今日も東京の地下を人知れずヤツが掘り進む。彼の名は「沈黙のシールドマシン」。地底40メートルを巨大な圧力(土圧)と戦いながら進んでいくトンネル掘削ロボットだ。
普段、掘削ロボットは光を浴びることなく黙々と地中を進む。しかし、「沈黙のシールドマシン展」と名付けられた展示では、これから1500メートルにも及ぶ掘削に挑む、“彼”の勇姿が一般に公開された。
うなれカッター! 響けシールドジャッキ! 土圧に負けず掘り進むのだ!
彼の本名は「1T810018」。日比谷共同溝事業というプロジェクトのために生を受けたカスタムメイドのトンネル掘削ロボットだ。重量は450トン(山手線車両15両分)、直径は7.47メートル(ジャンボジェットの直径は約6.5メートル)というから、大型トラックなど軽く上回る大きさ。
5000トンの推進力で、1日約10メートルを掘り進む。東京タワー下の地盤にかかる重量が4000トンというから、彼を垂直に据え付ければ東京タワーすら持ち上げることができるパワフルなマシンだ。
得意技は泥水式シールド工法。シールド工法とは、掘削機を地中前方に押し出して掘り進み、その後方で鉄や鉄筋コンクリートのブロックを組み立てながらトンネルを造る工法。泥水式シールド工法では、削り出すカッターへ泥水を噴射して掘削の安定を図る。
内部にはジャイロを搭載し、縦横10ミリの精度で設定した経路を進む。各所に自動化が進められており、地上のコントロールセンターにて、監視およびコントロールはワンマンで行われる。単なる掘削機械ではなく、“ロボット”と称されるゆえんだ。
彼が挑む日比谷共同溝事業とは、虎ノ門から桜田門を経由した日比谷までの約1500メートルに、水道・電気・ガス・通信など各種のライフラインを収納する大規模トンネルを建造するもの。この1500メートルを、彼は450日あまりをかけて掘り進んでいく。
実際の掘削は5月上旬からの予定だが、本日、“進水式”ともいえる「発進目撃式」が虎ノ門の立杭で行われた。これは、東京の地下インフラを一般公開する 「東京ジオサイトプロジェクト」の一環でもある。
目撃式の参加には600名以上の応募があったそうだが、会場の都合もあり、一般の参加者は60名に限定された。
目撃式は、施工責任者や組み立て責任者など、地底で働く男たちが思いを述べたほか、“彼”からのメッセージも読み上げられた。そののち、カウントダウンが行われ、地底40メートルは大量の紙テープやフラッシュ、スポットライトで彩られた。
目撃式自体は終了したが、4月24日も10時から16時までの間、立杭内部を見学できる。立杭内では、シールドマシン細部をじっくりと見学できるほか、この現場に携わる人々の写真展「地底の男たち写真展」や、掘削部分を解説するパネル展示が行われる。また、共同溝の一部を使用して、地底を始めとした都市の情景を撮り続けるカメラマン 内山英明氏の写真展示も行われる。
地底40メートルの空間に鎮座するのは、重量は450トン・直径7.47メートルの巨大メカ。非日常的な空間の中で、非日常的な大きさの彼が作り出すものは、上下水道などのライフラインという、なんとも日常的なもの。そのギャップに新鮮な驚きを感じつつ、筆者はこんなことを考えていた。
ジャブロー建造も近いな…と。
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