ITmedia NEWS >

次世代DVD競争――漁夫の利を狙うマイクロソフト?(2/3 ページ)

» 2004年07月29日 12時26分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 またも裏話になってしまうが、BDFに名を連ねる企業のうち主要5社とマイクロソフトの間では条件付きの合意がトップ同士の交渉で得られたとの、かなり確度の高い情報がある。BD-ROMにおけるアドバンスドコーデックにH.264/AVC FRExtと共にVC-9を採用することで、マイクロソフトがBDに対してもHD DVDに対しても、均等にOSのサポートを提供するというのが、合意の主な内容だとされている(ただし、まだ確定した話ではない)。

 当然、こうした交渉の経緯を矢嶋氏も知っているハズだ。そもそも、ほとんどのパソコン上で動作しているOSの次期バージョンで、サポートする、しないを現時点で持ち出し、HD DVDを公に支持するやり方にも疑問が残る。筆者は10年以上、マイクロソフトという企業の取材をしているが、今回のような経験は初めてだ。果たしてこれが、矢嶋氏の個人的な“意見”なのか、それともマイクロソフトの正式なコメントなのか、判断が付かないと思ったほどだ。

VC-9は本当に必要なのか?

 筆者はHD DVDを支持する立場にも、BDを支持する立場にもない。冒頭でも述べたように、記者会見の他の内容に関しては、ごく当然の主張を彼らは行っていた。これまであまりコメントされてこなかった、(HD DVDは)「HD DVD-Video(ROMメディア)中心に開発したものだ」という考えが新たに示されたことは興味深いが、それ以外に何か状況が動いたわけではない。

 しかし、矢嶋氏のコメントを聞くにつれ、VC-9は本当に必要なのだろうか?という疑問が沸いてきた。理由は四つある。

 VC-9はH.264に比べ、HD映像における画質が優秀とされていたが、その理由となっていた要素はH.264/AVC FRExtでも採用されている。H.264/AVC FRExtは、先日、MPEG委員会のJoint Video Teamで承認され、正式なMPEGの標準規格に組み込まれた。SMPTEにソースコードが公開されているVC-9は、そのアルゴリズムのほとんどがH.264/AVC FRExtと同じであることが分かっており、原理的には同一のコーデックである。

 また、H.264とVC-9の必須特許は、主要な部分でほぼ同じだ。必須特許数はややVC-9の方が少ないようだ。したがって、VC-9を製品に搭載することによる特許収入を得る企業もH.264とほぼ同じになる(両者ともMPEGLAが特許料を管理している)。つまり、両方のコーデックを搭載すると、同じ企業に対して2重に特許料を支払うことになる。

 マイクロソフトはMPEG委員会で主要な役割を担っており、しかもMPEG4の標準エンコーダ/デコーダをプログラムに実装したのはマイクロソフトだった。そのマイクロソフトが、ほとんど同じコーデックを別途開発していた点には矛盾も見られる。マイクロソフトは、H.264の別プロファイルとしてVC-9と同様のコーデックを実装しても良かったハズだ。ところが、全く別のコーデックにしてしまった。

 あまり知られていないが、VC-9にはまだインターレス映像ソース用のプロファイルが定義されていない。SMPTE(全米映画テレビジョン技術者協会)で現在審議中だが、これからインターレスの圧縮に関して取り組んでいく段階である。実際、記者会見で使われたNHKの1080iハイビジョン映像も、事前にI-P変換を行ったあとにプログレッシブ映像用のプロファイルで圧縮したものだという。つまり、まだ未完成のコーデックなのだ。

 確かにH.264/AVC FRExtが登場するまで、VC-9はHD映像向けのアドバンスドコーデックとして有力な技術だった。しかし、同等のプロファイルが定義され、しかもまだ未完成で、権利者も同じ、アルゴリズムも同じなのに、H.264と共に採用する理由はあるのだろうか?

 矢嶋氏は「これからの時代、インターネットとの親和性を考えればVC-9にアドバンテージがあるのは明らかだ」と話す。ではインターネットとの親和性とは何なのか?

VC-9はWindows Mediaの一部だが……?

 そうした疑問、それにVC-9は本当に次世代の光ディスクに必要なものなのかを直接、矢嶋氏にぶつけてみたところ「VC-9とWindows Mediaは同じものだ。よってインターネットとの親和性は高い。またH.264にも、VC-9が使っていた二つのテクニックが導入され、画質が上がったようだが、もともとはVC-9の方が高画質」と答えた。

 しかし、DRM(デジタル著作権管理)を包含したシステムのWindows Mediaと、その中から動画圧縮技術を抜き出したVC-9では意味が異なる。それを「同じ」と言い切るのは、マイクロソフトも策定に参加したAACSとVC-9を組み合わせることで、Windows Mediaの世界と次世代光ディスクの世界をストレートに結びつけたいとマイクロソフトが考えているからだろう。

 だが、DRMとコーデックは、それぞれ別の技術であることは言うまでもない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.