佐藤専務の怪しい動き
佐藤 「名間瀬くん、最近、坂口があっちこっちで出しゃばっているようだが」
名間瀬 「はぁ……。私の代理であちらこちらへ情報収集をやらせているんですが」
佐藤 「情報収集なら構わないが、実質上のリーダーのように振る舞っているように聞いているぞ」
名間瀬 「いや、報告はきちんと受け、指示はしてます」
佐藤 「仕事は現場ありきなんだぞ! 現場を見なくなったら終わりだ。社長がいつもいっている三現主義(現地、現物、現象)を忘れたのか?」
名間瀬 「それは……」
佐藤の鋭い指摘に、ひるむ名間瀬。しかし、やる気をほとんど失っている名間瀬はこれを機にこの失敗プロジェクトから手を引きたいことを伝えようとした。
名間瀬 「佐藤専務、坂口は伸び盛りです。今回のプロジェクトに関して私はサポート役に回ろうと思っているんですが」
佐藤 「ほぉ、それで君は失敗したときの傷を浅くしたいんだな。もう、失敗することしか考えていないんだろ」
名間瀬 「そんなことはありませんが……」
本心を見透かされてしまった名間瀬は目を白黒させてたじろいた。佐藤には本当のことをいおうとした瞬間、彼から強烈なカウンターパンチを浴びせられた形だ。
佐藤 「名間瀬くん。坂口が出ようが出まいが君の責任は変わらないよ。むしろ、積極的に関与しなかったことの方が、後で傷を大きくするがそれでもいいかね」
名間瀬 「そんな!! 今回のプロジェクトは無理過ぎます! せめて、もう少し期間があれば……」
佐藤 「やはり、それが本音か。君ならきっとやれると信じていたのだがね。このプロジェクトをやり遂げてくれれば、それなりの評価が待っていたんだがな……」
名間瀬 「えっ、それなりの評価……、ですか?」
佐藤 「あぁ。取締役のポストが定年で1つ空く。そこに君を推薦しようと思っていたのだが、その様子ではあきらめた方が良さそうだな」
名間瀬 「えっ、取締役ですか!?」
名間瀬はまだ46歳だ。40代での取締役はいないわけではなかったが、大抜てきに違いない。
確かに今回のプロジェクトが成功すれば、会社にも大きく貢献できることになる。下げられて上げられて、すっかり佐藤のマインドコントールに操られた名間瀬は、すでに気持ちが切り替わっていた。
名間瀬 「佐藤専務。私としては決してやる気がなくなったわけではなく、坂口の成長を考えてですね……」
佐藤 「分かった分かった。ところで、プロジェクト管理はどうしているんだ?」
名間瀬 「はぁ、エクセルで管理図表や工程表を作成して管理しています」
佐藤 「まだ、そんなレベルなのか? プロジェクト管理ソフトぐらい利用できないのか!」
名間瀬 「いや、そこまでは」
佐藤 「そんなんだから、時間管理がきちんとできないんだ。スコープ、タイム、コストのバランスをしっかり管理できないうえに、言い訳ばかりじゃ、話にならんぞ!」
名間瀬 「す、すいません。すぐにプロジェクト管理ソフトの導入を検討します」
佐藤 「そういえば、最近、使いやすいソフトが出たらしいぞ、PMなんとかだったかな。特別無料枠があると聞いたが」
名間瀬 「ありがとうございます。すぐに調べて使ってみます!」
佐藤 「まぁ、使いやすいものを使えばいい。別に推薦しているわけではないからな」
名間瀬 「は、は、はい。それでは失礼します」
名間瀬は、礼もそこそこにすぐに役員室を退出した。佐藤は一呼吸置くと自分の携帯からあるところへ電話していた。
佐藤 「例の準備は大丈夫か? あぁ、プロジェクト管理、PM、特別無料枠というキーワードは刷り込んでおいた。後は釣堀にターゲットが来たら、生きの良い魚を付けてくれればいいんだ。間違ってもほかの人間には配るんじゃないぞ。それから、今後数カ月は電話してくるなよ」
そういうと佐藤は電話を切り、携帯電話の発信履歴と着信履歴をすべて消した。
◆次回予告◆
次回、坂口は壁にぶつかりながらも、前へ進もうと努力します。その思いが、いままで動きのなかったプロジェクトメンバーにも波及していきます。一方、谷田は坂口と天海との誤解は解けたものの、自分の未熟さにいったん身を引く決意をすることに。
そして、佐藤の仕掛けが徐々に明らかになっていき、ついに社内は大混乱に……。
IT企画推進室
室長 名間瀬 勝也(なませ かつや) 46歳
主任 坂口 啓二(さかぐち けいじ) 31歳
社員 伊東 敦史(いとう あつし) 24歳
今回登場メンバー
(注:SD=サンドラフト、SDS=サンドラフトサポート)
SD 副社長 西田 義行(にしだ よしゆき) 59歳
SD 専務取締役兼CIO IT企画部長 佐藤 光一(さとう こういち) 52歳
SD 営業企画部長 天海 有紀(あまみ ゆうき) 39歳
配送センター副センター長 岸谷 小五郎(きしたに こごろう) 42歳
製造部主任 藤木 直哉(ふじき なおや) 34歳
情報システム部主任 八島 秀樹(やしま ひでき) 36歳
マキシムアンドコンサルティング シニアコンサルタント 豊若 越司(とよわか えつし) 39歳
マキシムアンドコンサルティング シニアコンサルタント 松嶋 七海(まつしま ななみ) 38歳
松嶋七海の娘 松嶋 真鈴(まつしま まりん) 10歳
ホテイドリンク 社長 布袋 泰博(ほてい やすひろ) 45歳
ホテイドリンク システムセンター長 園村 純(そのむら じゅん) 51歳
ホテイビール 社長 布袋 四郎(ほてい しろう) 70歳
筆者プロフィール
シスアド達人倶楽部
「シスアド達人倶楽部」は、経済産業省が実施する情報処理技術者試験の1つ、上級システムアドミニストレータ試験の合格者9名で構成される執筆チーム。本連載「目指せ! シスアドの達人」は、シスアドの日常を知り尽くしたメンバーが、シスアドの働く現場をリアルに描くWeb小説だ。
執筆メンバー9名は、上級システムアドミニストレータ試験合格者と試験合格を目指す人々で構成される任意団体:上級システムアドミニストレータ連絡会(JSDG)の正会員。
森下 裕史(もりした ひろし)
上級システムアドミニストレータ連絡会正会員・ミンツ代表
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