情報漏えい事件発生!
坂口と伊東が打ち合わせに行っている間に、名間瀬は自分のPCで、佐藤専務にいわれたプロジェクト管理ソフトを探していた。部下には内緒で管理ソフトを習得し、一気に名誉挽回(ばんかい)といきたかったのだ。
名間瀬 「えっ〜と、キーワードは、『プロジェクト管理』『PM』『特別無料枠』っと」
と独り言をいいながら、とてもIT企画推進室の室長とは思えない、のらりくらりした動きでキー入力をしていった。そして、一通り打ち終わって検索キーをクリックすると、大量の検索結果が出てきた。そして、名間瀬はその中で該当しそうなサイトを1つずつ調べていった。
名間瀬 「なになに……。『期間限定で機能制限なしのプロジェクト管理ソフトを30名さまにご提供します』だと。ふ?ん、新製品なのか。『なお、提供された方の中から3名さまには専属モニターになっていただきます。その方たちは特別無料枠として、無期限に使用できます』ということか。よし、佐藤専務がいってたのはこれだな」
モニター特別無料枠は先着順だと書いてあったので、急いで申し込みフォームに必要事項を記入する名間瀬だった。いつもなら、こんなうまい話には警戒するのだが、専務の推薦だと思い込んでいたため、気にもしなかった。しばらくすると登録完了のメールが届いた。どうやら、間に合ったらしい。名間瀬はニヤリと1人で笑うとメールに記されているダウンロード先のリンクをクリックした。
それから1週間後。名間瀬もプロジェクト管理ソフトにだいぶ慣れてきたので、そろそろみんなにもお披露目しようと考えていた。といっても使いこなせているわけではない。たまたまサンプルが今回と同様に生産管理システムの開発プロジェクトだったからだ。「俺にも運が回ってきたんだ」と勝手に勘違いしている名間瀬は、それが佐藤の準備したものだとはまったく気付いていなかった。悦に入っていると、坂口が真っ青な顔で飛び込んできた。
名間瀬 「どうした!? 顔色が悪いぞ! 誰かにいじめられたか?」
坂口 「室長、それどころではありません!! 情報漏えいが発覚しました!」
名間瀬 「なにぃ??!? 情報漏えいだとぉ!?」
坂口 「は、はい、実はお取引のあるコンビニから苦情の電話が来たんです。サンドラフトへの発注履歴が、見ず知らずのアドレスから送られてきたそうです。営業部の知人から一報を受けました!」
名間瀬 「発注履歴だと! そんなもの外部に流れるわけないだろう。確か、営業が入力した受注情報は、1度サーバに蓄えられてからホストに転送される。そこのデータはテキストデータだから簡単に閲覧できるが、アクセス制限が設定してあるはずだから社外の人間がのぞけるわけはないだろ!」
坂口 「そうなんです。だから、余計に困っているんです……」
名間瀬 「もしかして、社内の誰かから情報を漏らしたと疑っているのか!?」
坂口 「確信しているわけではありませんが、そうでないと情報漏えいすることはないはずなんです」
せっかく、管理ソフトの自慢をしようと思っていた矢先だったのに出鼻をくじかれただけでなく、このままだとシステム開発以外の責任を取らされかねない。名間瀬は動揺しながらも、室長としての面目を保とうと坂口に指示を出した。
名間瀬 「とっ、ともかく、坂口は営業部長のところに電話をかけろ! ほかに同様の苦情が来てないか確認しておくんだぞ! おっ、俺は専務のところに報告してくるからっ」
坂口 「はい、分かりました! 後、情報システム部に行ってアクセスログに何か残っていないか確認してみます」
名間瀬 「そっ、そうだな。早く行け!」
名間瀬は気を落ち着かせるために外を見た。先ほどまですっきりとした秋空だったのに、いまは大きな暗雲が垂れ込めてきて昼間なのにかなり暗い。まるで、この事件の先行きを暗示しているかのようだった。
◆次回予告◆
次回、情報漏えい事件の発生したサンドラフトは、大混乱に陥る。そして、そんな状況下で何もできない自分に無力感を感じる坂口。しかし、そんな中かすかな光りも見えてくる。
また、坂口と距離を置くことを決めた谷田だが、ひょんなことから坂口と再会し……。
IT企画推進室
室長 名間瀬 勝也(なませ かつや) 46歳
主任 坂口 啓二(さかぐち けいじ) 31歳
社員 伊東 敦史(いとう あつし) 24歳
今回登場メンバー
(注:SD=サンドラフト、SDS=サンドラフトサポート)
SD 副社長 西田 義行(にしだ よしゆき) 59歳
SD 専務取締役兼CIO IT企画部長 佐藤 光一(さとう こういち) 52歳
SD 営業企画部長 天海 有紀(あまみ ゆうき) 39歳
配送センター副センター長 岸谷 小五郎(きしたに こごろう) 42歳
製造部主任 藤木 直哉(ふじき なおや) 34歳
情報システム部主任 八島 秀樹(やしま ひでき) 36歳
マキシムアンドコンサルティング シニアコンサルタント 豊若 越司(とよわか えつし) 39歳
マキシムアンドコンサルティング シニアコンサルタント 松嶋 七海(まつしま ななみ) 38歳
松嶋七海の娘 松嶋 真鈴(まつしま まりん) 10歳
ホテイドリンク 社長 布袋 泰博(ほてい やすひろ) 45歳
ホテイドリンク システムセンター長 園村 純(そのむら じゅん) 51歳
ホテイビール 社長 布袋 四郎(ほてい しろう) 70歳
筆者プロフィール
シスアド達人倶楽部
「シスアド達人倶楽部」は、経済産業省が実施する情報処理技術者試験の1つ、上級システムアドミニストレータ試験の合格者9名で構成される執筆チーム。本連載「目指せ! シスアドの達人」は、シスアドの日常を知り尽くしたメンバーが、シスアドの働く現場をリアルに描くWeb小説だ。
執筆メンバー9名は、上級システムアドミニストレータ試験合格者と試験合格を目指す人々で構成される任意団体:上級システムアドミニストレータ連絡会(JSDG)の正会員。
森下 裕史(もりした ひろし)
上級システムアドミニストレータ連絡会正会員・ミンツ代表
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