勉強会後の飲み会で起きた大事件
松下 「坂口、どこ行く?」
坂口 「えーと、そうですね、おいしいうどん屋さんにでも行きましょうか」
深田 「あ、私知ってるかも、そのお店。新宿駅に行く途中ですよね」
勉強会メンバー6名は、新宿駅西口近くの家電量販店と飲食店が隣立する中へと入っていった。目当ての店は、飲食店が何件も同居するビルの狭い階段を上った2階にある居酒屋で、創作うどんが食べられる人気店だ。
畳敷きの店内はすでに客でいっぱいだったが、2人席と4人席に分かれてしまうものの何とか全員の席を確保できた。すかさず、2人用テーブルには松下が坂口を引っ張っていった。谷田と伊東、福山と深田がそれぞれ並んで4人用テーブルを囲んだ。最初のビールが運ばれてくると、福山が乾杯の音頭を取った。
福山 「松下嬢に捕まった坂口と、伊東さんの勉強会参加を祝って乾杯!」
全員 「かんぱーい!」
松下は、最近の坂口の谷田に対するふがいないうわさを耳にしていたので、ここは坂口に説教してやろうと意気込んでいた。
松下 「で、仕事忙しいんだって?」
坂口 「いやぁ、ほんと参ってます、実際。会社がでかいと抱える問題も違いますね」
松下 「仕事もいいけど、谷田最近寂しそうだよ。全然顔出さないんだから、まったく!」
坂口は、その話題には触れないでくれ、といいたかったが松下の説教を黙って聞いていた。いまは、何をいわれても、新しい職場できちんと仕事を覚えていくことを最優先にしようと決めていた。谷田と話がしたいと思うことはあっても、それ以上の感情を呼び起こさないように自分で自分にブレーキを掛けていることに坂口は気付いていた。
松下 「さかぐちぃ、あんたさぁ、前からぜんっぜん成長してないよねぇ……。もう少し大人にならないと、後で後悔するよ」
さすがの松下も業を煮やし、坂口のかたくなさに半ばあきらめを感じ始めて、説教していることがばかばかしくなってきた。
一方、偶然伊東の隣に座った谷田は、伊東のずっこけぶりに大いに笑わせてもらい、気持ちがすぅーっと楽になるのを感じていた。伊東もこんなに楽しい飲み会は久しぶりだと、ハイテンションでオヤジギャグを連発していた。
伊東 「い、いやぁ、楽しいなあ……。シンデレラは、もうとっくに死んでれら?!」
深田 「きゃははははは! 伊東さん、もうやめてぇ……」
谷田 「シンデレラっていえば、シンデレラ城みたいなお城に住んでみたいな?」
深田 「ねぇねぇ、今度みんなでディズニーランドとか行かない? 勉強会メンバーで」
福山 「いいねぇ、最近行ってないからなぁ。新しいアトラクションとかできたんだっけ?」
深田 「私、あれ乗りたい。何だっけ、タワーオブなんとかっていうの」
谷田 「それってディズニーシーでしょ」
深田 「あ、そうか、じゃあ、ディズニーシーに行こうよ!」
谷田 「(そういえば、松嶋さんのメールに「子供がディズニーシーに行きたがって困る」って書いてあったなぁ、松嶋さんも誘ってみんなで行けないかしら)」
と松嶋親子のことを思い付いた谷田だった。
福山 「よし、じゃあ、みんなの試験が終わってから、といいたいところだけど、思い立ったら吉日ってことで、試験前の壮行会としてみんなでディズニーシーへ行こう! 松下さん、坂口もいいですよね!?」
1つ先のテーブルに座る坂口と松下に聞こえる大きな声で福山がいった。
坂口 「ああ、いいよ。俺、実はディズニーシーって行ったことないんだよ」
谷田は早速、その場で松嶋に電話して娘と2人で参加するよう誘った。松嶋は2つ返事でOKだった。
そうして思いがけない壮行会の日程も決まり、上機嫌の仲間たちは新宿駅へと向かった。さすがに金曜日の夜。午後11時を回っていたが、新宿駅西口の改札付近は人であふれかえっていた。
深田 「じゃあ、JRの伊東さんと松下さんはここでバイバイ。小田急組はあっちね」
坂口、谷田、深田、福山は手を振りながら、小田急線の改札口へと向かっていった。やがて人込みに消えていく4人に手を振りながら、伊東は1人つぶやいた。
伊東 「母さん、ぼ、僕、彼女にほれてしまいました……」
◆次回予告◆
次回は、飲み会の席で決まった「ディズニーシーでの壮行会」が実施されます。谷田に一目ぼれしてしまった伊東は、松下のアドバイスもあって猛烈なアプローチを開始します。一方の坂口は、谷田の気持ちに気付きつつも、いま一歩踏み込めずにいます。
そして、情報処理技術者試験が間近に迫り、追い込み勉強会が開催されます。一緒に勉強に励む伊東と谷田は居残り勉強会で……、お楽しみに。
IT企画推進室
室長 名間瀬 勝也(なませ かつや) 46歳
主任 坂口 啓二(さかぐち けいじ) 31歳
社員 伊東 敦史(いとう あつし) 24歳
今回登場メンバー
(注:SD=サンドラフト、SDS=サンドラフトサポート)
SD 副社長 西田 義行(にしだ よしゆき) 59歳
SD 専務取締役兼CIO IT企画部長 佐藤 光一(さとう こういち) 52歳
SD 営業企画部長 天海 有紀(あまみ ゆうき) 39歳
配送センター副センター長 岸谷 小五郎(きしたに こごろう) 42歳
製造部主任 藤木 直哉(ふじき なおや) 34歳
情報システム部主任 八島 秀樹(やしま ひでき) 36歳
マキシムアンドコンサルティング シニアコンサルタント 豊若 越司(とよわか えつし) 39歳
マキシムアンドコンサルティング シニアコンサルタント 松嶋 七海(まつしま ななみ) 38歳
筆者プロフィール
シスアド達人倶楽部
「シスアド達人倶楽部」は、経済産業省が実施する情報処理技術者試験の1つ、上級システムアドミニストレータ試験の合格者9名で構成される執筆チーム。本連載「目指せ! シスアドの達人」は、シスアドの日常を知り尽くしたメンバーが、シスアドの働く現場をリアルに描くWeb小説だ。
執筆メンバー9名は、上級システムアドミニストレータ試験合格者と試験合格を目指す人々で構成される任意団体:上級システムアドミニストレータ連絡会(JSDG)の正会員。
那須 結城(なす ゆうき)
上級システムアドミニストレータ連絡会正会員。製造業勤務
山中 吉明(やまなか よしあき)
上級システムアドミニストレータ連絡会・会長
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