
顧客満足度調査や従業員サーベイで集めるアンケート。特に「自由記述回答」にはビジネスを改善する貴重なヒントが眠っています。しかし、その一つひとつに目を通し、Excelで分類・集計する作業に膨大な時間を費やしてはいないでしょうか。
その手間のかかる作業は、AIの力で劇的に効率化できるかもしれません。AIによるアンケート分析は、これまで担当者の経験や勘に頼りがちだったテキストデータの解析を自動化し、客観的なデータに基づいて隠れたニーズや課題を瞬時に可視化します。
本記事では、AIによるアンケート分析の基礎知識から、今すぐ無料で始められるおすすめのツール、そしてビジネスで本格的に活用するための注意点や有料ツールまでを網羅的に解説します。手作業による分析から脱却し、データに基づいた次の一手を打つための第一歩を踏み出しましょう。
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目次
アンケート集計・分析のよくある課題=「自由記述」の面倒手作業から抜け出せない
多くの企業がアンケートの分析で直面している共通の課題は何でしょうか。まずは、特に価値の源泉でありながら最も手間のかかる「自由記述回答」の集計・分析における問題点を具体的に掘り下げ、なぜ今、新たな解決策が必要とされているのかを明らかにします。
- 集計・分類に膨大な時間がかかる
- 担当者のスキルや主観に結果が左右されてしまう
- データの傾向や隠れた“顧客の声”の要点を見逃してしまう
課題1:集計・分類に膨大な時間がかかり、本来の業務を圧迫する
アンケートの自由記述回答は、選択式と違って回答が定型化されていません。そのため内容を一つひとつ読んで意味を解釈し、「要望」「不満」「評価」といったカテゴリーに分け、Excelなどに転記して集計する……といった地道な作業が発生します。
数百、数千件にも及ぶ回答を手作業で処理するには膨大な時間と労力がかかります。結果として分析作業が、本来の目的である「その後の施策の立案」「業務改善対策」のための時間を圧迫してしまうケースは少なくありません。「分類・記載して満足してしまう」といった残念な場合もあるのではないでしょうか。
課題2:分析担当者のスキルや主観に結果が左右されてしまう
手作業による分類や要約は、担当者の経験や解釈に依存しがちです。
例えば、同じ「使いにくい」という言葉でも、ある担当者は「UIの問題」と捉え、別の担当者は「機能不足」と解釈するかもしれません。
このようなあやふやさは分析結果の客観性を損なう原因となります。担当者が変わるたびに分類基準が揺らいだり、特定の意見に引っ張られて全体の傾向を見誤ったりするリスクがあります。安定した品質・統一した基準でのデータ分析が難しくなってしまうのです。
課題3:データの傾向や隠れた“顧客の声”の要点を見逃してしまう
大量のテキストデータの中から、個々の意見の背後にある共通の傾向や、複数の意見にまたがる関連性(例えば「価格」と「サポート」について言及している人はネガティブな意見が多い、など)を人力で適切に発見する──。これは想像の通り、至難の業です。
そのため重要なキーワードや改善のヒントを見落としてしまったり、声の大きい少数の意見に気を取られて、静かな多数派が示す本質的な課題を見逃してしまったりする可能性があります。
もちろん担当者の経験や能力を生かした分析も自社にとって極めて重要です。それだけに頼るのではなく、あいまいさや一貫性のような課題を補完し、より万全にしていく手段・体制となるように心掛けるのがポイントです。
AIによるアンケート分析とは? テキストマイニングでできること
では、前章で挙げた課題を解決する手段となる「AIによるアンケート分析」がどのようなものかを確認しましょう。
この技術はアンケートの自由記述だけでなく、SNSの投稿、レビューサイトの口コミ、コールセンターに寄せられる顧客の声(VOC:Voice of Customer)といった、あらゆるテキストデータの分析に応用できます。
AI、特にAIによるテキストマイニング技術を用いることで、これまで手作業では難しかったどのような分析が可能になるのか、3つの代表的な機能を具体例とともに紹介します。

文章の感情や意図を自動で判別する(感情分析)
生成AIは、文章に含まれる単語や表現から、それが「ポジティブ(肯定的)」「ネガティブ(否定的)」「ニュートラル(中立的)」のいずれであるかを分析し、自動で判別する能力を持っています。これを「感情分析(センチメント分析)」と呼びます。
例えば、製品レビューの自由記述をAIで分析すれば「ポジティブな評価が全体の80%を占める」といった定量的な把握や、「アップデート日後にネガティブな意見が急増している」といった時系列での変化を瞬時に捉えることが可能になります。
テキストデータから頻出単語や関連性を抽出する(キーワード抽出)
テキストマイニングの基本的な手法の1つが、文章中によく出現する単語(キーワード)を抽出し、その頻度を集計することです。これにより、アンケート回答全体でどのようなトピックが多く語られているのかを一目で把握できるようになります。
さらに、特定の単語と一緒に出現しやすい「共起語」の分析も有効です。「価格」という言葉が「サポート」や「納期」といった言葉と共に語られている──といった単語間の隠れた関連性を見つけ出すことで、課題の構造を深く理解する手助けとなります。
大量の文章をトピックごとに自動で分類・要約する
AIは、文章の内容を理解して類似したテーマを持つ回答を自動でグループ化(クラスタリング)することも得意分野です。
例えば、「料金プランに関する意見」「操作性に関する要望」「サポート体制への不満」といったように、人間が事前に設定したルールなしに、データの中から自動的にトピックを分類することが可能です。
これにより、担当者は膨大な量の自由記述を上から一つひとつ読むことなく、コメントの全体像を素早くつかむことができます。生成AIでは、この「分類されたトピックごとに内容を要約させる」といったこともできます。
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AIアンケート分析がもたらす6つのビジネスメリット
AIをアンケート分析に導入することで、企業は具体的にどのような恩恵を受けられるのでしょうか。本章では、業務効率化からマーケティング施策の精度向上まで、AI活用がもたらすメリットを実務シーンを想定しながら確認していきましょう。
分析にかかる時間を大幅に削減し、コア業務に集中できる
AIツールを導入する最大のメリットはやはり「分析業務の効率化」です。これまで担当者がかかりきりで数日かかっていた数千件の自由記述回答の分類・集計作業が「数分から数時間で、自動的に完了」する可能性があります。
これにより、担当者は単純作業から解放され、分析結果の解釈や具体的な改善策の立案といったより付加価値の高いコア業務に集中できます。単なる人件費削減以上に企業の競争力向上に直結する重要な効果です。
客観的なデータに基づいたスピーディーな意思決定ができる
AIによる分析は、あらかじめ定義されたアルゴリズム基づいて実行され、担当者の主観や思い込みのような要素が入り込みにくいよう設計できます。誰が実行しても同じ結果が得られる客観性と再現性の高さは、ビジネスにおける意思決定の質を大きく向上させます。
例えば新機能の開発優先度を検討するにしても「要望の声が多いから」のような“なんとなく”感覚的な判断ではなく、「特定の顧客セグメントから『決済機能の改善』に関するネガティブな意見が30%を占める」といった客観データに基づき、迅速かつ的確な判断を下せるようになります。
顧客の潜在的なニーズやサービス改善のヒントを発見できる
AIは、人間では気づきにくい単語の組み合わせや、少数ながらも重要な意見をデータの中から見つけ出すことも得意とします。例えば、コールセンターの応対履歴からクレームの根本原因を特定したり、SNS上の口コミから競合製品にはない自社製品の強みを発見したりする可能性が多くあります。
また、ある製品のアンケートで「デザイン」と「持ち運び」という言葉が頻繁に出現していればどうでしょう。「ユーザーは実は携帯性を重視している」といった潜在ニーズが見つかるかもしれません。製品改善や新たなマーケティング戦略の立案に向けた貴重なヒントを見いだせるでしょう。
従業員満足度調査から、組織の隠れた課題を特定できる
アンケート分析は、顧客向けだけでなく社内の従業員満足度(ES)調査にも大きな効果を発揮します。
従業員からの自由記述回答をAIで分析すれば、「特定の部署で『コミュニケーション不足』と『業務負荷』に関する言及が同時に多い」といった、組織の隠れた課題を客観的に把握でできるかもしれません。
これにより人事部門はデータに基づいた的確な組織開発や人材育成の施策を立案でき、従業員満足度の向上や離職率低下といった具体的な成果につなげることが可能になります。
属人化しがちな分析業務のノウハウを標準化できる
手作業での分析はどうしても個人のスキルや経験に依存するので、そのノウハウは特定の担当者に偏りがちです。
AIツール・システムを導入することで、新人担当者でもツールを使えばベテランと同じレベルの一次分析を迅速に行えるようになる、つまり業務の仕方を標準化できることになります。
分析プロセスそのものを特定の担当者に依存せず進行できる体制、特定の担当者の異動や退職によって分析の品質が低下するリスクを防ぎ、組織全体で安定したデータ活用体制を構築できることになります。
データドリブンに商品開発やマーケティング施策を立案できる
アンケート分析で得られた客観的なデータは、商品開発やマーケティング活動の羅針盤となります。例えば、SNSの口コミデータをAIで分析し、自社製品がどのような文脈で語られているか、競合製品と比較して何が評価されているかを把握すれば、より顧客の心に響く広告コピーを開発できます。
また、顧客からの要望で最も多いキーワードを次期製品のコンセプトに反映させるなど、勘や経験だけに頼らないデータドリブンな意思決定サイクルを実現します。
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【無料ツール編】無料で試すAIアンケート分析ツールの選び方
AIアンケート分析を始めるにあたり、まずは無料で試したいと考える方はとても多いでしょう。精度の高い分析には表記ゆれを統一するといった「データの前処理」が重要になりますが、まずは気軽に試してみることも大切です。
この章では、無料ツールを選ぶ際に確認すべき3つの重要なポイントを解説します。自社の目的や状況に合ったツールを的確に選ぶための基準を確認しましょう。
- 分析したいデータの種類と量に対応しているか
- 専門知識がなくても操作できるか
- 分析結果の可視化(レポート)機能は十分か
ポイント1:分析したいデータの種類と量に対応しているか
無料ツールには、一度にアップロードできるデータ量やファイル形式に制限がある場合があります。まずは、自社が分析したいアンケートデータの量(件数や文字数)や形式(CSV、Excel形式など)に対応しているかを確認しましょう。
また、ツールによってはSNSの投稿データや音声データなど、特定のデータソースの分析に特化しているものもあります。分析対象がテキストデータなのか、それ以外のデータも含まれるのかを明確にしておくことが重要です。
ポイント2:専門知識がなくても直感的に操作できるか
データ分析の専門家などがいないチームで導入するシーンも多いはずです。この点で、操作の分かりやすさはとても重要です。プログラミングの知識がなくても画面の指示に従ってファイルをアップロードし、数クリックで分析結果がグラフなどで表示されるような、直感的なインターフェースを持つツールを使いたいところです。
実際に触ってみて自社の担当者がスムーズに使いこなせそうかをまず確認することをおすすめします。
ポイント3:分析結果の可視化(レポート)機能は十分か
分析結果はただ出力されるだけ/自身で読んで確認するだけ……ではほとんど意味がありません。その結果を社内・チームで容易に共有し、次のアクションにつなげていくために、分かりやすく楽に作れる「レポート機能」も不可欠と考えます。
レポート機能では例えば、頻出単語がひと目でわかる「ワードクラウド」や、単語間の関連性を示す「共起ネットワーク図」、感情の割合を示す円グラフなど、どのような可視化機能が搭載されているかを確認するとよいでしょう。分析結果を画像やCSVファイルとしてエクスポートできるかどうかも、レポート作成の効率を左右する重要なポイントです。
まずは試そう! 日本語対応の無料アンケート分析ツール4選
ここでは、実際に無料で利用できる日本語対応のツールを4つ、特徴やおすすめの利用シーンとともに紹介します。最も手軽なものから本格的なものまで、ご自身のレベルや目的に合わせて試してみてください。
【手軽さ重視】ChatGPT(無料プラン)で要約・分類を試す
公式サイト: https://chatgpt.com/
対話型の生成AIとして広く知られるサービスで、無料プランも用意することで、特別な準備なしにテキスト分析を試せる。アンケートの自由記述回答文字列をコピー&ペーストし、「この内容を要約して」「ポジティブな意見とネガティブな意見に分類して」といった指示(プロンプト)を与えるだけで、高度な分析を実行してくれる。
おすすめシーン: まずはAIによるテキスト分析がどのようなものか、手元にある少量のデータで手軽に体験してみたい場合に適する。
【Webで完結】ユーザーローカル テキストマイニングツール
公式サイト: https://textmining.userlocal.jp/
Webブラウザ上でテキストを貼り付けるだけですぐに利用できるツール。ワードクラウドや共起ネットワーク、感情分析など、テキストマイニングの基本的な分析結果を瞬時にグラフィカルなレポートとして表示できる。
おすすめシーン: 専門的なツールのアウトプットを手軽に確認したい場合、社内報告用の簡単な可視化資料を作成したい場合に便利。
【作成から分析まで】SurveyMonkey(無料プラン)
公式サイト: https://jp.surveymonkey.com/
多くのユーザーがいるアンケート作成ツールで、無料のベーシックプランを用意。回答データの簡易的な分析機能も備え、選択式回答のグラフ化、自由記述回答の中からキーワードを抽出してワードクラウドとして表示するといったレポート化が可能。
おすすめシーン: データ収集から簡易的な分析までをまとめて実行し、どれだけ良いアウトプットが出せるか/効率化に寄与するのかをまず確認・分析したいシーンに適する。
【高機能・研究向け】KH Coder
公式サイト: https://khcoder.net/
統計的な計量テキスト分析を実践できるフリーソフトウェア。操作にはそこそこの慣れ・知識が求められるものの、共起ネットワークの描画や多変量解析など、有料ツールに匹敵する高度で詳細な分析機能を無料で使える。
おすすめシーン: より学術的・専門的な観点から深くデータを分析したい場合、研究目的で利用したい場合に強力な選択肢となる。
【注意点】無料AIツールをビジネスで活用する際の限界とリスク
無料ツールは「コストがかからない」「手軽さ」が魅力ですが、ビジネスで本格的に活用する際には注意すべきことがあります。情報セキュリティのリスクや、分析精度の限界など、導入後に後悔しないために確認しておくべき注意点を解説します。

情報漏洩・セキュリティのリスク
Webサービスにデータをアップロードすることは、データが自社の管理外へ出る、つまり、顧客情報や売上データのような機密情報が「流出してしてしまう(情報漏えいの)リスク」を伴います。特に生成AIサービスでは、入力したデータが“AIの学習に利用”されてしまう可能性があります。
このビジネスニーズ/課題に対して、生成AIサービスの多くは「オプトイン/オプトアウト」の設定が用意されます。これによって、利用者が入力した文章や生成結果を今後のAIの学習に使うことを容認するかどうかを選択できます。
オプトインは「参加する」で、入力データをAIの改善に提供する(データを学習に利用してもよい)ことを意味します。AIのさらなる精度向上に貢献できる一方、業務上の機密情報まで誤って含めると外部に利用されるリスクがあります。
一方のオプトアウトは「参加しない」で、データをAI学習に利用させない選択です。生成AIサービスにおける多くの無料プラン、無料版サービスでは機能制限として「オプトアウト」を設定できず、必然的に入力内容が学習に使われることがあります。十分に注意してください。
そのため、無料版を業務で使う際には機密情報を入力しないといった自社の利用規程・コンプライアンス規定、ルールづくりも重要です。そして、もし本格的に活用するならば有料プラン/企業向け契約のプランを検討し、ビジネスで安全に運用できる環境を整えることが望まれます。
日本語の解析精度や専門用語への対応限界
ツールの中には、あるいは自身が投げるプロンプトによって、日本語の複雑な言い回しや文脈の理解が不十分、うまく出力されないシーンもあります。また、業界特有の専門用語や社内用語を正しく認識できず、分析精度が低下する可能性も考えられます。
有料プラン/有料ツールでは、独自の辞書登録機能などを通じて分析モデルを自社向けにカスタマイズできることも多いのですが、無料ツールではそうした柔軟な対応が難しい(機能が制限されている)場合があります。
機能制限とサポート体制の不在
無料ツールは、分析できるデータ量や利用できる機能が制限されていることが一般的です。本格的な分析を行おうとするとすぐに上限に達してしまうかもしれません。また、操作方法が分からない場合やトラブルが発生したとしても、ベンダーからの直接サポートはない/受けられないことがほとんどです。
まずはお試しとして無料ツールからはじめてみつつも、ビジネスで継続的に活用していく上では、安定した運用とサポート体制が整っている有料ツールの導入が現実的な選択肢となるでしょう。
おすすめ有料の生成AIサービスを徹底解説|無料版との違いと選び方
【本格導入編】より高度な分析を実現するビジネス向けのおすすめAIツール4選
無料ツールの限界を理解した上で、具体的にビジネスの成果につなげる本格的なツール導入を検討することも成功へ向けた第一歩です。ここでは数あるツールの中から参考として、アンケート分析や顧客の声の活用に強みを持つ、おすすめのビジネス向けAI関連ツールを厳選して紹介します(製品名 abcあいうえお順/2025年8月時点)。
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