問題を切り分けて、夏の停電を乗り越えようプロが教える業務改善のツボ(5)(2/2 ページ)

» 2011年04月21日 12時00分 公開
[松浦剛志,プロセス・ラボ]
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「危機の発生確率を見積もる」とは「未来の世界観を持つ」こと

 では、1と同様に、「2.事業所が計画停電のエリアになる」についても「危機の発生確率」と「発生した際の影響度合い」を考えてみましょう。

 まず2の「発生確率」ですが、「事務所が23区内なので、計画停電のエリアになる可能性は低い」と考えることも、間違っているとは言い切れません。

 「発生確率を見積もる」とは、できるだけ多くの情報を集めて、「意思決定を下す」ことにほかならないからです。換言すれば、発生確率を見積もるとは、「未来の世界観を持つ」こととも言えます。ここには“絶対的な正解”はないのです。ちなみに私は「都内23区が計画停電のエリアになることは十分にあり得る」と考えています。

 では、2が「発生した際の影響度合い」はどうでしょうか? これを考えるためには、まず職場で利用されるPCなどの電気機器類をはじめ、鉄道や街灯など、職場周辺の“電気で動く社会インフラ類”をリストアップします。その上で、「それらが止まってしまうと、その後、どんな問題が職場を襲うだろうか?」と想像力を働かせて、問題の連鎖をリストアップし、「影響度合い」を判断するのです。

 その結果、「危機の発生確率」と「発生した際の影響度合い」がいずれも見過ごせないレベルだと判断すれば、「2.事務所が計画停電のエリアになる」についても対策を講じるべきだ、という結論を出すことになります。

問題を細かく分析していけば、具体策が出る

 では、「2.事業所が計画停電のエリアになる」について対策を講じるべきと判断したとして、その対策はどう考えれば良いのでしょうか? これも先ほどと同じです。問題を切り分けて、細かく分析しながら対策を考えていくことになります。

 まず、縦横の升目を描いたマトリクスを用意し、先ほど考えた“電気が止まった際に生じる問題の連鎖”を、横の升目に一つずつ書き込んでください。縦の升目には、計画停電の時間帯を「午前」「午後」「夕方」の3つに切り分けて書き込んでください。その上で、各問題について「計画停電に対する時間帯ごとの対策」を考え、記述していくのです。

 そうすると、ホワイトカラーを中心とする企業・組織では、おおむね「午前」「夕方」については、時差通勤(朝型勤務/夜型勤務)が妥当な対策にな るのではないでしょうか。計画停電により「PCなどの電機機器が使えなくなる」→「通常業務ができない」、あるいは、計画停電により「定刻の出社が難しくなる」といった問題が考えられるからです。

 しかし、「時差出勤」では解決できない問題も出てくるはずです。例えば、顧客や取引先などが朝10時に電話を掛けてくるかもしれません。しかし、時差通勤にした結果、その電話に出られないとなれば、機会損失や信頼失墜につながりかねません。そこで「出るべき電話に出られない」という問題に対応する“個別の対策”が必要になってきます。

 顧客が限定されているならば、「電話に出られないことを事前に告知する」という方法も良いでしょう。それが無理なら、計画停電がない「関西の支店に転送する」という方法もあるでしょう。つまり、前のページで述べた3つのステップ――「A:どのように断ち切るか?」→「B:どのように和らげるか?」→「C:どのように後片付けするか?」――に沿って、現実的な打ち手を考えていくのです。

 このように連鎖した問題に対して「時差通勤」を大方の打ち手としながら、それでは対応できない問題のみ個別の打ち手を用意するわけです。

 ただ、問題は「午後」の時間帯です。午後は「時差通勤」をするには中途半端で、現実的とは言えません。しかし、夏の電力消費がこの時間帯に集中することを考えれば、計画停電という「危機の発生確率」は、3つの時間帯の中で「午後」が最も高くなると言えます。

 先ほど個別の対策を用意したものは、午後の時間帯の計画停電であっても、ほぼそのまま適用できるはずですが、時差通勤を対策としている問題には、どのように対応するべきでしょうか?

 時差通勤を対策としている問題をよく観察すると、その多くが、

  1. 顧客や取引先との接点を持たない業務
  2. 時間的なゆとりがある(締め切りまで間がある)業務

 において発生し得る問題であることに気付くでしょう。午前中に出社して来た社員が、これらの業務に取り掛かるために、午後の計画停電の時間が過ぎるのを空調の止まった職場でじっと待ち、夕方から業務に取り掛かることが絶対に無理とは言いませんが……、かなり過酷なことになるでしょう。

 では、どうするべきでしょう? こうした業務であれば、例えば、二交代のシフト制を採るのはどうでしょうか? 朝勤務の人は午後の計画停電前に帰宅し、夜勤務の人は午後の計画停電後に出勤してくるわけです。これであれば、午後の計画停電時間を事務所で過ごす、非効率と非人間的な対応を回避できます。

 ただし、このシフト制を実現するには、先ほども紹介したワークシェアリングの考え方が必要になってきます。例えば、通常10人が6時間掛けて行っている仕事なら、5人で12時間を掛けて行うことになるためです。さらに、これを効率よく行うためには業務プロセスの見直しも求められます(注2)。


注2: ワークシェアリングについては、以前私が書いた以下のコラム『業務効率を落とさないワークシェアリングとは』を参考にしてください。

業務プロセスの見直しについても、以前のコラム『現場主導で進める業務改善の手法』で詳述しています。


 以上のように切り分けて考える――前提と問題の粒度を細かくして行くことで、停電という大規模な事態に対しても、事業継続上、必要な対策を具体的に検討できます

 2011年の夏までの残された期間はもう長くありませんが、自社にとって優先順位の高い問題に対する対策は、確実に講じておきたいところです。

また、被災地復興に向けて、私たちビジネスパーソンができることは、人々が喜んでお金を支払える商品やサービスを、“永続的に”提供することです。そうすることで、社会に富を生み出していかなければいけないと私は思います。

 歴史に名を残す偉大なことはできなくても、この時代に、この地に生きるものとしての責務を果たしましょう。

 がんばれ日本! がんばれ日本のビジネスパーソン!

筆者プロフィール

松浦 剛志(まつうら たけし))

株式会社プロセス・ラボ 代表取締役

京都大学経済学部卒。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)審査部にて企業再建を担当。その後、グロービス(ビジネス教育、ベンチャー・キャピタル、人材事業)にてグループ全体の管理業務、アントレピア(ベンチャー・キャピタル)にて投資先子会社の業務プロセス設計・モニタリング業務に従事する。2002年、人事、会計、総務を中心とする管理業務のコンサルティングとアウトソースを提供する会社、ウィルミッツを創業。2006年、業務プロセス・コンサルティング機能をウィルミッツから分社化し、プロセス・ラボを創業。プロセス・ラボでは、業務現場・コンサルティング・アウトソースのそれぞれの経験を通して培った、業務プロセスを理解・改善する実践的な手法を開発し、研修・コンサルティングを提供している。


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