テレビのアンテナ線などに使われる同軸ケーブルを使い、現在のFTTHを超える270Mbpsの伝送速度を実現する新しい通信技術「c.LINK」が、東京ビッグサイトで開催中の「ケーブルテレビ2004」に登場した。展示ブースは、松下電器産業とブロードネットマックス。松下はHDTVの伝送を前提としたホームネットワークを、またブロードネットマックスはマンションの構内ネットワークシステムを出展している。
c.LINKは、米Entropic Communicationsが開発した通信技術だ。今年1月5日にはc.LINKを推進する業界団体「MoCA」(Multimedia Over Coax Alliance)が設立され、松下は発足メンバーにも名を連ねている。なお、MoCAには米Cisco Systems、米comcast、東芝なども加盟しており、今年1月の「International CES」では、東芝と松下がそろってc.LINK機材を展示していた(関連記事を参照)。
展示内容が異なることからも分かるように、c.LINKでは主にホームネットワークと構内LANという2つの用途が検討されている。たとえば、集合住宅に高速なインターネット接続を提供する場合はイーサネットなどの配線を新規に敷設する必要があるが、古いRC造(鉄筋鉄骨コンクリート)のマンションでは新しい配線を通すだけの空間が確保されていないケースも多い。一方、テレビ共聴システムの同軸ケーブルは各世帯を確実にカバーしており、さらに既設の配線を活用できるため、大規模な工事が必要ないというメリットがある。
ホームネットワークも同様だ。無線LANが普及してきたとはいえ、RC造のような壁の厚い建物の場合、1階と2階を1つのアクセスポイントでカバーするのは難しい。その点、テレビのアンテナ線なら家を縦断しており、各フロアにまたがったホームネットワークを容易に構築できる。
松下電器産業は、今年4月から2カ月間にわたり、関西ケーブルネット(KCAN)と共同で集合住宅におけるc.LINKのフィールド実験を実施している(関連記事)。実験では、CATV局から集合住宅まで光ファイバーで接続する“FTTB”方式を採用。構内の共聴同軸ケーブルにc.LINK信号を多重して各世帯に高速インターネット接続を提供した。
また、宅内のホームネットワークにもc.LINKを適用し、「実効100Mbpsの高速伝送に成功した。HD品質の動画を3〜4本までなら問題なく伝送できることも確認できた」(松下電器産業、ITテクノロジーユニットIT第1開発グループの田中治主任技師)という。
ただし、c.LINKがいくら高速でも、CATV局から利用者宅に至るアクセス回線として利用することはあまり検討されていない。理由は単純で、「光ファイバーを延長したほうが安い」からだ。
CATVのHFCネットワークでは、光ファイバーから同軸ケーブルに変換された後にノードやアンプがいくつも存在している。これらは770MHzまでにしか対応できず、c.LINKを使うなら全て置き換える必要が生じる。ならば、ネットワークの途中まできている光ファイバーを家の前まで引っ張ってきたほうが手っ取り早く、コストも安いというわけだ。
c.LINKが高速な理由は、まず利用する周波数帯域の広さにある。たとえばケーブルモデムの主流となっているDOCSIS仕様の場合は、テレビ放送の1チャンネル分にあたる6MHz幅が上限となっているが、c.LINKはその8倍以上となる50MHzの周波数帯域を利用するという。
「現在のCATV(HFC)では770MHz以下を放送と通信で利用している。一方、CS放送やBS放送は1GHz以上。この隙間(900MHz帯)を使い、50MHzを確保する」(田中氏)。
なお、変調方式も従来のQAM方式とは異なる。詳細はMoCAの仕様が決まるまで“未定”だが、ブロードネットマックスによると、試作機ではOFDMを採用しているという。
気になるのは実用化の時期だが、松下では「2004年末にはMoCAの仕様が策定される見込み。来年以降、標準化などの問題が少ないホームネットワーク製品から投入していきたい」と話している。一方、FTTBや集合住宅向けのソリューションは、「標準化や運用規定の策定などにくわえ、CATV事業者との話し合いを経て、市場の動向を見ながら投入することになるだろう」。
とはいえ、同軸ケーブルで光ファイバーよりも高速な回線を提供できるc.LINKは、既にCATV事業者の注目を集めている模様だ。現在、CATVはFTTHとの競争にさらされており、いずれDOCSISの30〜40Mbpsでは対抗できなくなることは必至。このため、田中氏は「光ファイバーとc.LINKを組み合わせたFTTBの市場も“立ち上がり”は早いのではないか」と予想している。
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