
「紙やExcelでの勤怠管理に限界」「毎月の給与計算でミスが発生しがち」「頻繁な法改正に、担当者の負担が限界」……。中小企業のバックオフィスではこのような悩みが尽きません。特に2025年現在は、リモートワークや時短勤務といった多様な働き方が定着し、労務管理業務はますます複雑化しています。
労務管理システムは、こうした課題を解決し、業務効率化を実現するための強力なソリューションです。しかし、多種多様な製品の中から自社に最適なツールを選定するのは簡単ではありません。
本記事は、ITを軸に最新事情や製品を長年取材・分析してきたITmedia編集部が、2025年9月現在の最新情報を踏まえて、「そもそも」から、選定計画/選び方のポイント、おすすめの製品、失敗を避ける考え方と対策までをじっくりと解説します。この記事を最後まで読めば、労務管理システム導入で失敗しないための具体的な選び方のステップと、比較検討すべきポイントがわかります。
目次
そもそも労務管理システムとは?
労務管理システムとは、勤怠管理、給与計算、社会保険手続きといった企業の人事労務に関わる煩雑な業務を一元管理し、自動化・効率化するためのITツールです。
従来は書類の作成や手作業でのデータ入力が中心だった業務をデジタル化し、担当者の負担を大幅に軽減し、効率化すること、そしてデジタル化した「正しいデータ」を根拠に戦略を定め、意思決定する(データドリブンな意思決定)体制を整える成果を見込みます。
この先の労務管理システムは単なる業務効率化だけでなく、収集した人事データを活用して、従業員の働きがい向上や戦略的な人材配置に貢献する、つまり「企業の成長に不可欠な基盤」としての役割を担うようになっていることが外してはならないポイントです。
労務管理システムに求められる主な機能
多くの労務管理システムには、以下の基本機能が備わります。どれもバックオフィス業務の根幹を支える機能です。
勤怠管理機能(出退勤・残業・休暇管理)
労務管理システムの基盤機能で、出退勤打刻や残業時間の管理、休暇申請・承認をオンライン化します。Webやスマホ、ICカードなど多様な打刻手段に対応し、テレワーク下でも正確な勤怠把握が可能です。労働時間の適正管理を徹底し、36協定や働き方改革関連法への対応を支援します。
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給与計算・社会保険連携機能
勤怠データを自動で集計し、給与や賞与を正確に算出する機能です。所得税や住民税、社会保険料の控除計算に対応し、年末調整や社会保険手続きとの連携をスムーズに実現します。人為的な計算ミスを防止し、経理・総務部門の業務効率と法令遵守を強化します。
人事・従業員データベース機能(マスタ管理)
従業員の氏名、住所、資格、扶養家族などの基本情報を一元管理する機能です。入退社や異動に伴う更新も効率化され、最新データを常に保持できます。人事評価や組織構成の分析にも活用でき、労務・人事業務の基盤を担う重要な役割を果たします。
雇用契約・異動管理機能
雇用契約書の締結・更新、配置転換や昇格などの異動履歴をシステムで記録・管理する機能です。電子契約やPDF保管に対応する製品も増えており、労使間の契約内容を正確に履歴化できます。法定帳票や人事評価と連動させることで、企業のコンプライアンス強化と人材マネジメントを支援します。
労務手続きの電子化機能(入退社・社会保険・雇用保険)
入退社に伴う社会保険・雇用保険の手続きを電子化し、e-Gov API連携でオンライン申請を可能にする機能です。役所への書類提出や紙管理が不要になり、総務担当者の負担を軽減します。ペーパーレス化や処理スピードの向上につながり、DX推進に不可欠な要素として導入が進んでいます。
法令対応レポート・労基署提出帳票機能
労働基準法や働き方改革関連法に準拠した各種レポートを自動生成する機能です。36協定超過予測や長時間労働者リスト、ストレスチェック実施記録などを出力できます。労基署調査や内部監査対応を迅速化し、法令違反のリスクを低減する重要な役割を担います。
社員セルフサービス機能(Web申請ポータル)
従業員自身が休暇申請や住所変更、扶養異動、各種証明書発行依頼をオンラインで行える機能です。申請から承認までを効率化し、人事・総務部門への問い合わせや紙書類の処理を削減します。多拠点やリモートワーク環境に適応でき、従業員の利便性と満足度向上につながります。
2025年~以降の労務管理システムで実現したい新しい役割・視点
働き方改革やDX推進の流れを受け、現代の労務管理システムには、従来の機能に加えて以下のような新しい役割が求められています。
- 多様な働き方への対応
- データ活用による経営支援
- コンプライアンス強化とリスク管理
多様な働き方への対応
リモートワークやフレックスタイム、時短勤務など、複雑な就業規則にも柔軟に対応できる勤怠管理機能。
データ活用による経営支援
蓄積された勤怠データや人事情報を分析し、長時間労働の是正や、人材配置の最適化、生産性向上といった経営課題の解決に貢献します。
コンプライアンス強化とリスク管理
頻繁な法改正に自動でアップデート対応し、企業の法令遵守を支援。労働基準法などの遵守はもちろん、セキュリティ対策も万全で、マイナンバーなどの個人情報を安全に保管します。
【最重要】失敗しない労務管理システムの選び方 “5つのステップ”
自社に最適な労務管理システムを選定するためには、やみくもに製品を比較するのではなく、順序立てて検討を進めることが成功の鍵です。ここでは、導入で後悔しないための具体的な5つのステップを解説します。このプロセスを踏むことで、自社の課題解決に本当に必要な機能が見え、費用対効果の高いシステム導入が実現できます。担当者だけでなく、従業員全体がメリットを感じられるツール選定を目指しましょう。

ステップ1:自社の課題を洗い出す
まず、現状の業務プロセスにおける課題を具体的にリストアップします。
「毎月のタイムカード集計に時間がかかりすぎている」「給与明細の印刷・配布の手間を削減したい」「入退社手続きの書類作成で漏れやミスが発生している」など、できるだけ具体的に洗い出していきます。
この作業の目的は、システム導入の目的を明確にすること、必要な機能の優先順位を付けやすくすることです。
ステップ2:システムの導入形態(タイプ)を決める
労務管理システムには、主に「クラウド型」と「オンプレミス型」の2種類があります。
- クラウド型: インターネット経由で利用するタイプ。一般的にコストが多くかかるサーバ/システムの構築や保守が不要で、初期費用を抑えてスピーディーに導入できることが大きなメリットです。法改正にも自動でアップデート対応してくれる(サービスベンダー/ソフトウェア側で対応してくれる)ことも大きく、中小企業から規模を問わず現在の主流となっています。
- オンプレミス型: 自社内/自社管理下の環境へサーバを設置してシステムを構築するタイプ。自社の特殊な要件やセキュリティポリシーに沿って柔軟な設計・カスタマイズが可能ですが、導入・運用コストが高額になる傾向があります。
特別な事情がない限り、コストと運用の手間の両面から、クラウド型の製品を検討するのがおすすめです。
ステップ3:必要な機能を比較検討する
ステップ1で洗い出した課題を基に、必要な機能をチェックします。勤怠管理や給与計算といった基本機能のほか、例えば以下の機能も必要かどうか、などを検討していきます。
- 年末調整機能: 申告書の回収から計算、帳票作成までをWebで完結できるか。
- 電子申請(e-Gov連携): 社会保険や雇用保険の手続きをオンラインで実施できるか。
- データ連携(API連携など): 既存の会計ソフトや人事評価システムとスムーズにデータ連携できるか。少なくともCSV形式でのインポート/エクスポートが柔軟に行えるかは重要です。
ステップ4:操作性とサポート体制を確認する
毎日使うツールだからこそ、担当者や従業員が直感的に操作できる画面設計かどうかが極めて重要です。
なお、クラウド型製品には「無料トライアル版」あるいは「無料デモ版」のように「一定期間無料で試用できる、無料版」が用意されることがとても多いです。無料版があればぜひ遠慮なく活用することを強くおすすめします。実際の使用感、使い勝手を「自社で運用するならばどう使えるか」の観点でじっくりとチェックしましょう。
また、導入初期や運用で不明点が発生した際に、電話やチャット、メールなどで迅速にフォローしてくれる充実したサポート体制があるかどうかも、安心して運用を続けるための大切な選定基準です。
ステップ5:料金体系と費用対効果を試算する
料金プランは、初期費用と月額費用で構成されるのが一般的です。クラウド型製品は「月額費用は1ユーザーあたり〇円」といったサブスクリプション/従量課金型が多いです。単純な人数単位の場合もあれば、「50人まで○円」のような半定額制のもの、「ある機能はプラス○円/月」といった必要な機能をオプション選択できる仕組みのものなど、ニーズに沿って料金プランを柔軟に決められることもあります。
ではどう考えればよいでしょう。例えば「人数」単位ならば従業員規模によって費用が変動します。基本料金でカバーされる機能の範囲を確認し、必要な機能がオプション料金になっていないか、成長によって従業員数が急増したらどうなるか、などを予測しつつチェックする方法があります。
そして総合的には、システム導入によって削減できる作業時間や人件費(工数)を試算し、費用対効果を明確にすることが社内での承認を得るうえで不可欠なプロセスとなるでしょう。
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