
「物流コストを削減したい」「倉庫業務を効率化したい」と考えたとき、多くの企業が物流システムとして「在庫管理システム」「WMS」の導入を検討します。これらのシステムにはどんな違いがあるのでしょう。自社の課題に適したシステムを選ぶには、まずそれぞれの役割と関係性を正しく理解することが重要です。
本記事では、物流業務の効率化を実現する「物流システム」において、在庫管理システムとWMS(倉庫管理システム)の違いから、導入によって得られるメリット、失敗しないための選定ポイントまでを網羅的に解説。倉庫業務の非効率や在庫の悩みを解決し、戦略的な物流改革を実現するためのヒントととともにおすすめの最新製品/システムもご紹介します。
この1ページで解決!在庫管理システムの主な機能、メリット/デメリット、選定ポイントを徹底解説
目次
はじめに:物流業務の効率化|在庫管理・WMS、その関係性と重要性
物流業務の効率化を実現する「物流システム」という大枠の考え方/仕組みにおいて、特に「在庫管理(在庫管理システム)」と「倉庫管理(WMS/倉庫管理システム)」が重要な役割を果たします。これらは一見すると同じように思えますが、システムの役割として何が違うのでしょう。そして、なぜ今、在庫の管理と倉庫業務の最適化が物流全体の鍵を握ると言われるのでしょう。
まずはそれぞれのシステムの定義を明確にし、自社の課題解決に合ったシステムを見つけるための第一歩として、基本的な知識を改めて整理しましょう。
「物流システム」とは? 物流プロセス全体を管理する仕組み
物流システムとは、商品の受注から始まり、倉庫での保管・管理、そして顧客への配送に至るまで、モノの流れ(物流)に関する一連のプロセスを効率的に管理するための仕組み全般を指す広範な言葉です。
具体的には、以下のような個別の専門システムが連携して構成されることが多く、自社の業務や課題に応じて必要なシステムを組み合わせて利用します。
- 在庫管理システム: 「どこに・何が・いくつあるか」の在庫情報をデータとして記録し、管理する。
- 倉庫管理システム(WMS): 倉庫内の業務(入荷、保管、ピッキング、出荷など)を管理する。
- 輸配送管理システム(TMS): 出荷後の配送計画や車両、ドライバーの管理を行う。
- 受発注管理システム: 部材や商材の注文・発注、ECサイトや電話など、様々なチャネルからの注文情報を一元管理する。
- 生産管理システム: 製品の生産計画、資材の調達、工程の進捗、品質などを一元管理し、生産活動全体を最適化する。
- EDIシステム: 企業間の取引(受発注、請求、支払いなど)で発生する伝票や帳票を標準化された形式で電子的にやりとりする仕組みを整える。
- 需要予測システム: 在庫の最適化や生産計画の精度向上を目的に、過去の販売実績や市場トレンドなどのデータを分析し、将来の需要を予測する。
物流システムは、単一の製品というよりは物流全体・事業全体の最適化を目指すためのソリューションの総称、ERP(基幹システム)的製品・機能群と捉えるのがよいでしょう。
在庫管理システムとWMSの違い
では本題である「在庫管理システム」と「WMS」の違いは何でしょうか。この2つは重なる機能も多いですが、その主目的とカバーする業務範囲に違いがあります。
在庫管理システム:在庫の「数量」と「価値」を正確に管理
在庫管理システムは、その名の通り「在庫」の管理に特化したシステムです。「どこに・何が・いくつあるか」という在庫情報をデータとして正確に把握し、管理することを主な目的とします。販売管理システムや会計システムの一機能として提供されることも多く、主に在庫数の可視化、過剰在庫や欠品の防止に貢献します。
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WMS(倉庫管理システム):倉庫内の「作業」を効率化・標準化
一方、WMS(Warehouse Management System/倉庫管理システム)は、在庫管理の機能に加え、倉庫内で発生する「作業・工程」そのものの効率化・標準化に主眼を置いたシステムです。ハンディターミナル・スキャナーなども併用し、入荷、検品、棚入れ(ロケーション管理)、ピッキング、出荷といった一連の庫内作業を正確かつスムーズに進めるための指示や管理を行います。在庫データの管理だけでなく、倉庫現場の生産性向上までを目指すのがWMSと言えます。
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なぜ今「在庫管理と倉庫業務の最適化」が重要なのか
在庫管理と倉庫業務の最適化が重要視される理由は、在庫が物流プロセス全体の起点であり、倉庫がその中心的な結節点だからです。
- 正確な在庫情報がなければ、販売機会を失う(欠品)
- 不要な在庫を持ち続ければ、キャッシュフローが悪化する(過剰在庫)
- 倉庫作業が非効率なら、出荷が遅れ、人件費も増大する(コスト増・顧客満足度低下)
在庫管理の精度と倉庫業務の効率は、販売、会計、顧客満足度といった企業活動のあらゆる側面へ直接的に影響します。。
人手不足が深刻化し、EC化の進展で物流が複雑化する現代において、これらの最適化は、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)を実現する重要な課題の1つと言えるでしょう。
Excelや手書き管理はもう限界? 従来の在庫管理・倉庫業務が抱える7つの課題
多くの企業で、依然としてExcelや手作業による在庫管理・倉庫業務が行われています。しかし事業の成長とともに、これらの従来手法はさまざまな問題を引き起こし、物流全体の非効率を招く原因となります。ここでは、現場でよく聞かれる具体的な7つの課題を掘り下げ、なぜシステム化が必要なのかを明らかにします。
課題1:在庫数のズレと把握の遅れ
手作業での入力や転記ミス、報告の遅れなどにより、データ上の在庫数と実際の在庫数が合わなくなる問題は、従来型の管理で頻繁に発生しうる課題です。リアルタイムな在庫状況を把握できないため、問い合わせ対応に時間がかかったり、営業担当が在庫がない商品を売ってしまったりする事態を招きます。
課題2:過剰在庫によるキャッシュフローの悪化
正確な在庫数がわからないと、担当者は欠品を恐れるあまり、つい多めに在庫を発注しがちです。この過剰在庫は、保管スペースを圧迫するだけでなく、企業の資金を「売れないモノ」に変えてしまうため、キャッシュフローを著しく悪化させる要因となり得ます。
課題3:欠品による販売機会の損失
過剰在庫とは逆に、気づかないうちに人気商品が欠品してしまうケースもあります。これは、本来得られるはずだった売上を逃す「販売機会の損失」に直結します。特にECサイトでは、欠品が顧客の離脱やブランドイメージの低下に繋がりやすく、深刻な問題です。
課題4:入出荷・ピッキング作業のミスが多発
紙のリストを見ながら商品を探すピッキング作業は、商品の取り違えや数量間違いといったヒューマンエラーが発生しやすい工程です。誤った商品を顧客に届けてしまう「誤出荷」は、クレーム対応や再配送のコストを発生させ、企業の信頼を損ないます。これは特にWMSが解決を得意とする領域です。
課題5:作業の属人化と人手不足の深刻化
「ベテランのAさんしか、あの商品の場所はわからない」といった作業の属人化も大きな課題です。特定のスタッフに業務が依存すると、その人が休んだり退職したりした途端に現場が混乱する可能性があります。人手不足が叫ばれる中、誰でも同じ品質で作業できる標準化された環境の構築が求められます。
課題6:複数拠点・ECサイトの在庫連携ができない
複数の倉庫や店舗、ECサイトを運営している場合、それぞれの在庫情報をExcelなどで個別に管理していると、拠点間の在庫移動やサイト間の在庫引き当てに膨大な手間と時間がかかります。結果として、ある店舗では欠品しているのに、別の倉庫には在庫が眠っているといった非効率な状況が生まれます。
課題7:データ分析ができず、需要予測が勘頼り
手作業の管理では、過去の入出荷実績や在庫の回転率といったデータを分析・活用することが困難です。そのため、発注計画などが担当者の経験や勘に頼ることになり、精度の高い需要予測に基づいた戦略的な在庫最適化が行いにくくなります。
在庫管理・WMSの導入で実現する8つのメリット
在庫管理システムやWMSを導入することは、単に在庫数を正確に把握するだけに留まりません。物流プロセス全体の効率化、コスト削減、さらには顧客満足度の向上まで、企業経営に多岐にわたるメリットをもたらします。この章では、システム導入によって期待できる具体的な8つの効果を解説します。
- リアルタイムな在庫状況の可視化を実現する
- 適正在庫を維持できる
- 欠品や過剰在庫のリスクを軽減する
- 倉庫業務の標準化と作業効率を向上させる
- 誤出荷やピッキングミスを防止する
- 複数拠点・ECの在庫を一元管理できる
- 精度の高い需要予測を実現する
- コスト削減と生産性向上に貢献する
メリット1:リアルタイムな在庫状況の可視化を実現する
システムを導入し、入出荷情報をその場で登録することで、在庫データが即座に更新されます。これにより、事務所にいながら倉庫の最新状況を把握しやすくなります。営業担当からの在庫問い合わせにも迅速に回答でき、顧客満足度の向上にも繋がります。在庫状況がいつでも誰でも「見える」状態になることは、多くの改善の第一歩です。
メリット2:適正在庫を維持し、キャッシュフローを改善する
システムによって正確な在庫数がリアルタイムに把握できれば、欠品を恐れて過剰に発注する必要性を低減できます。また、多くのシステムには、過去の出荷実績から適切な在庫量を計算し、発注が必要なタイミングを知らせてくれる機能があります。これにより、無駄な在庫を削減し、保管コストや廃棄ロスを軽減。企業のキャッシュフロー改善に貢献します。
メリット3:欠品や過剰在庫のリスクを大幅に軽減する
適正在庫の維持は、欠品による販売機会損失の防止にも繋がります。システムが在庫の減少を自動で検知し、アラートを発してくれるため、発注漏れを防ぎやすくなります。これにより、「売れるはずだったのに売れなかった」という事態を回避し、売上の最大化を支援します。ビジネスの成長を安定的に支える基盤が整うのです。
メリット4:倉庫業務の標準化と作業効率を向上させる(特にWMS)
WMSは、ピッキングリストや入荷予定リストなど、作業に必要な情報を自動で作成し、作業者に手順を指示する機能を持つものがあります。例えば、ロケーション管理機能を使えば、商品の保管場所が分かりやすくなり、新人スタッフでも効率よく商品を探せるようになります。業務が標準化されることで、教育にかかる時間も短縮され、人手不足の解消にも繋がります。
メリット5:誤出荷やピッキングミスを防止し、品質を高める(特にWMS)
WMSのバーコード検品機能は、誤出荷防止に大きな効果が期待できます。ピッキングした商品のバーコードをハンディターミナルでスキャンするだけで、指示された商品と合っているかをシステムが自動でチェック。万が一間違いがあれば、その場で警告音が鳴るため、ミスが倉庫の外に出ることを防ぎます。物流品質の向上は、顧客からの信頼獲得において非常に重要です。
メリット6:複数拠点・ECの在庫を一元管理できる
クラウド型の在庫管理システムやWMSを導入すれば、本社、支店、複数の倉庫、ECサイトなど、離れた場所にあるすべての在庫情報を一つのシステムで一元管理できます。あるECサイトで商品が売れたら、自動的に他のサイトや実店舗の在庫表示も更新されるため、売り越しを防ぎやすくなります。
メリット7:データ活用による正確な需要予測を支援する
システムに蓄積された入出荷データや在庫回転率などの実績は、客観的な需要予測を行うための貴重な情報源となります。季節変動やセール時期の販売傾向などを分析することで、勘や経験だけに頼らない、データに基づいた精度の高い発注計画を立案しやすくなります。
メリット8:人的コストの削減と生産性向上に貢献する
これまで手作業で行っていた在庫数の確認、伝票の入力、リストの作成といった業務が自動化されることで、担当者はより付加価値の高いコア業務に集中しやすくなります。特にWMSによる倉庫作業の効率化は、残業時間の削減や省人化による人件費の抑制に大きく貢献することが期待できます。
おすすめ導入意向が急増「AI在庫管理」の仕組みとシステム導入方法
自社に合った在庫管理システム・WMSの選び方|失敗しないための5つの選定ポイント
システムの導入効果を高めるには、自社の課題や事業規模に合った製品を選ぶことが重要です。ここでは、システム選定で失敗しにくくなる5つのポイントを解説します。これらの比較軸を参考に、自社の要件を整理してみましょう。
ポイント1:提供形態(クラウド型かオンプレミス型か)は何か
システム化は大きく分けて「クラウド型」と「オンプレミス型/ハイブリッド型」のいずれかを選択することになります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、自社のIT環境や予算に合わせて選択することが大切です。
クラウド型: インターネット経由でサービスを利用する形態。
- メリット: 一般的に初期費用が安く、短期間で導入できる。サーバ・ソフトウェア類の管理が不要。場所を選ばず利用できる。
- デメリット: カスタマイズの自由度が低いことがある。使い続ける限りランニングコストが発生する。
- おすすめの企業: 初めてシステムを導入する中小企業、EC事業者、複数拠点で利用したい企業。
オンプレミス/ハイブリッド型: 自社内/自社管理下(クラウドなど)にサーバを設置してシステムを構築する形態、オンプレミスとクラウドを組み合わせて運用する形態。
- メリット: 自社の業務に合わせて柔軟に設計できる。セキュリティポリシーなども細かく設定しやすい。
- デメリット: 高額な初期費用と開発期間が必要になる場合がある。自社でのサーバ運用・保守が求められる。
- おすすめの企業: 独自の/複雑な業務フローがある企業、高度なセキュリティ要件が求められる大企業。
ポイント2:自社の業種・業界への対応実績はどうか
在庫管理と一言でいっても、業界によって管理方法は大きく異なります。例えば、アパレル業界ならサイズやカラーごとの「SKU管理」、食品業界なら「賞味期限管理」、医療・化学業界なら「ロット管理」などが求められます。自社と同じ業種・業界での導入実績が豊富なシステムを選ぶことで、業界特有の課題に対応しやすく、スムーズな導入が期待できます。
ポイント3:必要な機能の過不足がないか
まずは自社の課題が「在庫数の管理」なのか、「倉庫作業の効率化」なのかを明確にしましょう。その上で、必要な機能をリストアップすることが有効です。
- 在庫管理システムの主な機能: 在庫数のリアルタイム把握、複数拠点・ECの在庫連携、発注点管理など。
- WMSの主な機能: 上記に加え、ロケーション管理、ハンディターミナル連携、ピッキング指示、作業進捗管理など。
使わない機能が多いと、操作が複雑になったり、費用が割高になったりする可能性もあります。
ポイント4:既存システム(基幹・ECカート等)との連携性はどうか
すでに販売管理システムや会計システム、ECカートなどを利用している場合は、それらとスムーズに連携できるかどうかが非常に重要なポイントになります。連携ができないと、システム間でデータを手入力で二重登録する手間が発生し、かえって非効率になることも。API連携やCSV連携など、どのような方法で連携できるのかを事前に確認しましょう。
ポイント5:操作性(UI)とサポート体制はどうか
システムは日々利用するものです。特に倉庫現場では、ITに不慣れなスタッフが使うケースも想定されるため、誰にとっても直感的で分かりやすい画面(UI)であることが望ましいです。無料トライアルやデモを活用し、実際に操作感を試してみることをお勧めします。また、導入後のサポート体制も重要です。
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