ライフログ(らいふろぐ)情報マネジメント用語辞典

lifelog

» 2011年07月27日 00時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 人間の行動や経験、認知、生活上の出来事、身体の状態などを長期連続的に記録したもの。あるいはこれらの情報を収集・蓄積するサービスや解析・活用する技術をいう。

 人々は日々、生活や仕事のためにさまざまな行動をしている。食事もすれば、運動もする(しないこともある)。Webサイトを閲覧し、電子メールのやり取りを行い、電車や自動車で移動し、ショッピングを楽しむ。寝るのが遅くなる日もあれば、二日酔いの日もある。

 こうした行動を継続的に記録・蓄積して分析すると、その人ならではの行動パターンや生活習慣、健康状態などを俯瞰(ふかん)的に把握できる。個人的な関心や嗜好(しこう)、人間関係が分かることもある。また、毎日の出来事がすべて記録・整理されるならば、過去の行動・発言・資料などをすぐに探し出し、確認することが可能となる。人生を振り返って思い出に耽ったり、貴重な経験を次世代に伝えたりということもできるだろう。

 これらの目的のために個々人のライフ(生活/人生)のログ(記録/航海日誌)を録ることをライフロギング、記録そのものをライフログという。ライフログ情報を記録・収集・再利用するサービスや技術を指すこともある。ライフログは、スマートフォンをはじめとする手軽な記録デバイスの登場、各種センサー機器とストレージ装置の発達などを背景に注目を集めるようになった。

 個人レベルでは、生活改善やライフハック、趣味の記録、同好の士とのコミュニケーションなどを目的として行われ、それを支援するスマートフォンアプリやインターネットサービスが多数存在する。企業レベルではマーケティングや広告への応用を模索している段階である。情報科学やコンピュータサイエンス(ウェアラブルコンピューティング研究など)でも各種の研究が行われている。

 ライフログは、本人が意図的に記録した情報以外だけではなく、ネットやデジタル機器が自動的に残した記録も含まれる。広義には、外部機関が記録した情報も入るだろう。

ライフログの例

■オンライン行動の記録、電子機器の利用・操作に伴う記録

インターネット(Webアクセス、検索語、URL、ブックマーク、メール、通販での購入)、PC使用(起動、ログイン、アプリケーションの使用、ファイルアクセス)、携帯電話(通話、メール、GPS/基地局測位、カメラ、マイク、決済、加速度、温度)、電子マネー(決済、決済)、交通系ICカード(位置、移動、決済)、自動車(走行距離、速度、燃費)、監視カメラ・街頭カメラの映像、ウェアラブルカメラによる視覚記録、発言・会話の音声記録とテキスト化


■生活改善、思い出作り、情報共有、備忘録などを目的とした個人記録

生活や趣味の出来事(育児日記、食事)、ショッピング(購入記録、ウィッシュリスト)、所有物(蔵書、所有CD/DVD)、家計簿、タイムマネジメント(仕事・食事・余暇・睡眠)、運動記録(スポーツジムの記録、ジョギング記録)、ダイエット管理(摂取カロリー、体重)、生活改善(食事や飲酒の量、睡眠時間)、健康管理(体重、体温、血圧、血糖値、脈拍数、体脂肪率)


■外部機関が管理する記録

医療記録(既往歴、通院・投薬歴、カルテ、処方せん)、納税、年金、社会保障、犯罪歴、銀行、クレジットカード、証券、生命保険、損害保険、気象(天気、気温、湿度)


※ この区分は便宜的な説明であって体系的な分類ではありません。デジタル歩数計やライフレコーダーを使えば、運動量や健康情報も自動生成されます


 個人が日々の記録を残すという意味ではブログに通じるが、ブログがその日/その時点での心情・印象の記録、意見・信条の表明を自然文で自由記述するものであるのに対し、ライフログは時々刻々と発生する出来事を数値(時刻・距離・金額など)や構造化データ(「Yes/No」など)の形式で蓄積するものであることが多い。日記と家計簿の違いといえよう。

 個人向けのアプリ/サービスとしては「何かの行動を行うたびにiPhoneでタップ入力しておくと、その日の終了時に自分の生活サイクルが分かる」「食事の写真をメール送信するとカロリーなどを自動推計して食事記録を作成する」「PCで作成した各種ファイルを格納して、それを時間を軸にして管理する」といったものがある。

 一方企業は、インターネットや携帯電話、交通系ICカードなどが毎日大量のログデータ/履歴情報を生成しているという点からライフログに注目している。これら個人由来の断片的情報も大量にあれば、統計処理を行ってマーケティングに役立てたり、個別情報から個々人のコンテクストを読み取ったりすることができるため、新たなサービスの提供が想定されている。

 特に個々人のコンテキスト解明については、きめ細やかな行動ターゲティングやエージェントサービスの実現という意味で期待が高い。従来のターゲティング広告や情報エージェントは、アクセス履歴や事前登録したユーザープロファイルといった単独の情報で判断を行うので、あまり精度の高いレコメンデーションを行うことができなかった。リアルタイム性のあるライフログが利用できれば、ユーザーの置かれた状況や前後の行動を踏まえた情報提供の可能性が広がる。そのさきがけとして、NTTドコモが2008年からスタートしている「iコンシェル」を挙げることができよう。

 ライフログに関するビジネスで有望と思われる分野に、健康や医療がある。日々の食事や運動量、睡眠時間などを記録し、集計するだけでも生活改善にかなり役立つだろう。脈拍、呼吸、血圧、体温などのバイタルサインを常時モニタリングし、異常があれば医療機関や救急機関に自動的に知らせるサービスができれば、ライフログは“命の日誌”となるかもしれない。健康ライフログの集約管理については、EHRPHRの構想もある。

 ライフログの第三者利用にはプライバシー問題が付いてまわる。ライフログのすべてが個人情報というわけではないが、個人が発するライフログを一般の民間企業がどこまで収集してよいのかについては、議論が分かれている。これに対して、政府のIT戦略本部が提唱する「国民電子私書箱(仮称)」は主目的である行政が持つ個人情報の集約に加えて、各種ライフログの集約管理を可能とすることが検討されている。

 人間活動の電子記録については古くから構想・研究されてきた。有名なところでは、米国マイクロソフトが1998年にスタートした「MyLifeBits」プロジェクトがある。具体的なゴールは、PC利用時の全操作を追跡可能にすることだという。マイクロソフトは、同プロジェクトをヴァネヴァー・ブッシュ(Vannevar Bush)が1945年7月のアトランティックマンスリー誌に発表した論文「As We May Think」で提案した「memex」(※)の具現化とも説明している。


※ ブッシュは同論文で「メメックスとは、個人が自分の本・記録・手紙類をたくわえ、また、それらを相当なスピードで柔軟に検索できるように機械化された装置である。メメックスは個人的な記憶を拡張するための補助装置である」と記している


 このプロジェクトでは、中心人物の1人であるC・ゴードン・ベル(Chester Gordon Bell)が、身の回りの記事や本、カード、CD、手紙、メモ、文書、写真、プレゼンテーション資料、家庭用ビデオカメラで撮影した映像、音声データなどをすべてデジタル形式で保存するという実験を行った。著書『Total Recall』によると、ベルがこうしたライフログを行ったのは、健康への不安があり、毎日の食事や運動量、行動の記録を始めたことがきっかけだという。

 ほかにも米国防省の防衛高等研究計画局(DARPA)が、2003年に「LifeLog」という名称で研究者の募集を行っている。これは人間にとって情報過多の状況を想定して、人間の情報処理を支援するために、スケジュール・日課・習慣などの基礎データからその人間の状態を把握するオントロジベースのシステムの可能性を探る研究だったが、「政府による国民監視ではないか?」という強い批判を受け、翌年に中止されている。

参考文献

▼『ライフログのすすめ――人生の「すべて」をデジタルに記録する!』 ゴードン・ベル、ジム・ゲメル=著/飯泉恵美子=訳/早川書房/2010年1月(『Total Recall: How the E-Memory Revolution Will Change Everything』の邦訳)

▼『ライフログ入門』 美崎薫=著/東洋経済新報社/2011年1月

▼『ライフログビジネス――ついに始まった生活密着型IT革命』 寺田眞治=著/インプレスR&D/2009年10月

▼『思想としてのパソコン』 西垣通編=著訳/NTT出版/1997年5月

▼『ビーイング・デジタル〈新装版〉』 ニコラス・ネグロポンテ=著/西和彦監=訳・解説/福岡洋一=訳/アスキー/2001年12月(『Being Digital』の邦訳)


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