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ビジネスとして走り出したソニーの「イメージステーション」、だが……(3/3 ページ)

» 2004年07月08日 11時27分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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 blogがアメリカで流行った理由は、分かる気がする。自力でサイトを作る技量がなくても、個人サイトの持つべき必須項目をすべて備え、簡単に自己顕示欲を満たすことができるツールだったからだ。

 さらに相互引用とも言うべきトラックバックというシステムは、自分のblogへのルートを開拓してくれる。面白そうなことを書いていればそれが引用され、blogの世界で広まっていく。すなわち彼らの好きな主張と開拓が、ラクラクオートマチックセットになっているのである。

 だがそんなblogも、システムが日本に逆輸入されると、次第に従来のWebサイトの常識とは相容れないスタイルで定着することになる。つまり日本におけるblogとは、必ずしもみんなに見られたい、注目されたいという質のものではないのだ。

 筆者はあるツテから、女性デザイナー氏の個人的なmoblogサイトを見せてもらったことがある。そこにはケータイのカメラで撮影した彼女の好きなカエルグッツが、簡単なコメントとともに淡々とアップされているだけ。いたってシンプルなものだった。聞くと、そもそも彼女がこういうものを始めたきっかけは、「ケータイで撮った写真を、もしかしたら取っておけるかも」という単純な理由からだったという。

 だから書き込みはできるが、トラックバック機能は外してある。特に非公開というわけではないが、実際には彼女の友人だけしか知らないサイトである。というか驚いたことに、彼女自身も、彼女の友人のサイトにあるリンクからしか自分のサイトにはたどり着けない。

 更新はすべてケータイのメールで行ない、付けられたコメントを見るときだけPCを使う。いや、さっきも書いたとおり、自分のサイトにも直接行けないというヒトなので、それはそれで結構大変だったりするようである。

 リニューアル前のイメージステーションのキャッチフレーズ、「イメージで繋がろう」の本当の意味は、実はこういうことだったのではないか。写真を介して、ユルユルとつながっていく。本来はクローズドなところでやるべきことかもしれないが、そこにはメーリングリストやグループウェア、掲示板などでは得られない、何かがある。そもそもそれらのことがバリバリ率先してやれるタイプではなくても、moblogは広く門戸を開いている。文字で語る必要もない。

 そしてそこに物欲はない。そのカエルの置物がどこで買えるかといったギラギラした話には、決してならない。カエルがカワイく思えるのは、頭と胴体の比率が赤ちゃんと同じだからだというウンチクも必要ない。ただその写真が、「あーかわいー」として存在するだけだ。コミュニケーションというより、参加型アートに近い。

もう一度、イメージでつながろう

 Webという非物質の世界で、具体的な物流による商売を行なうのは、ビジネスモデルとしてオーソドックスだ。だがそれだけでは、「文化」を支えていることにはならない。

 イメージステーションは、確かに一時期、そういう「文化」を作ったのだ。モノやカタチではなく、行為や行動という意味での。ただ残念なことに、これが何らかのもうけを産むとは、筆者も約束できない。経済活動によってその存在を確立する企業としては、もうからないことに巨額の投資をする意義は、見出せないかもしれない。

 だが、どこかのカード会社のキャッチフレーズではないが、お金で買えない価値を、ソニーは旧イメージステーションで確かに買った。有料プリントサービスサイトになっても、筆者がまだなにかやってくれそうだとシツコク期待しているのも、その買い物の一部なのである。

 「イメージで繋がろう」に込められたメッセージの意味が、今みんなようやく、ボンヤリと分かり始めたところなのだ。

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