
医療業界では業務の複雑化や人材不足、法規制対応など多くの課題が顕在化し、現場と経営の両面で効率化が求められています。こうした背景の中、「デジタル化」によって業務の一元管理や情報共有の強化、経営判断の迅速化を実現するERP(統合基幹業務システム)の導入が注目されています。本記事では、医療現場と経営層が抱える悩みにどう応えるか、ERPのメリットや導入ポイント、選び方のコツまで徹解説します。
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目次
医療業界でERPが求められる理由
医療機関や医療機器メーカーは、日々の業務が非常に多岐にわたっており、その煩雑さや人材不足が大きな悩みとなっています。特に現場での情報管理や共有が手作業中心の場合、ミスや重複が起こりやすくなり、業務効率を著しく低下させる要因となっています。
さらに、個人情報保護法や医療法など厳格な法規制・監査対応も求められるため、情報の適切な取り扱いは欠かせません。最近では、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進や働き方改革の流れもあり、院内でバラバラに使われているシステムやアナログ管理を見直し、統合システムによる一元管理への関心が高まっています。
ERPはこれらの課題解決の切り札として注目されており、現場・経営双方の負担軽減と運営の最適化を目指す動きが広がっています。
- バラバラなシステム/紙運用からの脱却で、情報の重複・抜け漏れを削減
- 人手不足下でも自動化・標準化で現場負荷を軽減
- 法規制・監査対応を権限/ログ管理で強化
- DX推進の土台として“全体最適”のプロセスに刷新
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複雑な業務プロセスを効率化する
病院やクリニックの現場では、診療受付、各診療科の診察、検査、薬品や医療機器の管理、会計、スタッフの勤怠やシフト管理など、さまざまな業務が日々同時進行しています。
こうした業務が部署や職種をまたいで連携する中で、情報のやり取りが紙や口頭、バラバラのシステムで行われていると、どうしても情報の行き違いや作業のムダが発生しやすくなります。
ERPを導入することで、これら多岐にわたる業務プロセスを一元化し、部署間の連携をスムーズにします。たとえば、患者情報を一度登録するだけで各部門で共有できるようになり、二重入力や伝達ミスを減らせます。煩雑な業務手順を標準化・効率化することができ、現場スタッフの負担も大きく軽減されるでしょう。
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人材不足への対応
医療業界では、人員が限られている中で増加する業務量に対応する必要があります。とくに看護師などの専門職は慢性的な人手不足が続いており、スタッフひとりひとりの負担が大きくなりがちです。
ERPの導入によって、これまで手作業やアナログで管理していた業務の多くをシステム化し、自動化することが可能になります。
情報の見える化も進むため、担当者同士の引き継ぎや業務フォローがしやすくなり、属人化の解消にもつながります。また、シフトや人員配置もシステム上で管理しやすくなり、最適な人員配置を実現しやすくなります。
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法規制、コンプライアンス順守への対応
医療機関では、個人情報保護法や医療法などにより厳格な規制が設けられており、患者の診療情報などは特に慎重な管理が求められます。さらに、サイバー攻撃のリスク増大や法令改正のたびに、運用ルールやセキュリティ強化への対応が不可欠となっています。
ERPシステムは、権限やアクセス管理をシステムで細かく設定できるため、情報漏洩リスクに備えた体制を築けます。また、監査や法令変更時にも、履歴や業務ルールの徹底がしやすくなり、適切なコンプライアンス対応が可能です。
医療業界でERPを導入するメリット
ERPを導入することで、医療機関の運営全体が大きく変わります。単なる業務効率化にとどまらず、医療の質や経営基盤の強化、患者満足度の向上まで、多岐にわたるメリットが期待できます。
業務の一元管理ができる
ERPは、患者の基本情報や診療履歴、会計情報、医薬品の在庫状況など、さまざまなデータを1つのプラットフォームで管理できます。これにより、二重入力や伝達漏れ、手作業による記載ミスを減らすことができます。
たとえば、医師が電子カルテに入力した情報が、薬剤部門や会計部門へ自動的に連携されることで、手作業の手間が省けます。過去の記録や履歴検索も容易になり、必要な情報をすぐに取り出せるため、問い合わせ対応の時間も短縮されます。
在庫や医薬品の管理がしやすくなる
医薬品や医療材料の在庫管理は、患者の安全確保や病院経営に直結する重要な業務です。ERPを導入すると、全ての在庫数や消費状況、使用期限をリアルタイムで把握できます。スタッフはPCやタブレットから正確な在庫数をいつでも確認でき、物理的な確認作業も大きく減ります。
また、消費実績データをもとに需要予測を行ったり、在庫が一定量を下回った場合は自動発注したりと、システムによる効率的な運用が可能です。ロット番号や使用期限の管理もシステム上で行えるため、リコール時の迅速な追跡や廃棄ロスの削減にもつながります。
医療・薬局の在庫管理の課題解決は「薬局・ドラッグストアの在庫管理を効率化するには? 」をご覧ください。
スムーズな情報共有ができる
現代医療では、医師や看護師、薬剤師、理学療法士など、多様な専門職がチームを組んで患者を支えています。その際に欠かせないのが、迅速で正確な情報共有です。ERPによって、患者の検査結果や治療進捗、アレルギー情報などをリアルタイムで関係者間に共有できます。
診療科やチーム、施設間の連携もスムーズに行え、申し送りや引き継ぎ時の伝達漏れも防げます。また、福祉施設や外部機関とのデータ連携も視野に入れられるため、継続的なケアにも役立ちます。
セキュリティやプライバシーの強化につながる
患者のプライバシー保護は医療機関にとって最優先の課題です。ERPは、情報の取り扱いルールやアクセス権限の管理をシステム上で細かく設定できます。内部からの情報持ち出しや不正アクセスのリスクを最小限に抑えます。
また、ほとんどの製品で、操作履歴の記録やデータの暗号化・自動バックアップ機能も備えており、事故や災害時の情報損失リスクにも強くなります。クラウド型製品では特に、ベンダーがまず最新のサイバー対策を実施した上でサービスを提供する仕組みのため、自社の対策と掛け合わせて外部からの脅威に備えやすくなるのもメリットの1つです。
経営の可視化・データ活用ができる
日々の業務から発生するデータを集約し、経営状況を可視化するのもERPの大きな強みです。たとえば、病床稼働率や平均在院日数、診療科別の収益、薬剤コストなどの指標(KPI)をリアルタイムに確認できるようになり、経営判断のスピードが格段に上がります。
また、データをもとに経営課題を発見し、的確な対策を立てることも可能です。経験や勘に頼らない客観的なデータ分析ができることで、持続可能な病院経営につながります。
中堅・中小病院での導入については「中小企業向け『ERP』入門」の記事もおすすめです。併せてご確認ください。
医療業界向けERPの種類と選び方
一口にERPといっても、その種類や導入形態にはいくつかのパターンがあります。自院の規模や課題、将来像に合わせて最適なシステムを選ぶことが大切です。
統合型ERP
統合型ERPは、会計・人事・在庫・購買管理など、医療機関に必要な機能をまとめて標準搭載したシステムです。複数の診療科や拠点を持つ大規模病院や医療法人が、組織全体の業務プロセスを抜本的に刷新・統合したい場合に適しています。
すべての部門で共通のシステムを利用できるため、情報の一貫性や全社的な経営管理がしやすくなります。ただし、自院独自の細かな業務に合わせたカスタマイズは難しい場合があるため、業務フローや要件をよく整理したうえで検討することが大切です。
コンポーネント型・業界特化型
コンポーネント型ERPは、特定の業務領域ごとに個別のツール、機能を組み合わせて利用するタイプです。たとえば、会計はA社の製品、在庫管理はB社の製品、といったかたちで、必要な機能を個別に利用する形態です。段階的に導入できることで、クリニックや医療機器メーカーのように特殊な要件が多い現場や、既存システムを活かしながらスモールスタートしたい場合にも有効です。
一方で、異なるシステム間の連携に開発コストや手間がかかる場合もあるため、導入時にはよく比較しましょう。
クラウド型とオンプレミス型
ERPの導入形態は大きく分けてクラウド型とオンプレミス型があります。
- クラウド型はベンダーのサーバーを利用し、月額課金で運用します。初期費用を抑えやすく、短期間で導入できるのが特徴です。システム保守やセキュリティもベンダーが担うため、IT専門人材が少ない現場でも運用しやすいでしょう。
- オンプレミス型は自院にサーバーを設置し、ソフトウェアライセンスを購入してシステムを管理します。初期投資は高めですが、独自のセキュリティポリシーや細かなカスタマイズに対応できます。
下記の比較表を参考にしてください。
| 比較項目 | クラウド型ERP | オンプレミス型ERP |
| 初期費用 | 低い(サーバー不要、月額課金) | 高い(サーバー・ライセンス購入) |
| 導入スピード | 速い(数週間~数ヶ月) | 遅い(数ヶ月~1年以上) |
| 保守・運用 | ベンダーが実施(手間が少ない) | 自院で実施(専門人材が必要) |
| カスタマイズ性 | 制限あり | 高い |
| セキュリティ | ベンダー依存(高水準) | 自院で構築・管理(自由度高い) |
| アクセス性 | インターネット環境でどこでも可 | 院内ネットワークに限定 |
| 適した組織 | 中小規模の病院や初期投資抑えたい組織 | 大規模病院や独自要件が多い組織 |
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医療特有の要件に対応しているか確認
どの種類のERPを選ぶにせよ、電子カルテやレセコンとの連携、既存業務ソフトとの相性が重要です。特に、導入予定のERPが自院で使っているシステムとスムーズに連携できるか、過去に同様の導入実績があるかは必ず確認しましょう。
また、ベンダーが医療業界での実績や専門知識を持っているか、サポート体制がしっかりしているかも大切なポイントです。法改正や医療ガイドラインへの迅速な対応ができる製品かどうかも、事前にチェックしておきましょう。
医療業界向けERP導入の注意点と成功のコツ
ERPの導入は、単なるシステムの入れ替えではなく、業務改革も含めた大きなプロジェクトです。導入効果を最大化するために、いくつかの注意点や成功のポイントを押さえておく必要があります。
自院の課題・導入目的を明確にする
最初に行うべきは「なぜERPを導入するのか」という目的の明確化です。診療科や看護部、事務部など、各部署が抱える課題や解決したいことを具体的にリストアップしましょう。例えば以下が挙げられます。
- 医薬品の廃棄ロス削減
- 部署間の情報伝達の効率化
- 経営状況の迅速な把握
こうした課題をもとに、導入後にどのような成果を目指すかKPIを設定し、関係者で共有しておくことが、導入プロジェクトの成功につながります。
既存システムや業務フローとの整合性
ERPの導入時には、現在使っているシステムや運用ルールとの整合性も検討が必要です。ただExcelや紙管理をそのままシステムに置き換えるのではなく、非効率な業務自体を見直すことも意識しましょう。
また、既存の電子カルテや部門システムからのデータ移行は特に複雑な工程です。どのデータを、いつ、どのように移行するかを計画的に進める必要があります。「ビッグバン導入」よりも、段階的な「フェーズ導入」を選ぶのも有効な手法です。
従業員教育とサポート体制
どんなに優れたシステムでも、現場スタッフが使いこなせなければ意味がありません。新システムへの移行時は職員に不安や戸惑いが生じやすいため、導入前の操作説明や現場研修を十分に行うことが大切です。
導入後も、困ったときにすぐ相談できるヘルプデスクや、ベンダーのサポート体制が整っているか確認しましょう。現場の意見を取り入れながら、運用を定着させていくことが成功のカギとなります。
コストや導入スケジュールの管理
ERP導入には多くの費用がかかります。ソフトウェアライセンスや初期導入支援費用だけでなく、サーバーやカスタマイズ、保守・運用費まで「総所有コスト(TCO)」として見積もることが必要です。
複数ベンダーから見積もりをとり、コストと機能をじっくり比較検討しましょう。また、現実的なスケジュールを設定し、プロジェクト計画を立てて進捗管理する体制も整えておきましょう。無料トライアルやデモを活用して、実際の使い勝手を体験したうえで決定することが失敗のリスクを減らします。
医療機関向けERP6選
ここでは、医療機関が直面する「法規制対応」「在庫(ロット・期限)管理」「人員・多拠点運営」「経営の見える化」に対応できるERP製品を6つ紹介します。現場と経営の一元化に役立つ特徴的な製品をピックアップしました。(製品名 abcあいうえお順/2025年11月時点)
Empower-X cx
生産管理や在庫、品質、購買までを一貫して管理できるERPです。トレーサビリティ機能が充実しており、万が一の不具合時にも迅速に追跡が可能です。医療機器や部材を扱う現場での拡張性や、他システムとの連携・分析のしやすさも大きな強みです。
















