
DX推進や業務効率化の機運が高まる中、営業部門やマーケティング部門など、各事業部門から「専用の業務アプリを開発してほしい」といった要求が乱立していないでしょうか。これら個別の要求に全て応えることなどとても無理だ……と課題を抱えているIT/情シス部門の方も多くいると思います。
本記事では、ネイティブアプリの基礎知識から、Webアプリ、ハイブリッドアプリ、PWAといった他のアプリ形式との比較を通じて、それぞれのメリット・デメリットを明確にします。さらに、SaaS活用、ノーコード・ローコード開発ツールといった新たな選択肢を提示し、情報システム部門が現場要求を裁き、全社最適化を図る戦略をひもといていきます。
技術的な実現可能性だけでなく、ビジネスインパクトや運用負荷まで考慮した最適なソリューションを現場に提案し、アプリの乱立やシャドーITを防ぎ、情報システム部門主導でのガバナンス確立とDX推進に貢献することを目指していきましょう。
この1ページで解決!ノーコード開発・ローコード開発ツールの選び方完全ガイド
目次
はじめに:情報システム部門を取り巻く現状と課題

乱立するアプリ開発要求とガバナンス課題
DX推進や業務効率化の機運が高まる中、営業部門やマーケティング部門など、各事業部門から「専用アプリを開発してほしい」という要求が乱立していないでしょうか。これら個別の要求に都度全て応えることは、コストや工数、さらには保守の観点から現実的ではありません。
また、部門ごとに異なるツールを導入してしまうといわゆる「シャドーIT(野良化)」も多発し、全社的なガバナンスが効かなくなるリスクも高まります。情報システム部門としてはこれらの乱立する要求に対して、全社最適の視点から効率的な代替案を提示し、統制を確立することが求められています。
コストとリソースの両立圧力
アプリ開発やシステム運用には相応のコストとリソースが必要です。しかし経営層からは常にコスト削減の圧力があり、それは情報システム部門も例外ではありません。
特にIT人材の不足は深刻な課題です。経済産業省の試算によると2030年までに最大で79万人のIT人材が不足し、それはますます深刻化すると予測されています。このような状況で現場部門の多様な要求に応えつつ、限られた予算とリソースで最大の効果を出すことが情報システム部門にとっての大きな課題となっています。
ネイティブアプリとは何か:基礎知識と他形式との違い
まずは、ネイティブアプリの基本的な定義や特徴とともに、Webアプリ、ハイブリッドアプリ、PWAといった他の形式との違いを体系的に整理します。それぞれのアプリ形式がどのようなシーンで活用され、どのような機能を提供できるのかを確認しましょう。
ネイティブアプリの定義と特徴
ネイティブアプリとは、スマートフォンやタブレットなどの特定のデバイスやOS(オペレーティングシステム)向けに設計・開発され、App StoreやGoogle Playなどのアプリストアからダウンロードしてインストールされるアプリケーションのことです。
端的には、iOS(iPhone、iPadなど)やAndroid(Android端末)といった各OS専用に開発されるため、そのデバイスやOSの機能を最大限に活用できることが大きな特徴です。具体的には以下のような特徴が挙げられます。
オフライン利用も可能
インターネット接続のない環境でもアプリが動作します。ゲームアプリやメモアプリ、地図アプリなど、ネットワーク環境に左右されずに使用できる点がユーザーにとっての大きな利便性をもたらします。
端末の機能をフル活用できる
カメラ、GPS、各種センサー(加速度センサーなど)、マイク、プッシュ通知といったデバイス固有のハードウェア機能を直接呼び出して利用できます。これにより、位置情報を利用したサービスやAR(拡張現実)アプリ、リアルタイム通知などのような高度な機能も提供できます。
動作が高速でスムーズ
ネイティブアプリではOSに最適化されたコードが直接実行されるため、コンテンツの読み込みや画面遷移が高速で、操作のレスポンスも良好となるよう設計できます。ユーザーはストレスなく快適にアプリを使用できます。
ホーム画面にアイコン表示
インストールすることでデバイスのホーム画面へアイコンを表示させられます。ワンタッチで簡単に起動でき、ユーザーのアクセス性が向上し、継続的な利用を促しやすいです。
Webアプリ、ハイブリッドアプリ、PWAとの違い
ネイティブアプリ以外にもアプリにはさまざまな形式が存在します。ここでは、Webアプリ、ハイブリッドアプリ、PWA(Progressive Web Apps)との違いをそれぞれの動作環境や利用方法、開発・メンテナンスの観点から比較します。
Webアプリ
- 特徴:デバイスの機能へのアクセスはブラウザの制約を受けるため限定的で、動作速度は通信環境に左右されることも多くあります。一方で利用ハードルが低く、幅広いユーザーに手軽に提供したい場合に適しています。
- 動作環境・利用方法: Webブラウザ(Safari、Google Chromeなど)上で動作するアプリ。ブラウザがあれば利用できますが、インターネット接続が必須です。アプリストアなどからのダウンロードは不要で、URLにアクセスするだけで利用できます。GmailやYouTubeなどが代表例です。
- 開発・メンテナンス: 1つのコードベースで複数のプラットフォームに対応できるため、開発コストや時間を抑えられます。サーバ側で更新を行うため、ユーザーは常に最新バージョンを利用できます。
ハイブリッドアプリ
- 特徴:ネイティブアプリとWebアプリの中間的な性質を持ち、開発効率とネイティブ機能の活用を両立したい場合に選択肢となります。ただしネイティブアプリに比べると動作のスムーズさや高度な機能活用には限界があります
- 動作環境・利用方法:ネイティブアプリの「シェル」の内部でWebコンテンツを表示する形式です。App StoreやGoogle Playからダウンロード・インストールしますが、内部はWebアプリの技術(HTML、CSS、JavaScript)で構成されています。
- 開発・メンテナンス:1つのWebコードベースでiOSとAndroidの両方に対応できるため、ネイティブアプリよりも開発コストと時間を削減できます。プッシュ通知など一部のデバイス機能も利用可能です。
PWA(Progressive Web Apps)
- 特徴:オフラインでの動作やプッシュ通知機能も利用可能で、Webアプリの利便性とネイティブアプリの機能性を兼ね備えています。ただしネイティブアプリほど全てのデバイス機能をフル活用できるわけではありません。
- 動作環境・利用方法:Web技術を用いつつ、ネイティブアプリに近い使用感を提供できる新しい技術です。ブラウザからアクセスし、ホーム画面にアイコンを追加することで、あたかもアプリのように利用できます。配布や利用にApp Storeなどの公式ストアを経由する必要はありません。
- 開発・メンテナンス:Web技術で開発されるためクロスプラットフォームに対応し、開発・運用コストを抑えられます。サーバ側で管理・更新するため、ユーザーは常に最新版を利用できます。
アプリ形式別の代表的な利用シーンとユーザー利用のシナリオ
それぞれのアプリ形式の主な利用シーンは以下の通りです。
ネイティブアプリは、高度なグラフィックスや複雑な操作性を要求されるゲームアプリ、リアルタイムでの位置情報連携が必要なナビゲーションアプリ、デバイスのカメラやセンサーを駆使するARアプリ、高頻度で利用されるSNSアプリなど、パフォーマンスと高度なデバイス固有機能の活用が最優先される場合に適しています。ユーザーは、スムーズな動作、オフライン利用、プッシュ通知によるタイムリーな情報提供といった体験を得られます。
Webアプリは、頻繁に情報更新を要するニュースサイトやブログ、eコマースサイト、業務管理ツールなど、手軽なアクセスとクロスプラットフォーム対応が重視される場合に多く用いられます。ユーザーはインストール不要で、どのデバイスからでも最新情報にアクセスできる利便性を享受できます。
ハイブリッドアプリは、コストを抑えつつ、ネイティブアプリのような機能をある程度提供したい場合に活用されます。例えば情報配信系の企業アプリや、Webコンテンツを中心にしつつプッシュ通知やカメラ連携などの限定的なネイティブ機能を利用したいシーンで活用されます。
PWAは、Webサイトへのアクセス性を保ちつつ、アプリのようなスムーズな動作やオフライン利用、プッシュ通知を実現したい場合に有効です。ニュースサイトやオンラインストアなど、ユーザーに継続的な利用を促したいWebサービスがPWAを採用する事例が増えています。
ネイティブアプリ開発のメリット・デメリット
ネイティブアプリを選択する際には、その高度な機能性と引き換えに発生するコストや複雑性を多角的に理解することが重要です。ここでは、ネイティブアプリ開発の具体的なメリットとデメリットを掘り下げて解説します。
- 快適な機能性を提供できる
- 端末のハードウェア機能をフル活用できる
- 最新のデバイス・OSに即した機能を提供できる
- 高いセキュリティレベルを確保できる
- オフラインでの利用も可能
- 開発コストが高い
- 開発期間が長くなる
- アップデートにユーザーの手間がかかる
- メンテナンス・運用負荷が高い
メリット:高度な操作性・端末機能活用ができる
ネイティブアプリの最大の魅力は、その高度な操作性と端末機能の最大限の活用が可能な点にあります。
快適な機能性を提供できる
ネイティブアプリは各OSに最適化されているため、スクロールやアニメーションが非常に滑らかで、タップやフリックに対する反応速度も速いです。これにより、ユーザーはストレスなく直感的にアプリを操作でき、高い顧客満足度につながります。例えば、ゲームアプリにおいては、繊細なタッチ操作やリアルタイムのグラフィック処理が求められるため、ネイティブアプリの高速な動作とレスポンスの良さが不可欠です。
端末のハードウェア機能をフル活用できる
ネイティブアプリは、スマートフォンのカメラ、GPS、マイク、加速度センサー、プッシュ通知、指紋認証などのデバイス固有の機能を直接呼び出して利用できます。これにより、位置情報を利用した地図アプリ、カメラを使ったAR(拡張現実)アプリ、音声入力アプリ、リアルタイムで通知を送信するアプリなど、デバイスならではの高度でユニークな機能を実現できます。これはWebアプリでは実現が難しい、ネイティブアプリならではの強みです。
最新のデバイス・OSに即した機能を提供できる
OSや端末のアップデートに合わせて、最新のSDK(Software Development Kit)を利用することで、新たなハードウェア機能やOSの機能をいち早くアプリに取り込むことができます。これによりユーザーは常に最新の技術を利用できるアプリを利用でき、競争優位性を確立しやすくなります。
メリット:セキュリティ・オフライン利用で優位性がある
ネイティブアプリはセキュリティ面やオフライン利用においてもWebアプリに比べて優位性があります。
高いセキュリティレベルを確保できる
ネイティブアプリは、App StoreやGoogle Playなどのアプリストアを通じて提供されます。これらのストアでは、アプリの公開前に厳格な審査が行われ、セキュリティ基準を満たしているか、悪質なコードが含まれていないかなどがチェックされます。また、アプリがデバイスの保護された環境内にインストールされるため、外部からの不正アクセスやウイルス感染のリスクを比較的低く抑えられます。これにより、金融系アプリなど、高いセキュリティが求められるサービスにおいて信頼性を確保できます。
オフラインでの利用が可能
ネイティブアプリは一度インストールすれば、インターネット接続がないオフライン環境でも多くの機能を利用できます。例えば、地下鉄内や飛行機内、電波の届きにくい場所でも、ダウンロード済みのコンテンツ閲覧や一部の機能操作が可能です。これにより、ユーザーはネットワーク環境に左右されずにアプリを利用できるため、利便性が向上します。
デメリット:開発・維持に高コストと複雑性が伴う
一方で、ネイティブアプリの開発・維持には、高コストと複雑性が伴うデメリットがあります。
開発コストが高い
ネイティブアプリはiOSとAndroidなど、各OSに合わせた個別の開発が必要です。それぞれ異なるプログラミング言語(iOSならSwiftやObjective-C、AndroidならJavaやKotlinなど)や開発環境を使用するため、両方のOSに対応するアプリを開発する場合、実質的に二重の開発が必要となり、開発費用が高額になります。専門知識を持つエンジニアの人件費も高くなる傾向があります。
開発期間が長くなる傾向がある
各OSごとの個別開発に加え、アプリストアの厳格な審査を通過する必要があるため、企画からリリースまでの期間が長くなる傾向にあります。審査基準への準拠や修正対応に時間がかかることも少なくありません。
アップデートにユーザーの手間がかかる
Webアプリとは異なり、ネイティブアプリのアップデートはアプリストアを通じて行われ、ユーザーが手動で更新する必要があります。このため、すべてのユーザーが最新バージョンをすぐに利用するわけではなく、新機能の提供やバグ修正の反映にタイムラグが生じる可能性があります。古いバージョンを使い続けるユーザーへのサポートも課題となります。
メンテナンス・運用負荷が高い
OSのバージョンアップや新端末の登場に合わせて、アプリの互換性維持や新機能への対応を行う必要があります。これにより、継続的なメンテナンスコストが発生し、運用負荷も高くなります。また、アプリストアのガイドライン変更にも随時対応しなければなりません。
ノーコード・ローコード開発(SaaS)という選択肢:新時代の最適解
この章ではアプリの個別開発に課題を持つIT・情報システム部門の担当者向けに、ノーコード・ローコード開発やSaaS活用がどのように課題解決に貢献するのかを解説します。現場の多様な要求に対し、コストとリソースを効率的に活用しながら全社最適化を図るための現実解と設計ポイントを提示します。
この1ページで解決!ノーコード開発・ローコード開発ツールの選び方完全ガイド
ノーコード・ローコード開発ツールの特徴
近年、IT人材不足が深刻化し、多くの企業でDX推進が求められる中で、クラウド(SaaS)型の「ノーコード・ローコード開発プラットフォーム」の活用が注目されています。これらは、従来のシステム開発とは異なるアプローチで、迅速かつ効率的なアプリ開発・システム導入を可能にします。
SaaS(Software as a Service)とは、ソフトウェアをインターネット経由でサービスとして利用する形態です。ユーザーはソフトウェアをインストールすることなく、Webブラウザを通じて利用します。提供ベンダーがシステムの運用・保守・管理を行うため、自社でサーバーやソフトウェアを管理する手間やコストを削減できる特徴を持ち、特定の業務・機能に特化したサービスから汎用的な開発プラットフォームなどまで幅広く提供されています。
ノーコード開発ツール
プログラミング知識不要で、ドラッグ&ドロップなどの直感的なGUI(グラフィカル・ユーザーインタフェース)操作のみでアプリケーションやWebシステムを開発できるプラットフォームです。あらかじめ用意された部品(フォーム、ワークフロー部品など)を組み合わせることで、専門知識なしに自由度の高いシステム構築が実現します。開発スピードが非常に速く、ビジネス部門の担当者自身が業務に必要なアプリを自作できる「市民開発」を促進します。
ローコード開発ツール
最小限のコーディング(一部コード記述)でアプリケーションを開発できるプラットフォームです。ノーコードツールよりも高い柔軟性やカスタマイズ性を持ち、API連携や関数を駆使して高度な機能追加や外部システム連携に対応可能です。従来のシステム開発とノーコード開発の橋渡し役として機能し、技術部門の業務効率を大幅に改善します。
これらの選択肢は、情報システム部門が直面する「乱立するアプリ開発要求」や「コストとリソースの両立圧力」といった課題に対する新しい解決策となりえます。
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ローコード/ノーコード開発ツールの主要製品と適応シーン(Adalo, Bubble, Kintone 他)
ノーコード・ローコード/SaaSには多種多様なツールが存在し、それぞれ得意とする領域や機能が異なります。情報システム部門は現場の要求やビジネス要件に合わせて適するツールを考察・選定していきましょう。(製品名 abc順/2025年7月時点)
Adalo
公式サイト:https://www.adalo.com/
モバイルアプリケーション開発に特化したノーコードツールです。ビジュアルエディターを使ってiOSやAndroid向けのアプリを簡単に作成でき、デザインや機能のカスタマイズも可能です。顧客向けモバイルアプリやイベントアプリなど、モバイルに特化したシンプルなアプリを迅速に立ち上げたい場合に適しています。
Bubble
公式サイト:https://bubble.io/
Webアプリケーション構築に特化した強力なノーコードプラットフォームです。ドラッグ&ドロップインターフェースで、複雑なロジックを持つWebアプリケーションをプログラミングなしで開発できます。予約システム、マッチングサイト、社内ツールなど、多機能なWebベースのサービス開発に適しています。
































