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「リメイク」が日本型コンテンツ多展開の鍵になる(2/2 ページ)

» 2004年07月01日 13時50分 公開
[西正,ITmedia]
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 典型的な事例として挙げられるのが、昨年秋からフジテレビが開局45周年記念ドラマとして放送した「白い巨塔」の成功である。今から1年前に、どういうことが起こっていたかを見直してみれば、コンテンツの多元展開を行う上での教訓が得られるに違いない。

 「白い巨塔」はフジテレビが1978年にテレビドラマ化して放送したドラマである。山崎豊子氏の原作で、大学病院を舞台にした「野望&ヒューマンドラマ」として描かれた作品で、田宮二郎を主演に据えて制作された。それから25年の歳月を経て、唐沢寿明を主演としてリメイクされ、開局45周年記念ドラマに相応しい成功を収めた形になっている。

 リメイクというと、過去のヒット作を引き出してきて、現在のスタッフによって再制作するというイメージがあるが、「白い巨塔」が最初に放送された時には、あまり視聴率を取れなかったという事実が注目に値する。

 当時は土曜劇場の枠で放送されたのだが、視聴率は終始、一桁と二桁のギリギリのところで推移した。撮影終了後、放送終了前に、主演の田宮さんが自殺したということで、最後の二回は26%と28%を取ったものの、数字としては当たったとは言えないドラマだった。

 その後20年以上の時間が経過したところで、CS放送のペイ・チャンネルである「フジテレビ721」で放送したところ、好評だったことを受け、DVDのセットを販売したところ、何十億円という収益を上げることとなったのである。

 すなわち、現代社会における医療現場でのモラルの崩壊が顕著になってきたことを受けて、25年前の作品が改めて評価されたということになる。当時の制作費は一本が三千万円程度であったということで、全十六話でも七億二千万円の計算になる。金銭価値は変わっているにしても、十分に回収できたと評価されよう。25年前に創られたものが、改めて収益を計上できるところにこそ、コンテンツ・ビジネスの強さを感じさせられる。

 そして、リメイクがなされることになって、唐沢寿明主演の「白い巨塔」が作られることになったわけで、新たな顔ぶれによる作品も上々の評判であったことは記憶に新しい。

 コンテンツの多元展開という視点からすれば、ライブラリー化しておくことにより、社会情勢の変化、価値観の変化により、四半世紀を経たところで、新たなウインドウとしてのリメイクもあるということになる。こればかりは、テレビ放送の歴史からすれば、まさしく新たな展開と呼びうるのかもしれない。

 どのウインドウで稼いでくれるのかは、作品の性格にもよると思われるが、編成サイドの時代感覚がシャープであれば、ライブラリーの中から光るものを見つけてくることができる。

 今後はモバイル視聴といった新たなスタイルが登場することになる。そこに新たなウインドウが見出されることになる可能性も高い。ウインドウ自体のマルチ化も期待しうるところにコンテンツ・ビジネスの要諦があるということになるのかもしれない。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、潟IフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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