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中村彰憲氏に聞く中国オンラインゲーム市場動向(後編)

» 2004年02月26日 17時05分 公開
[RBB Today]
RBB Today

 研究者という立場から、中立的な視点で巨大な中国市場を調査し続けている中村彰憲氏にお話をうかがった。後半では中国進出が期待される日本企業などについてうかがっている。

 これからの傾向はいかがでしょう?

 ひとつには、いままでの武侠もののパッケージRPGとして出ていたゲームをオンラインゲーム化するという動きです。中国の「剣侠情縁」がオンライン化されたほか、台湾の「仙剣奇侠伝」や「新絶代雙驕」がこれからオンラインゲーム化されるなど、続々と出てくるところです。

 もうひとつ期待されているのが日本のゲームですね。ファイナルファンタジーXI(FFXI)は中国では非常に期待されています。また、コーエーさんの大航海時代とか信長の野望などが出てくるんじゃないかと期待してる人もいるようです。

―― 武侠モノということだと、コーエーさんはいいかもしれませんね

 そうですね。三国志のMMORPGは出てはいるのですが、キラーソフトがないんですね。2000〜2001年の一時期はトップテンに入ったりもしていたのですが、ゲーム性が悪くてだめでした。先ほど触れた「鉄血三国」(前編にて掲載)は、三国志のオンラインものとしてかなり期待されています。

 個人的には、信長の野望Onlineを作っているコーエーさんが、三国志もののキラーソフトを作ってくれれば、ということを期待してますが。

―― いよいよ日本のゲームメーカーの出番ということになりますか

 盛大さんも、ボーステックに出資して銀河英雄伝説のオンラインを出すということで期待が集まってます。銀河英雄伝説は、中国でも小説とか海賊版のビデオCDとかで有名になっていましたから。海賊版という形ですでに知名度の上がっているコンテンツを、オンラインゲームというビジネスの成り立つ形で提供することで、ビジネス好機になるのではないかと思います。

 ファイナルファンタジーについてもすでに認知度は高くて、ゲームはやらなくても攻略本を見て知ってるんですね。ビジュアルのインパクトがあるので、それで好きになっちゃう人もいるんでしょう。

 そうなってくると問題なのは、FFXIのようなハイスペックPCを必要とするコンテンツを中国のネットカフェで出せるかどうかですが、そこで鍵になるのが大規模ネットカフェチェーン店でしょう。FFXIや信長の野望ONLINEなどで、日本ゲームベンダーと中国ネットカフェ事業者のWIN-WINのコラボレーションができるかどうかが要で、それができれば日本のオンラインゲームが爆発的にいくのではないかと思います。

 中国だからスペックを下げよう、ではなくて、すでにスペックの高いコンピュータは存在しているわけですから、大規模化をはかるネットカフェチェーン店とどういうふうにコラボレーションを組んでいくかが、日本企業にとって真剣に考えていかなければならない選択肢でしょう。

 インターネットカフェというのは中国において版権を回収できる可能性がある一つの場で、付加価値があればユーザはちゃんとお金を払う、ということが分かったわけです。これは、中国において版権・著作権ビジネスをやっていく者にとっては非常に革命的なことです。今まではそれをさまたげる阻害要因があったからできなかったのであって、構築されているインフラがあればお客さんも納得して払う。これによって利益の分配も進み、投資も集まって正の循環が進んでいくことになるわけです。

―― 先生がご覧になられてコンソール機、家庭用ゲーム機というのはいかがでしょう。苦戦すると思われますか?

 価格で負けているところがありますね。PlayStation2本体はグレー市場で流通するものよりやや安いのですが、非正規のものはMODチップでリージョンフリー化され、海賊版や最新版が遊べるといった状況です。正規ルートで「三国無双II」の政府認可を受けているうちに、海賊版では「戦国無双」が出てしまいますよ。そういう社会の中で、どう売っていくのか、ということですね。

 ただ、一番重要なのは、そうやって中国の市場に食い込むことで、中国の政府と確固たる関係を築いていくことなんですね。中国では、遊技・玩具などの嗜好品について輸出入に制限がかかっています。社会主義的自由経済ということで政府の力は当然強く、政府との関係を築いていくことが大事なのは、ゲームに限らず自動車であれ何であれ、どんなブランドでも同じです。これから市場開放が進むといわれていても権限は政府にあるわけで、中国が共産主義であることを理解した上で各メーカーは臨む必要があります。

―― そういう意味では、韓国系の企業は積極的ですね

 中国には朝鮮族が存在していてローカリゼーションがしやすいなど、進出しやすい・受け入れやすい土壌がある、というのはありますが、韓国はiPark(韓国情報通信部が各国に設立している韓国企業の支援拠点)を上海や北京に設立して、共存共栄を打ち出しつつ韓国デベロッパーと中国のゲームサービスプロバイダーとのマッチングをやるなど、地道な努力をしていく中で、中国政府との関係を築く努力をしています。

 こうした努力は日本もこれから積極的にやっていく必要はあるでしょうね。

―― 日本だとJETROでしょうか。でも、JETROはちょっとコンテンツ分野は弱いですよね

 弱いですね。コンテンツに限らなくても、IT分野に特化したJETRO的な別動部隊があれば非常にやりやすいと思います。韓国のiParkは、完全にIT分野に特化したJETROみたいな存在なんですよ。韓国政府の外郭団体で、かつITに特化することで、ゲーム産業とソフトウェア産業の中国への進出を手伝っているのです。

 日本も、経済産業省のいうように、これからはコンテンツ産業が重点分野だと認めているのであれば、そうした裏方としての役割を政府が果たせばと思うんですが。

―― 先生がご覧になって、これから注目の企業というとどのあたりになりますか?

 アジアに進出している日本企業としては、神遊機を展開してる任天堂、そしてスクウェア・エニックスですね。

 スクウェア・エニックスについては、現在「超武侠大戦」というゲームを作っていまして、台湾の方で展開が進んでいます。これは中国やアジアの市場のために日本のクリエイターが作っているということで、新しい動きです。また、最近「オールコンテンツプリペイドカード」というのを始めたという点でも注目しています。これまではゲームごとにプリペイドカードを売るのが一般的でしたので、今後「超武侠大戦」などコンテンツが増えてきたときにどうなるか、ですね。

 このほかだとコーエーさん。信長の野望Onlineを出すかどうか。また、三国志のオンラインゲームを展開できれば中国でのキラータイトルになりうると思います。

―― では韓国・中国の企業ではどうでしょう

 韓国ではNCソフトさんですね。リネージュはランキングで10位前後だったので、今回リネージュIIでどうなるか注目しています。

 中国では盛大ネットワークです。ずっとナンバーワンでしたし、あらたなコンテンツでのすそ野の拡大も注目です。

 現在のところ、韓国のゲームを展開する中国の企業が成功している、という図式ですね。盛大さんもそうですし、ナインシティという「MU(日本名:ミュー〜奇蹟の大地〜)」を運営しているところもそうです。新浪(sina.com)とNCソフトがリネージュIIで巻き返せるか、というところです。

―― ありがとうございました

(聞き手はIRI-CT代表取締役 宮川洋)