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TEPCOひかりは、“生活系光ファイバー”を目指すインタビュー

» 2004年11月04日 10時36分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

 ブロードバンド環境はもはや珍しいものではなくなった。“個人”として導入できる最高速のブロードバンド環境である光接続も、加入者は急速なペースで伸びている。だが、その一方で、ADSLも激しい速度競争の結果、50Mbps超をうたうサービスまで登場。一般的なユーザーなら、あえて光接続に乗り換える必要はないのではと思えるほどの速度になっている。

 しかし、東京電力 光ネットワーク・カンパニーの田代哲彦氏(ジェネラルマネージャー)は、ADSLなどのブロードバンド環境が普及した今だからこそ、ユーザーには光接続の真価を分かってもらえるはずだという。光接続サービス「TEPCOひかり」を提供する同社が、そう言い切る自信の背景を聞いた。

photo 東京電力 光ネットワーク・カンパニーの田代哲彦氏(ジェネラルマネージャー)

まずは“光じゃないと”という意識の浸透

 「メールとWeb閲覧だけでは、スピードをPRしてもどこかで限界がきてしまう。ADSLでは提供できない、光ならではの双方向高速性というメリットを生かしたサービスを提供することが必要になる」。田代氏は、ADSLの低価格・高速化が進んだ今、光接続も単純な速度だけではユーザーにアピールしきれなくなっている現状をこう分析。“光ならでは”とユーザーに思わせるサービスの開拓が重要だと話す。

 現在、この光接続のメリットを“分かりやすい形”で提供しているのがビデオチャットや在宅語学学習といったサービスだ。音声と映像をタイムラグなしにやりとりするには、高速かつ上下対象な接続が求められるからだ。この上下対象の高速な接続という点では、ADSLはどうしても光接続には敵わない。

 同社ではこの強みを生かすべく、casTY内のコンテンツ「ひかり荘」で個人放送局というサービスを提供しているほか、英会話教室「NOVA」の在宅英語学習サービス「お茶の間留学」にも6月から回線を提供している。

photo マイクロソフトの家庭用ゲーム機「Xbox」のオンラインサービス「Xbox Live!」では、11月25日からビデオチャットを楽しむこともできる。

 こうしたサービスは双方向高速性という光接続のメリットを最大限に生かすものだ。ただ、現時点で提供されているサービスは基本的に“ビデオチャット(TV電話)”に分類されるものばかりで、その種類も決して豊富とはいえない。田代氏もその点は認識している。

 「確かに(現状での)サービスのバリエーションは充分とは言えないかもしれない。だが、casTYやビデオチャット、在宅学習など、“光接続ならでは”というサービスが順次スタートしている。徐々にだが、“光じゃないと”という認識をユーザーに与えることができていると思う」(田代氏)

ライフラインとしての“光”を提供すること――電気と同等の信頼性を光に

 ただ、“光じゃないと”という認識をユーザーに与えても、提供エリアが狭かったり、ADSLに比べて割高な印象を与えてしまっては、ユーザーの光接続への乗り換えは進まない。田代氏によれば、この部分についての改善も、順次進めているという。

 まずエリアに関しては、現在400万世帯に提供している「TEPCOひかり」の提供エリアを更に拡大。今年度末をめどに群馬県前橋市や千葉県木更津市などをそのエリアに加える計画だ。これによって、800万世帯への提供が可能になる見通しだ。提供世帯がほぼ倍増する勘定だが、それでも田代氏は「まだ狭いと思っている」と述べ、更なる提供エリアの拡大を進める方針だという。

 価格についても、「今は品質の割には安いという値ごろ感でヘビーユーザーの支持を得ている」と現状を評価するが、ADSLからの乗換えを進め、TEPCOひかりを普及させるためには、「将来的には“ほどよい”料金設定も必要になるだろう」と、よりリーズナブルな価格設定を行う可能性を示唆する。

 同社では、こうしてユーザーの認知度を上げ、“光接続ならでは”というサービスの提供によって、TEPCOひかりの普及を図っていく方針だ。だが、それでユーザー数が増え、各種サービスの利用が進んでも、それが同社にとって最終的なゴールとはならない――田代氏はそう考えているという。「(TEPCOひかりの最終的なビジョンは)生活になくてはならない存在になることだ」(田代氏)。

 「当面のところはNOVAのようなサービスを増やし、光接続の魅力を増していくことが優先されるだろう。しかし、エンターテイメント性を前面に押し出していくことは、“電力会社の提供するサービス”として目指すところと少し違う」(同氏)

 インターネットは、PCだけでなく、STBや家電にも接続されるようになりつつあり、“第二の電気”ともいえるポジションを獲得しつつある。だが、信頼性という面ではまだまだというのが現状。接続が不安定だったり、速度が十分に出でなくても、“許されるサービス”というのが、ユーザー全般のインターネットに対する認識だ。その意味では、生活にとって“必要なもの”にはなってきたが、まだ生活に不可欠な“ライフライン”足りえてはいないといえるだろう。

 それゆえにこそ、田代氏は「電気のように安定したサービスの提供を行いたいという考えは常に持っている」ことを強調する。「インターネットがベストエフォートなのは(その仕組み上)仕方がない。だが、TEPCOのネットワーク内に関しては絶対に安定したIPサービスを提供していきたいと思っている」(同氏)

 同社は、長年の電力供給で培った安定供給のノウハウを光接続にも投入し、“IPネットワークというライフライン”を安定供給する企業として、その地位を確立することを目指しているという。また、将来的には電力会社ならでは提供方法として、電力とIPのセット販売も手がけたいと意欲を語る。

 「現在は許可条件の関係でそうした販売を行うことはできない。しかし、将来的には電気事業者の商品として、通信部分は光で、そのほかの部分はオール電化という提案の仕方ができればいいと思う」(田代氏)

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