、情報システム部門は既存システムの保守運用や、次々と舞い込むシステム構築・改修に追われ、自社の事業方針や製品知識、業務内容には疎くなりがちな傾向にあります。

 その一方で、現場の各業務担当者は業務効率を向上させるために、各自がExcelシートや各種ソフトウェア、最近ではSaaSなどのサービスも積極的に活用しています。多くの企業でIT化が進み、全社員にPCが行き渡った中で、そうした習慣が根付いてしまったために、事業部門と情報システム部門の溝が深まり、しっくりと行っていないケースは数多く見られます。

 こうした中、特に問題になりやすいのがExcelシートなのです。「各自がITシステムを進んで利用しなければ、業務効率向上が難しい」という現実を受けて、各業務担当者がExcelシートを作成・使用するまでは良いと思います。しかし、こうした状況を把握してノウハウの属人化やブラックボックス化を回避するような余力が、現状の情報システム部門にはないのです。個人の業務効率化ツールとして作成されるExcelシートは手軽に作りやすい分、マニュアルや仕様書は作らないのが一般的です。その結果、属人化を加速し、業務をブラックボックス化してしまう原因にExcelシートはなりやすいのです。

 一方、ERPは“業務や組織をまたがる統合マスタ、統合データベース”として、組織間の業務効率を向上させる手段として有効ですが、“業務や組織をまたがる統合マスタ、統合データベース”であるゆえに、その導入にはデータの扱いに関する組織間のズレを正し、共通のルールを定めておくことが前提となります。

 つまり、組織間のギャップをそのままにERP導入を行えば、「各部門の各業務担当者が、個人のルールで作ったExcelシート」で扱っている業務データと、“統合マスタ、統合データベースであるERP”で扱うべきデータとの間に自ずとズレが生じることになります。

 その結果、そのズレを補い、ERP用にデータを変換する手段として、大抵の場合、ここでもExcelシートが使われることになるのです。そして、このExcelシートこそが、前回ご紹介した“業務破壊の地雷原”となるケースが非常に多いのです。この点で、ERP導入の前と後で、「Excelシートの使われ方が整備されたか」「共通のルールが作られたか」を質問してみるのが、「ERP導入が本当に成功したかどうか」を判断する一番簡単な手段と言えるでしょう。

現状業務調査は、情シスが率先して行うべき

 その点、今回ご紹介した現状業務調査は、Excelシートに込められた“属人化したノウハウ”を見える化し、各種データの処理・管理ルールを標準化し、各Excelシートが持っていた処理機能をERPに取り込んで全社展開する上で、非常に有効な手掛かりを提供してくれることになります。ちなみに実施期間は、網羅性を重視して広く浅く調査するため、1つの事業部門につき1?3カ月程度と、短期間で調査を完了させるのが一般的です。課題の整理やシステム導入のためのTo-Beモデルの策定も、これを基に行うことになります。

 ただ、「各事業部門の業務を俯瞰するガイドマップ」のようなものである点で、あるいは経営企画部門などで作成・管理すべきものでもあるのかもしれません。しかし「部門内で個別に開発するシステム」であれば、こうしたマップはさほど重要ではないとはいえ、ERPなど部門間をまたがるシステムを導入する際には、“業務の視点で、エンド・トゥー・エンドの業務プロセスを網羅したドキュメント”は、非常に大きな価値を持ちます。

 加えて、前述のように、業務の在り方を分析するツールとしても威力を発揮するほか、各事業部門にとっても、業務の引き継ぎや研修用資料として有効活用できるなど、数多くのメリットを提供してくれます。“IT部門のビジネスへの貢献”が強く求められている風潮から考えても、やはり情報システム部門が率先して取り組むべき課題と言えるのではないでしょうか。

 もちろん、上流工程や超上流工程で作成されるドキュメントも同様の効果を持つとは思います。しかし、しばしば“システムの視点に偏ったもの”や“網羅性に欠けるもの”になりがちであることを考えても、より確実にERP導入を成功させる上で、ぜひ現状業務調査の実施を検討することをお勧めします。

著者紹介

▼著者名 鍋野 敬一郎(なべの けいいちろう)

1989年に同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業後、米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。1998年にERPベンダ最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて担当マネージャーとしてmySAP All-in-Oneソリューション(ERP導入テンプレート)を立ち上げた。2003年にSAPジャパンを退社し、現在はコンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事する。またERPやBPM、CPMなどのマーケティングやセミナー活動を行い、最近ではテクノブレーン株式会社が主催するキャリアラボラトリーでIT関連のセミナー講師も務める。


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