RealNetworksの「Harmony」技術をめぐる同社とApple Computerの論争は、法廷で解決しなくてはならなくなるのだろうか? 1人の弁護士は、Appleが選べる法的な選択肢は幾つかあるが、それぞれに同社と成長中のデジタル音楽市場にリスクを及ぼす可能性があると指摘している。
RealNetworksは先週、Real Music Storeの利用者が、同サービスで購入した楽曲をiPodに転送できるようにするHarmony技術を発表した(7月26日の記事参照)。AppleはiPodを固く守り、自社の音楽ストアのファイルにしか対応させていなかった。AppleはRealNetworksのこの動きを「ハッカーの戦術と倫理」と批判した。
Appleはまた、米デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に照らしてHarmonyの影響を調べているとRealNetworksに警告した。DMCAは1998年に成立した法律で、米著作権法を拡大してデジタルコンテンツに対応させている。RealNetworksは、DMCAにもいかなる法律にも違反していないと主張し、「iPodでどの音楽を再生するかを選ぶのは、Appleではなく消費者であるべきだ」としている。
「彼ら(RealNetworks)の行為は莫大なリスクをはらんでいる。それは疑う余地もない」とアトランタの法律事務所Thomas, Kayden, Horstemeyer & Risleyの共同経営者スコット・カルペッパー氏は語る。「Appleは同社に対して、何らかの法的措置を取るのではないかと思う。そうしない方が意外だ」
「RealNetworksが何をやったか次第だが、Appleが取り得る手段は幾つかある」と同氏。DMCA、一般的な著作権法、そしてAppleのiTunesのライセンスが関わってくる。
著作権、特許、DMCAを専門とするカルペッパー氏は、DMCAはデジタル権利管理(DRM)ソフトを回避しようとする行為を禁止していると説明する。同法はAppleにとって1つの手段となるかもしれないが、それはRealNetworksがどのような方法で自社ソフトをAppleのDRMに対応させたかによって左右される。
「(Harmony)システムの開発において、RealNetworksが実際にDRMを回避したのであれば、AppleはおそらくDMCAの下で何らかの手段を取れるだろう」(同氏)
ただしDMCAには、ソフト開発者が自社製品と他社製ソフトの互換性を確保することを認める条項がある。カルペッパー氏によると、AppleがDMCAを盾に訴訟を起こした場合、この条項がRealNetworksに勝利をもたらすかもしれない。
「DMCAでは、RealNetworksに幾つか逃げ道があるかもしれない。AppleのDRMをリバースエンジニアリングしたとしても、(RealNetworksは)自社ソフトとApple製品の互換性を確保することが目的だったと主張する可能性がある。それは妥当な申し立てだ。では、その主張でDMCAをくぐり抜けられるだろうか? それは分からない」(同氏)
しかしRealNetworksは、AppleのDRMシステム「FairPlay」をリバースエンジニアリングしたのではないと公言している。
「当社が行ったのはリバースエンジニアリングではない。(中略)ユーザーとiPodの間を移動する一般に入手可能なデータを調べた」とRealNetworksの音楽サービス担当責任者ショーン・リャン氏は先週ニューヨークで行われたJupiter Plug.IN Conferenceで話していた。
カルペッパー氏はまた、AppleがRealNetworksに対して従来の法律の下で著作侵害訴訟を起こす可能性も考慮しているが、これは裁判所がFairPlayをソフトとして定義するかどうかにかかってくる。
「Appleが、FairPlay自体に著作権があるという主張を持ち出してくる可能性はある。FairPlayは1つのソフトであり、RealNetworksのソフトは基本的に、DRM変換を行う際にFairPlayのコードを複製しているとAppleは申し立てるかもしれない。ここで問題となるのはRealNetworksのソフトの仕組みと、Appleが自社のDRMをどのように実装しているかだ」(同氏)
このほかAppleが取り得る手段としては、RealNetworksがソフトライセンスに反したという契約違反の申し立てがある。
「ユーザーはAppleのサイトからiTunesをダウンロードする際に、クリックライセンス契約に同意することを求められる。その一貫として、ユーザーは同ソフトをリバースエンジニアリングしないことに同意することになる。もう一度言うが、われわれはRealNetworksが実際何をやったかを知らない。しかし、同社は何かをリバースエンジニアリングせざるを得なかったのではないか、それにより、Appleとの(クリックライセンス)契約に違反したのではないかと思う。このため、Appleには契約という訴訟の根拠があるかもしれない」(カルペッパー氏)
RealNetworksが(もしかしたらそれ以外の企業も)iPodをハッキングして自社の楽曲ファイルと連係させるのを阻止するために、Appleが法的手段に訴えようとするのはほぼ確実だ。しかし、Appleが勝った場合、消費者や業界にどんな影響が出るだろうか?
「RealNetworksが負けた場合、同社に対して差し止め命令が発行されるだろう。損害賠償も発生するだろうが、おそらくは大きな額ではない。Appleが自社のDRM技術の著作権に関して訴訟を起こした場合は、従来の著作権法の下で法定損害賠償を要求できるかもしれない」とカルペッパー氏。
現時点では、Harmonyはリリースから日が浅いため、原告が認識している損害も大きくなく、損害賠償はあまり大きな額にならないと見られている。Appleが勝訴した場合、業界への影響としては、1社あるいは複数の企業のグループが楽曲と音楽プレーヤーを提供する「ソリューションモデル」が固まることが考えられる。
「業界ではユーザー囲い込みの枠組みが効果的に築かれることになる。iPodを買ったらiTunesを使う、といった図式ができあがる。そうしたシステムが当たり前になるだろう」(カルペッパー氏)
Appleが負けた場合、業界の仕組みが変わるのみならず、各社はその判決を利用して、実質的に音楽とDRMの交換所に転身するだろうとカルペッパー氏は示唆している。
「Appleが勝った場合はユーザーが持つハードとソフトが一致することになるが、RealNetworksが勝った場合は二度とそのような状態は起きないだろう。突然インターネット上に安価な音楽と特定のDRMの交換所ができ、各社は自社のDRMをユーザーのプレーヤーに対応した技術に変換するソフトを売るようになるだろう」と同氏。
ソフトメーカーは以前から、リバースエンジニアリングによって自社ソフトと他社ソフトの互換性を確保してきたが、リバースエンジニアリングという言葉は最近はむしろ「禁句」になりつつある。おまけに、各種関連法が制定されたときにはこのような事態は考慮に入れられていなかった。こうした事態を想定した法律もあるが、ほとんどは試されていない。
「わが国の知財システムは、こうした新しい技術の一部に対応できるように作られていない。こうした穴を埋めようとし始めると、今回のような問題にぶつかる」(カルペッパー氏)
DRM回避を禁じる条項があるにもかかわらず、DMCAでは企業がソフトの互換性を確保することを認めている。Harmonyは「独力で完全に合法な互換性の達成手段を開発するという確立された伝統に従っている」という先週のRealNetworksの声明は、この点を根拠にしたのかもしれない。
今回の件はDMCAの根幹を試すものになるかもしれず、AppleとRealNetworks以外に広く波及する可能性もある。
カルペッパー氏はこう語っている。「私の考えでは、これはAppleとRealNetworksだけの問題ではない。DMCA、そしてDRMで音声ファイルなど個々のソフトの使用を制限するやり方の中核に触れるものだ」
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