ITリーダーは、“IT部門本来の使命”を実現せよガートナーと考える「明日のITイノベーターへ」(8)(2/3 ページ)

» 2012年05月24日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

仮想化の導入をきっかけに、サービスプロバイダへの転換を

三木 企業のシステム運用管理の在り方を変える1つの契機として、仮想化やプライベートクラウドを挙げることもできるかと思います。企業が仮想化技術を導入して、さらにその先のプライベートクラウドを目指す主な目的は、「迅速かつ柔軟にITリソースを運用して、“よりビジネスに貢献できるIT”を実現すること」にあります。このためには、システム運用管理のやり方もずいぶん変わってくるかと思います。

長嶋氏 そうですね。これまでの運用管理は、構築がひと通り完了した“静的な”システムの「維持管理」が主なミッションでした。しかしプライベートクラウドにおけるIT部門のミッションは、ビジネス部門のニーズに応じて“動的に”ITリソースやITサービスを提供することにあります。

「プライベートクラウドにおけるIT部門のミッションは、ビジネス部門のニーズに応じて“動的に”ITリソースやITサービスを提供すること。これを一定以上のスケールとスピードで実現しようと思えば、人手ではとうてい間に合わない」――長嶋裕里香

 これを一定以上のスケールとスピードで実現しようと思えば、人手ではとうてい間に合いませんし、維持管理を目的とした従来の運用管理ツールにもこれを支援するための機能は備わっていません。

 やはり、「ITサービスの提供」という観点に立ったリソース制御やプロセス自動実行の機能を備えた、新たなツールの活用が不可欠になると思います。ただ、過去にも似たようなコンセプトを持つ製品としてITIL準拠のCMDBツールなどがありましたが、どれも高額な点がネックでした。

 従って、プライベートクラウドのための運用管理ツールも、製品を提供するベンダ側が適切な価格設定を行わないと、ユーザー側のニーズと合致しない恐れもあるかと思います。

三木 IT部門のミッションを、「既存システムの維持管理」から「ITサービスの提供」へと進化させるという意味では、ITILのコンセプトは先駆けだったとも言えますね。実際、ITILは日本では一時期かなりもてはやされました。しかしその実態はと言えば、CMDBにいろんな情報を突っ込んで、資産管理や構成管理などのプロセスを実装するだけで満足してしまい、肝心の「ITサービスの管理」「ITサービスの提供」の実現にまでは至らなかったケースがほとんどだったように思います。

長嶋氏 ITILの実体はあくまでも、ベストプラクティス集の書籍ですからね。従って、その内容をなぞれば、自社に最適なITサービスを実現できるというものではありません。ただ、ユーザーのITILに対する誤解は、ITILの名前を製品プロモーションのために担ぎ出したベンダ側にも大きな責任があるとも思います。いずれにせよ、本当に大事なのは、自社のビジネスを支えるITサービスを提供する仕組みを作り上げることで、そのためにはITILやツールだけではなく、人的スキルや運用プロセスの定着が大事になってきます。

「仮想環境では、IT部門が“ユーザーに提供するサービス”を意識した管理プロセスに主体的にかかわらざるを得なくなる。“ITサービスを提供する仕組み”を作り上げるという点で、仮想化技術の普及はいいきっかけになるはずだ」――三木泉

三木 その点、仮想化技術の普及はいいきっかけになるのかもしれません。というのは、仮想環境においては、仮想マシンのプロビジョニングをはじめとするさまざまな場面で、IT部門が「ユーザーに提供するサービスを意識した管理プロセス」に主体的にかかわらざるを得なくなります

 また、それに伴い、そうしたプロセスを効率化するために、個々の業務システムごとにばらばらに行われていた作業を共通化して、より効率的にプロセスを回せるよう工夫する動きも出てきているようです。

長嶋氏 確かに仮想化やプライベートクラウドは、ITサービスについての意識が高まる1つのきっかけになるかと思います。また、仮想マシンの管理や提供以外でも、例えばITパスワードの変更やヘルプデスク業務など、現状でもさまざまなサービスがある中で、「どれが本当にユーザーにとって必要なサービスなのか」「どのサービスをテクノロジでカバーすべきなのか」といったことをあらためて考えるいい契機になるのではないでしょうか。

 現に先進的な企業のIT部門では、ビジネス部門に提供するITサービスのサービスポートフォリオやサービスカタログを作成する動きが始まっています。われわれのところにも、そうした相談が去年辺りから寄せられるようになっています。

 こうした動きは大いに歓迎すべきなのですが、海外企業と比べるとまだまだ立ち遅れていると言わざるを得ません。日本企業のIT部門は、ここは頑張って巻き返しを図らないと、パブリッククラウドサービスに仕事を奪われてしまうかもしれません。IT部門が最終的に目指すべきは、企業の中でITサービスの提供を一手に担う「サービスプロバイダ」となり、コストセンターから真のプロフィットセンターへと脱皮することです。

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